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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第4章 表があれば裏がある
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子供っぽい

「いい?ルールはさっき言った通り、遠距離攻撃なしの一騎打ちね。遠距離攻撃を使った場合あなたにはここから出て行ってもらうわ。シオン、あなた刀は使えるかしら?」

「あぁはい、一応剣道をやってましたから」

「そう、なら良かったわ。瑠璃は剣の達人だけど遠距離攻撃はできないのよ、刀が使えるのならきっといい勝負が見られるわ」

 俺はあったかい布団の中でさっきの会話を思い出していた、やはり冬は布団の中が一番だ。と、そうではない、なんだか厄介なことになってしまった。

 午前と午後とは仕事があるから美良さんを捜しに行けないから夜行こうと思ってたのに…初日からこんなんじゃ先が思いやられる。

 こうしている間にも美良さんは…いけないいけない、前向きに考えるんだ、悪い方向にに考えるのであれば桶屋が儲かるの話並みに考えられる。生まれた時はずっと後ろ向きに考えていた、その時の名残だろうか。

「もういい寝る、寝て忘れよう」

 美良さんの事は大丈夫だ、必ず俺が助けるから。心配する事なんて無い、何日かすればまたいつものように一緒に薬を届けに行くのだ。

 そういえば胡桃さんたちはどうしているだろう、俺たちがいなくなった事を心配しているだろうか、心配してくれているだろうか。

 そんな事を考えていたら、俺はいつの間にか眠っていたらしい、朝起きて枕が濡れているのに気がついた。


「おはよう、朝ごはん出来てるよ」

 午前6時、ゆりさんと瑠璃さんはすでに座って俺が起きるのを待っていた、瑠璃さんが作ったのであろうみそ汁が湯気を立てている。

「ほら早く座りなよ、朝は特に冷えるからおみそ汁が冷めちゃうよ」

 瑠璃さんは昨日の辛い辛い言ってた前に比べて変わった気がする、落ち着いてはいるが少し大人しくなったというか、丸くなったというかそんな印象だ。

 俺に弱みを握られたと思っているのだろうか、今までのクールな感じを続けにくいのだろう。俺は別に辛いのが苦手くらいで笑ったりはしないけど、瑠璃さんにとっては大問題なのだろう。

「あっ、ありがとうございます…」

 俺は瑠璃さんの作った朝ご飯を食べる、美味しい、優しくて温かい味だ。こういうのをおふくろの味とか言うのだろう、俺には母親なんていないからよくわからないが。

 しかしまあこれから決闘があるらしいのにこの落ち着き具合はどうもしっくりこない、嵐の前の静けさというやつなのか、それとも決闘なんて本当はやらないのではないか。そのくらい落ち着いている、みそ汁をすする音が聞こえるくらい静かだ。

「あ…」

 ゆりさんが初めて口を開く、まるで何かを思い出したかのように、あ…、と言った。

「忘れてたけど決闘場所は庭ね、座ってお茶を飲みながら見たいのよ」

 あ…、と俺はゆりさんと同じようにそう言った。やっぱり決闘はあるんだ、このまま仕事して夜に美良さんを捜す、っていう流れが俺の頭の中にあったのに。

「分かりました、お茶菓子も準備してしておきます」

 瑠璃さんは少し昨日のクールな感じに戻ってそう言った、俺にとってはこっちの瑠璃さんの方がしっくりくる。

「本当にやるんですか、俺はやらなきゃいけない事があるし、瑠璃さんも辛いの苦手な事なんて別にいいじゃないですか、可愛いと思いますよ?」

 この一言がまずかったらしい、

「五月蝿い、私はこの世で1番辛い物が嫌いなんだ。2番目はそれを可愛いと言われる事だ、どうせ子供っぽいとか思っているんだろう、私は子供じゃない」

 と、怒られてしまった。どうやっても決闘は避けられないらしい。

「さあさあ、口喧嘩はそのくらいにして、早くご飯食べて初めてね。食べた後すぐに運動するのは良くないから9時頃に始めましょうか」

 約3時間後、ゆりさんにより決められた時間は、俺にとって何か利益があるのだろうか、美良さんを見つける手がかりになるのだろうか。

 俺は鮭の塩焼きを食べながらそう考えた。


ーー午前9時 決闘の時間

「あのー、本当にやるんですか?」

「当たり前だ、私の1番嫌いな物を食べさせた罰だ、往生際が悪いにもほどがあるぞ」

 だからそれは知らなかったわけであって…だめだ、瑠璃さん全然聞いてくれない。俺の右手には日本刀が握られている、竹刀とは違いかなりの重量感がある。

 ゆりさんもゆりさんだ、縁側で防寒対策をして熱いお茶と最中が隣に置いてある。

 もっと緊張感というかなんというかそういう物を持ち合わせていないのか。胡桃さんや真知さんと比べると、見た目は大人っぽいのだが内面が少々子供っぽい。

 しかし大丈夫だろうか、竹刀は使った事あるけど真剣は初めてだ、重いしいつも通り動けるとは限らない。

「心音、剣というものはな、心で振る物なんだ。強くなりたいと思えば練習、剣を振る。強くなりたくなければ剣は振らない。試合に勝ちたいと思えば剣を振る、勝ちたくなければ振らない。わかるか、剣は自分の心を映す鏡なんだ」

 俺はふと師匠の言葉を思い出した。確かこの後まだ続きがあったような…なんだっけ、思い出せない。

 まあいい、剣は心で振るんだ、重いとかそんな事は関係ない。薄紙を持つように、薬草を持つように、心が不快と感じないグラムの世界、そこまで持って行くんだ。

 この刀は俺の一部だ、右手の延長だ。ただし傷つけるためではなく守る為に振る、守りたいと思う心で振る。

「さあ、始めようか。この恨み晴らしてやる」

 攻撃する強さより、何かを守ろうとする強さの方が強いという事を瑠璃さんに見せてやる。

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