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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第4章 表があれば裏がある
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何かあった今日

「さあさあ早くバイトを見つけよう!夢の薬は…」

「すぐそこなんでしょ、いつも引っ込み思案で臆病な美良さんがどうしてこんなに張り切っているんですか?」

「聞きたい?」

「いえ、遠慮しておきます、また今度聞かせてください」

 俺と美良は町まできた、いつもなら片道20分くらいかけてゆっくり向かっているのだが今回は10分で来た。因みに前に俺が芋羊羹を買いに来た時は重力を弄っていた為、往復で10分かからなかった。

 しかしバイト…いや、モニターだろうか、そんな事をやってくれる人がいるのだろうか。農業をしたことはないが、農薬というものは敬遠されるものではないのか。

 そこら辺の心配をしながら俺と美良さんは手分けして、ではなく2人で一緒にモニターを探した。美良さんが夢の薬に熱くなって説明が無茶苦茶になってはいけないと考えたからだ。

 まずは八百屋さんで情報収集だ、確か『野香』って店があったはずだ、そこへ行ってみよう。


「農薬ですか?ダメダメ、うちの野菜は全部無農薬が売りだから、農家さんを教えるわけにはいかないね」

「で…でもむ、無農薬ってたい、大変じゃない?あん安全でおいおい…美味しい野菜ががが、つく作れるよ…」

 ガッチガチだ、さっきまでの勢いは何処へやら、久しぶりこんな美良さんを見た、やはり初対面は厳しいのだろうか。

「あのー、じゃあ農薬使ってる農家さんを知りませんか?そちらに頼んでみるので」

「そうだね、確かあっちの方に米を作ってるところがあったかな。あそこは少量だけど農薬使ってるよ」

 そう言って八百屋の女の子は左方向を指す、そういえばあっちの方は畑がいくつかあったな、俺とした事が美良さんをとめるのに必死で忘れていた。

「そそそ、そうですか…ありありがととう…」

「すみませんね、この人は極度の人見知りなんです」

 女の子は、はぁ、と言って大丈夫かな、といった顔で美良さんを見た。多分大丈夫です。

「そうだ、そこの米農家さんはちょっと変わり者だから気をつけてね」

 この町には変わり者が多い、それは重々承知しているが…農家さんまで変わり者とは。

 ありがとうございます、と今度は俺が美良さんを引っ張って農家さんの家へ向かった。


「ほらほらシオン急いで、早くしないと日が暮れるよ!」

「まだお昼もきてませんよ、日は暮れません」

 さっきまでの美良さんはどこかへ行った、忙しい人だまったく。まぁ俺もそんな美良さんが嫌いではない。

 この辺りは美良さんの受け持ちの範囲だが、占い師探しの時に何度か来た事がある、その時に畑を見たのだ。

 そう考えているとあっという間に農家さんの家に着いた、ここは置き薬を買ってもらっていないので美良さんは早速ビビっている。

「すみませーん、どなたかいらっしゃいませんかー?」

 俺はそんな美良さんを横目に戸を叩きながらそう言う、もしかして美良さんと俺の仕事の割合が3:7なのは、薬を勧める段階で人見知りが発動して、多くの人に買ってもらえなかったからではないだろうか。

「はいはい、どちら様?」

 戸をガラッと開けて人が出てくる、俺は中から出てきた人を知っていた。いや、知っているなんてものじゃない、友達だ。

「おや、シオンじゃないか、どうしたんだ一体」

「樅さんじゃないですか、ここって樅さんの家なんですか?」

 そう、中から出てきたのは松香 樅その人であった。驚いたな、まさか樅さんが米農家をしていたなんて。

「あぁ、うちは根っからの農家だ。もちろん三葉はここにはいないぞ、多分占い師の仕事をしてるか召喚術の練習してるか…」

「へーそうなんですか、前から気になってたんですがなぜ2人別れて暮らしてるんですか?」

 樅さんは少し躊躇ったが俺に話してくれた。

「それはな、俺の親…つまり三葉の親だな、お袋と親父は能力を持ってないんだ、それでなんとなくだが親父が三葉を親戚に預けたんだと。俺の能力は農家向きでもあるからな」

 なるほど、確かに同じ作業の繰り返しなら樅さんの能力は使えるな、能力ってこんな日常な事に使うものなのかな。

「そんな事はいいだろ、何の用だ。そっちの彼女は?」

「あっ…あの!実は新しいのっ…農薬のモニターをしてくれれる方を探してまして…」

「それで八百屋さんから情報をもらってここまで来たわけです」

 美良さんが説明するが最後で俺が補足する、樅さんは笑って聞いてくれた。

「そうだな、お袋に相談してみるよ、多分許してくれるだろうぜ。シオンの事は信頼してるからな」

「そうですか!ありがとうございます。でもうちの店は責任問わないんで」

 恐ろしいな、と笑いながらも引き受けてくれた。

 数分後、樅さんが両親に相談して説得してくれた。どうやらオーケーだそうだ、これで胡桃さんにいい知らせを持って帰ることができそうだ。

「じゃあサンプルができたら持ってきますね。多分時間はかからないと思いますから」

「頼むよ」

 俺と美良さんは樅さんの家を後にし、胡桃さんに知らせるべく店へと向かう。


「よかったね!これでうまくいったら世の農家さん達は大喜びだよ!」

 店へと帰る途中、俺と美良さんはこんな話をした。

「そうですね、まさか樅さんが引き受けてくれるとは思っていませんでした」

 そうだねー、と笑いながら美良さんが言う、この笑顔が本当の美良さんなのだ、初めて見た時は眩しかった、今はかなり親しくなっているが出会った時は能力で視力を奪われたな、それも今はいい思い出だ。

「じゃあ帰ったらお茶にしますか」

「さんせーい!早く帰ろ」

「さて、無事に帰る事ができるかな?」

 何の前触れもなく声が聞こえた、次の瞬間俺達の目の前に黒い渦の様なものが現れる、それは真夜中の黒雲よりも黒く、昔のリアルな人形よりも不気味である。

「ご機嫌麗しゅう、おふたりさん?」

 1人の男がその黒い渦の中から出てくる、黒いマントを着て、さらにフードの様なものを被っているため顔はよく見えない。

 しかし一つだけわかる事がある、こいつは危険だという事だ。

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