それはないわよ
「おかえりなさい。どうだったの?」
案の定、モエミは私の家で勝手にお茶を淹れて飲んでいた。遠慮なんてあったものじゃない、まあ十年以上この家で一緒に住んでいたんだから、当然と言えば当然だ。今度から茶葉をどこかに隠しておこうかしら?
「おう、とりあえず私たちにもお茶淹れて…痛っ!」
「どうだったの?」
優しく聞いているが手は出ている。やはりマリには無駄な知識が多く、一般常識が足りていない。いつか痛い目を見るな。
「たたくことはないだろ。とりあえず、暴れてたやつはなんとかしたよ。でも縛ってるだけだから明日にはまた暴れるだろうね。後…」
マリが一分の狂いもなく、先ほどまでの出来事を伝える。なるほど、学習能力と一般常識はなくても、記憶能力はあるのか。心の中で軽くマリを馬鹿にしながら、私は自分とマリの分のお茶を淹れる。
「そう、じゃあ今日中になんとかしないとね。あなた達が町へ行ってる間、私なりにも調べてみたわよ」
「へぇ、それで何かわかったの?」
モエミの事だから期待はしていない、この人は色々と穴が多すぎる。この前なんてモエミが持ってきた事件の情報が間違いすぎていて、その所為で知らない人に迷惑をかけてしまった。しかし…
「ええもちろん。私の推理によると、今回の事件は外界人の仕業ね。最近3回もカナンに外界人が流れてきてるのそれと何か関係してるわ」
「相変わらず自信満々ね?本当なのそれ、何か関係あるの?」
実際信じられたものじゃない。最近たったの3回流れてきている、それだけで犯人扱いなんて。
「もちろん。だって2週間前に外界人が2人来てからその1週間後に1人、そして、2日前にまた1人流れてきてる…って聞いてるの?」
「ん?ああ聞いてる聞いてる。要するにいっぱい来てるんだろ?」
マリがお茶をすすりながら答える。そうなんだけどね、とモエミは呆れ顔だ。
私の中で大体の情報がまとまる、そして1つの答えにたどり着いた。
「大体わかったわ。つまり風ちゃんの様子がおかしくなった日と、家出した日がその外界人が来た日が一致するんでしょ?おばさんの話ではおかしくなりだしたのは1週間前らしいから」
「その通り、さすが白花ちゃん。ここからは私の想像なんだけど、町で起こった事件は何かの毒物によるものだと思うの。普通に生活してそんな病気になる事はないもの。そしてそれを撒いているのが最近来た外界人で、一番最初に影響を受けたのが風ちゃんってわけ」
なるほど、モエミにしては考えている。少し見直した。
「でもさすがに日が一致したのは偶然じゃない?だって2週間で3回と4人でしょ?よくあるんじゃないの?」
見直しはしたが、私の性格上色々と難癖つけたくなる。でも正直な私の感覚でそう思う、が実際はどうなのだろう。
「それがおかしいのよ。今までカナンに流れてくる外界人は、多くても一ヶ月に一人程度なの」
初耳だ、私は今まで外界人はぽんぽんとカナンに来るもんだと思っていた。じゃあ2週間前に来た2人は、一体何なのか聞こうとすると、
「2週間前に来た奴らは多分偵察かな」
マリが言った、話聞いてたんだ。
「多分ね。で、なんらかの手段で連絡を取った後で実行犯が来たってわけよ!どう?完璧でしょう!」
「まあ無理はないわね」
そう言ったけど嘘だ、大体連絡をなんとかして、という時点で無理がある。でも今のモエミは、マリの言うところの『ノリノリ』というやつだ。そこに水を差せばまた面倒くさいことになる。
「よし、話はまとまったな。じゃあ私は家に帰る!」
「ちょっと、手伝ってくれるんじゃなかったの?」
そうだ、話に集中してた所為ですっかり忘れていた。この事件は、今日中になんとかしなければならなかったんだ。マリは魔力のほとんどが無くなったから、私がこの仕事をしなければならない。
そんなの嫌だ、昨日もやったのにまた私とは関係のない外界人を傷つけたくはない。
「んなこと言われても無理だ。私の能力…『度を超えた睡眠』知ってんだろ?私の場合、普通に生活してても魔力は回復しないんだから、そろそろ2日くらい寝て過ごさないとダメなの」
なんてことなの…私としたことがマリの能力の事を忘れていた。これを何も知らない人が聞けば、何だこいつと思うだろう。でも私はこのぐうたら宣言を理解できる。
「はぁ…本当に緊急時に使えない能力ね、それ。1週間分くらい貯めなさいよ、1週間寝続けなさいよ」
「無茶言うなよ、そんなに貯めたら…分かってんだろ。ハクにも魔力の限界がある、私は自分の魔力を超えて貯蓄できるけど…さっきの拘束魔法がな、あれに全部持ってかれた…」
私は絶望する、またこのどうでもいい世界を、命をかけて守らなくてはならないということに。
「あら、どうしたの?元気が無いわよ白花ちゃん?」 わざとらしくモエミが私に尋ねてくる。
でもその声は私には聞こえなかった。人の声など聞こえないくらい絶望していたからだ。
「じゃあ外界人の居場所は私が調べておくから、わかったらまたくるわね」「頑張れよ。夢の中で応援してるよ」
モエミとマリは、多分こんな意味であろう言葉を私に言って去っていった。