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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第4章 表があれば裏がある
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辛くて辛い

からくてつらい、と読みます。

 俺はイライラしている、別に知らない場所で初対面の人に仕えているからではない、イライラの元が俺の心に根を張っているのだ。

 しかもそのイライラを栄養にしてさらに心を根がしめつける、気にしないのが一番なのだろうが…だめだ、心配で夜も眠れない。

「だったら寝ずに捜せ、お前は新入りだから午前も午後もしっかり働いてもらわないと困る」

「じゃあ今日はもう夕方ですから午後だけですね」

 辻斬…瑠璃さんは今さっき俺の上司になった、ゆりさんだけでなく瑠璃さんにも事情は伝えないと、と思い話したわけだ。主に美良さんを捜している事について。

 でも…いきなり雲行きがブラックなのだが。

「寝ずに働いたら死んじゃいますよ、それにやる事かがあるんですから」

「やる事があるなら率先して仕事を終わらせろ、それにお前は死なないのだろう?」

 どうやら俺に労働基準法は働かないようだ。そんな事はいい、瑠璃さんとゆりさんには俺が死なない事を事前に伝えておいた、樅さんのようにショックを受けたらいけないと思ったからだ。

 ところが瑠璃さんは少し驚いたものの、ゆりさんは「なるほどそれで…」と言っていた。納得されても困るのだが。

 まあいいか、考えたってわからない事はいくらでもある、わからないのなら気にしなければいい。

「何をぶつぶつと言っている、さっさと掃除をするぞ薬屋」

 薬屋じゃなくて心音…まあいいか、しかし俺はまあいいかばかり言ってるな、そのうち適当人間になってしまいそうだ。

「はーい、じゃあ俺は庭の掃除をしますので」

「ああ、しっかり頼むぞ薬屋」

 この人は本当に…


「寒い…布団が恋しい、こたつ…外にこたつは設置できないのですか…」

 忘れていた、カナンは夏でもこっちは冬なんだ。しかも庭が広い所為で木が無駄に多…いい感じに多い、枯葉の量も半端じゃない。

 瑠璃さんは今、部屋の掃除をしている。掃除機は空気を汚すからカナンには無い、あるのは箒だ。さっきゆりさんが飲んでいたお茶の葉の残りだろうか、それを畳の上に撒いて掃いている。

 俺もあんな風に何か小技があれば早く掃除が終わるのに、庭掃除の小技って何かあったか?いや、むしろ大技で一気に…

「しょうがない、時間かけたら怒られそうですし、枯葉をまとめますか」

 俺は屋敷全体の枯葉に上向きの重力をかける、三葉さんや樅さんは日常生活に能力を使っているんだ、今までその考えには反対だったが別に俺も使ってもいいだろう。そういう風に俺の考えは変わったのだ。

 浮かせた枯葉を重力で1箇所にまとめる、さつまいもがあったら焼き芋をするのにな。

「庭掃除終わりました、次はどこですか?」

「ああそうか、早かったな。そうだな…薬屋、お前料理は作れるか?晩御飯の用意を頼みたい」

「あーできますよ、了解しました」

 そうこなくっちゃ、得意分野の仕事ほど楽しいものはない。何がいいかな、寒いから温まるものがいいな。


「ゆりさん、晩御飯の準備できましたよ」

「はいはい、今行くわ」

 俺はゆりさんを呼ぶ、瑠璃さんはすでに座って待っていた。肉じゃがときんぴらごぼうとぬか漬けが食卓に並んでいる。

「あら美味しそう、あなたが作ったの?」

「ええまあ、冷めないうちにどうぞ」

 ゆりさんが肉じゃがに箸を伸ばす、無事に美味しいと言ってくれた。よかった、口に合わなかったらどうしようかと…

「あ、瑠璃さん、きんぴらごぼうはどうですか」

 俺はごぼうを食べた瑠璃さんに訊ねる。

「………」

「瑠璃さん?」

 瑠璃さんは箸をくわえたまま黙って動かなくなった、体が震えている。

「あらま…大変な事を…」

 大変な事?ゆりさんにそう言われる、俺なにかまずい事でもしたのか?それともきんぴらごぼうがまずかったのか?

「か…」

 瑠璃さんがそう言う、か?か、ってなんだ?ごぼうが固かったのか?

「か…か…辛い…」

 えっ…辛い?確かに温まるように鷹の爪は入れたが1つだけだ、それで辛いってどんだけ弱いんだ。

「水…水ちょうだい…」

 瑠璃さんが泣きながら力なくそう言うので急いで水を渡した、それを一気に飲み干すと、

「うっ…まだ辛い…」

 とそう言うのだ。

「瑠璃はね、異常なまでに辛いものがだめなの。甘党っていうのもあるんだけど、さすがにここまで酷いとは誰も思わないわよね」

 とゆりさんは瑠璃さんが辛さで涙を流しているのを見ながら笑顔で教えてくれた。そんな場合じゃないでしょうに、瑠璃さんはあーあー言いながら辛い辛いと訴えている。

「辛い…私をいじめるためだな…」

 瑠璃さんがようやく辛い以外のまともな言葉を言う、ただし内容はまともではなかった。

「違いますよ!俺は瑠璃さんが辛いの苦手って知らなくて…言ってくれたら唐辛子なんて入れませんでしたよ」

「嘘だ…こんなに辛くするなんて私をいじめる為としか思えない…薬屋のバカー!」

 まるで子供みたいだ、俺は別に苦手なピーマンを食べろ、みたいな事は言ってないし、唐辛子だって入れたのは1つだけだ。それなのにバカって…そこまで言うか?

「おい薬屋!今すぐ…いや、明日私と勝負しろ!この恨み晴らしてやる…辛い…」

「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ、なんでそうなるんですか!」

 今すぐではなく明日と言ったのは辛さが抜けていなかったからであろう、しかしこれは困った、ゆりさんなにか言ってくださいよ。

「あら面白そう、折角だからルールとか決めて決闘みたいにすればいいんじゃないかしら?わたしは見学させてもらうわ」

「止めてくださいよ!俺は早く美良さんを…」

「あら?生きていく中で娯楽は大切なのよ、こんな面白い事なかなか無いもの」

 なんでこんな事に…俺は美良さんと謎の男を捜さなければならないのに…誰か助けてくれ。

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