別に真面目じゃない
「美良さん…無事だったんですね…」
ダメだ、涙が止まらない。おかしいな、俺ってこんなに泣き虫だったっけ?ボロボロと大粒の涙が…
「………」
美良さんは暗い顔で黙っている、無視?無視ですか?いやいや、きっと俺の声が小さかったからだ。美良さんがいた感動で声が出てなかったんだ。
そうだ…きっとそうに違いない、俺はもう一度美良さんの名前を呼ぶ。あぁやっぱり俺は泣き虫じゃなかった、涙は綺麗に止まった。
「そんな…どうしたんですか美良さん、怖い顔して…いつもみたいに笑ってくださいよ」
力ない声で言う、だってあの人が…あの優しい人がこんな事、俺には信じられない。
「………」
俺の心はズタボロになった、例えるなら風化に風化を重ねた岩をピサの斜塔から落とした結果のようだ。
「はっはっは…嫌われてんなぁ少年、その嬢ちゃんはお前なぞ知らねぇとよ」
ちくしょう、この外道め。挑発と分かっていても乗ってしまう、こいつは人をイライラさせる天才だ。
「うっさい…お前が……あなたが何か美良さんにしたんでしょう‼︎何をした…んですか、さっきと同じです、返答によっては」
「またヘナチョコ弾を俺に撃つってか?」
俺は言葉遣いに気をつけながらも、奴に対して怒りを爆発させている。もうこんな奴に丁寧語を使う必要なんてないか?いやいや、なんとなくだが言葉遣いだけはしっかりしないと。
「いいえ、撃ちません。切ります、今度は直接切りにかかります」
俺は止まった涙の残りを拭い、殺意を込めた眼差しでやつを見る。
「ふーん、そ。嬢ちゃん、こいつこんなに馬鹿だったのか?」
イライラするな、今すぐにでもこいつの命を…いや、やけにパワーアップしている美良さんの事を考えると、何か仕掛けがあるのかも。その辺を考慮して様子を見なくては。
「いいえ、馬鹿に知り合いはいません、朔日様」
初めて美良さんが口を開く、うっ…美良さんに言われると、イラつくというより悲しくなる。あんなに優しい人がこんな事…ちくしょう朔日…か?こんな奴に…
「朔日!かかってこい、前は負けたけどもう俺は前とは違います。前も守るべき人がいたけど、今はその人をもっと守らないといけないと思っているんです。負けるわけにはいかないんです」
完全に自分の世界に入っていた、ゆりさんと瑠璃さんは蚊帳の外、というよりどこにもいない。さっきまでいたのに…どこへ行ったんだ?
まあいい、今は精神テンションも上がっている、美良さんが変わって悲しいというより、美良さんを変えたこいつが許せないんだ。
悲しみ、恐怖はない、あるのは怒りと使命感。とりあえず1発殴んないと気が済まない。
「ほぉ…面白そうだが、嬢ちゃんやれよ、そっちの方がもっと面白そうだ」
なっ…こ、こいつ冗談じゃない、美良さんと戦う?しかも特訓じゃなくてマジもんの戦闘なんて…俺には無理だ。
しかし、俺の思いなど御構い無しに、目の前に攻撃態勢で現れた人。
「ハイ…朔日様」
美良さんはそう言って俺を蹴飛ばす、お腹に膝蹴りをくらった、激痛と吐き気が身体中を廻る。
「げ…はっ…‼︎」
お腹を押さえて苦しむ、がそんなものこの人にとってはどこ吹く風、次の攻撃が俺に入る。
次も蹴りだ、立ち上がった俺に上段蹴りを綺麗に決められた。
ありえない、美良さん…というより凪さんの部隊は遠距離特化、だから俺もそれなんだ。それしか教えてもらってないのもあるが。
しかし、今美良さんがやっているのはどう考えても達人級の格闘技、奴の…朔日の力か?
「くっ…ゆりさんも瑠璃さんもどこいったんですか、全く状況がまずすぎますよ…」
「………」
美良さんの無言が、精神的攻撃となり俺の心に大ダメージを与える、せめて何か言ってくださいよ。
考えている暇なんてなかった、俺は首を掴まれ持ち上げられる。しかも片手だ、もう片方の手は俺の顎に銃の形をして当てられている。
「死ね」
ここで初めて俺に言った言葉、『死ね』とそれだけ言って引き金を引く、尋常じゃない威力の魔力弾は、俺の脳を貫通して旋毛から出て行った。
もちろん死んだ、身体は力をなくしバタンと倒れる。俺の周りの雪が赤くなっていた。
ーー意識消失から5秒経過
「くっそー、美良さんに殺されるなんて夢にも思わなかったですよ」
俺は立ち上がる、さすがにこれは美良さんも外道も驚いている。美良さんは知っているはずなのに…大体わかってきた。
「…⁉︎なるほど、厄介」
それだけ言って美良さんは再び俺に攻撃を仕掛けてくる、もはや常時血に飢える殺人鬼のようだ。
「おーい、攻撃しないと勝てないよー」
どこからか瑠璃さんの声が聞こえてきた、そんな事言われても相手は美良さん、攻撃なんて…
それに俺は爆殺されない限りは復活を続ける、俺を殺せるのはキアレくらいだろう。
余計なことを考えていた所為だ、攻撃をガツンと1発、もちろんやられたのは俺、漫画のように首をトンとされる。その後は綺麗なコンボ、気絶からのまた脳をバン、再び雪が赤く染まる、本日2度目の死。
ーーさらに5秒後
「攻撃…か、やっぱりやらないとダメなんですかね」
またまた立ち上がる、でも美良さんに……そうか、俺は俺だ、いつも通りにやればいい。
刀を構える、そして挑発。
「いいですよやりましょう、あなたを助けるためです、美良さんは許してくれるでしょう。さあさっきのようにどうぞ?」
「………」
まあそうでしょうね、知ってました。多分俺の声は届かないだろう、俺が死ぬのを楽しそうに見ているあいつを倒すまでは。
でも攻撃は来た、おそらくそう命令されてるのだ。命令内容は…そう、俺の命だろう。何度殺しても無駄なのに。
美良さんの突進、それが来る前に俺は刀を振る、もちろん魔力を込めて。
「無駄…」
美良さんは簡単に、1+1の答えを求めるよりも簡単に避けた。
「オーケー、それがよかったです」
最初から美良さんは狙ってなかった、樅さんの時もそうだ、俺はルールなんて守ると言った覚えはない。美良さんと戦うなんて言ってない。
刀から放たれた追尾性十分の弾は外道向かって飛んでいく、さっきは美良さんが守っていた、だが今は突っ込んできているため、急いでも戻ることは不可能。
外道は少し笑った、美良さんは少し驚いた。驚いて攻撃も止まったおかげで、俺は外道に重力をかけることができた。
美良さんは知っているはずだが…言っておこう。
「騙すのが好きなんですよ…人が驚いている顔を見るのが」




