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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第4章 表があれば裏がある
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未だかつて

 師匠の教えと俺の実力がどれほど別世界の達人に通用するか試してみよう。

 さてと、どうするか…今、俺と瑠璃さんはお互いの出方をうかがっている。時折刀を振り上げてみたりしたが、瑠璃さんは動じない、それがどうしたと言いたそうに黙って動かずに見ている。

 ただし、俺も何の考えもなく意味のない行動はとらない、こうしている今も次の行動から生まれるシナリオを何パターンも予想している。

 その中で俺が1番と思ったシナリオをたどる、成功率は高いが、失敗した時に取り返しがつかないというデメリットがある。

 しかし、デメリットを恐れては何もできない、ここもカナンなんだから探せばあるはずだ。

「よし…これでいきますか」

 俺は確認するようにそう言う、その時ゆりさんが笑った気がした。俺が決着をつけようとしたのを感じ取ったのだろうか、お茶と最中はもうゆりさんのお腹の中だ。

「ふふん、あなたのデタラメな剣では私には勝てない。あなたは最初、何のために刀を手に取ったの?」

 瑠璃さんがそう訊いてきた、何ですか急に、せっかく終わらせようと思ったのに。

 実際、剣道も決まる時はすぐに決着がつく、瑠璃さんは剣の達人、終わらせようと思えばこの勝負は1分と続かなかっただろう。

 と、そんな事より瑠璃さんの質問だ。何の為に刀を手に取ったか…だったな。

「何の為…守るため、でしたね。あれがなければ俺は剣を握る事はなかったし、カナンに来る事もなかったでしょう。そう思えば今、こうしているのは刀が作ってくれたんですね」

 俺は思い出に耽る、今こうしている事が奇跡と、これからの希望が、刀によって作られたんだ。こんなにすごい事があるだろうか。

 宝くじが当たるよりも、徳川埋蔵金を見つけるよりも、この事がどれほど幸運か、俺は幸せ者だ。

 しかし、その事をあざ笑うように、

「そうか、やはりあなたは私に勝てない」

 瑠璃さんがそう言う、この人にとって俺の奇跡体験は、もはやゴミを捨てるのと同感覚なのだろう。

 瑠璃さんは続ける、

「私はあなたとは違う…守る為、私からしたら理由にもならない。生きる為、私は最初生きる為に剣を握った。あなたとは…いいえ、お前とは住む世界が違う、踏んできた場数が違う、覚悟の大きさが違う、守るべきものの大きさも…何もかも…」

 瑠璃さんは刀を強く握る、血が出るんじゃないか、と思うくらい強くだ。目はゆりさんに向いていた、瑠璃さんの言葉の奥と目線の意味は俺には全く分からない。ゆりさんが関係しているのだろうか、きっと…いや、必ずつらい過去があったんだ。

 こんな事を言うと性格が悪いと思われるだろうが、それこそ俺には関係ない、辛かったって今を楽しめばいい。

 だが、これだけは言いたい。

「瑠璃さん、守るべきものの大きさ……そんなものは無いんです。『誰かを守りたい』って思う気持ち、それだけでみんな同じ大きな器に、優しさや愛が表面張力ギリギリでいっぱいになってるんですよ」

「戯言を言うな!」

 瑠璃さんが怒りを含んだ声でそう言った、自分でもそう思う、何を言ってるんだ俺は…こんな事考えた事も無い、恥ずかしくなってきた。

「す、すみません……自分でも何言ってるか…」

「やかましい、次の一撃で終わらせてやる、首を刎ねてやる」

 まずい事を言ってしまったようだ、俺の戯言に瑠璃さんはカンカンだ。俺は後先考えずに物を言う事が多い、でも今回は本当に無意識だ、許してください。

「覚悟!」

 そんな事は関係無いと瑠璃さんが突撃してくる、足軽とは違い、勝つという自信があるから迫ってくるのだ。

 俺も刀を構える、シナリオを考えていた時からだいぶ時間が経っていた、さらに要素を追加したほうがいいのだけれどそんな時間は無い。

 不安要素はあるがそのままでいこう。

 瑠璃さんの剣撃が俺を襲う、最初は突き、次は横から、そして斬りあげ。

 右上から振り下ろす、1つ、そのまま左下から斬りあげる、2つ、最後にまた横から、3つ。三連斬りを繰り出してくる、俺は避けるしか無い、俺が考えたシチュエーションになるまで避けきるしか無い。

 再び瑠璃さんは三連斬りを繰り出す、1つ、2つ、3つ、避けるだけでは間に合わず刀を交わらせた。

「せいっ‼︎たぁ‼︎」

 掛け声とともに刀を振る、彼女の息は少しも切れていない、さらに言うと闇雲に剣を振っているわけでもない。

 瑠璃さんは本当に剣の達人だ、正確に俺の首を狙っている。が、それだけでは俺ばずっと首を守る、そうさせないために2、3回に1回だけ首を狙ってくる。

 その間隔は1回1回バラバラで、パターンは決まっていない。

 しかし、俺が待っているのは『突き』だ、それもかなり力を入れた突き。それさえしてくれれば俺は勝てる。

「ほらほら、逃げてばかりじゃおもしろくないわよ?」

 縁側でゆりさんが再びお茶を飲みながらそう言う、俺と瑠璃さんが長く会話していた時に台所で淹れてきたのだろう。死闘を見ながらお茶を飲む、ひどい趣味をしている。

「よそ見してる暇があるの…とどめ!」

 ゆりさんに目を取られていた俺にチャンスが来た、『突き』だ、大きな突きがきた、まさに今の俺はついている。

「そこだッ!」

 俺は自分の鞘を持つ、瑠璃さんの突きに合わせて俺の刀の鞘に瑠璃さんの刀をしまわせる。振りかぶり、力の入った突きで方向調整などは効かなかった。

「なっ…⁉︎」

 こんな事をする奴が今までいたのだとしたら、瑠璃さんはこれを警戒して突きは繰り出さなかっただろう。

 あとは簡単だ、鞘に入った刀なんていがから出た栗だ。瑠璃さんとの距離は非常に近い、俺は柄の部分を握って奪う。さっきまで刀をぶんぶん振っていた為、瑠璃さんの筋力は弱くなっていた。俺はそれを思い切り上に放り投げる。

 瑠璃さんは攻撃手段を失い後ろへ倒れた、そんな事はおかまい無し、俺は瑠璃さんに刀を向ける。

「チェックメイト…ですよ」

 放り投げた刀はまだ空にある。

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