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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第3章 能力は生活必需品
32/180

帰ったら帰ったで

第3章最終回です。

「心音君、1ヶ月間本当にありがとうございました」

 修行が終わった日、三葉さんがお礼の言葉をくれた。

「そんな、俺はほとんど何もやってませんよ。アドバイスとかしてただけでやったのは全部三葉さんです」

「そんな事ないよ、心音君はいっつもあたしの事を気にかけてくれた、どうすればあたしが上達するかずっと考えてくれた、アドバイスだけじゃないよ、1ヶ月間も山籠りなんて無謀な挑戦をしていたあたしの心の支えになってくれたの。本当にありがとう、大好きな師匠」

 急に恥ずかしくなった、俺は本当にアドバイスをしていただけなのに、こんなにたくさんの言葉を貰えるなんて勿体無い。

「山籠り不安だったんですか」

 恥ずかしさと嬉しさがごちゃまぜになり、困った俺は話題を変える。

「当たり前でしょ、心音君がいてくれたおかげ」

 三葉さんが俺に抱きついてきた、また恥ずかしくなり顔が紅潮するのがわかる。やめてくれ、俺には心に決めた人が…

「さあさあ、なに2人でいい感じになってるの。私もいるの忘れないでよ」

 シルフが三葉さんの頭の上に乗り自分を主張する、本当に忘れてたけどナイスシルフ。

「もうっシルフさんたら、別にいい感じになんてなってないよ」

「そうです、ただの友達ですよ」

「友達じゃなくて弟子と師匠の関係!いや、でも友達だからね…うん」

 三葉さんはそう言うがどうもしっくりこない、俺は師匠って器じゃないし、俺には尊敬する師匠がいるからかその所為で違和感を感じるのか。

 俺はあの人には敵わない、心身ともにある強さと愛とも表現できる優しさを持っている、俺には無い物をあの人は持っている。その優しさに救われたし、その強さに感動した、師匠とはそんな人なんだ。

「できれば師匠はやめてください、恥ずかしいし俺はそんなにできた人間じゃないですから。いいじゃないですか、友達」

 申し訳なさそうに言うと三葉さんは渋々了承してくれた。師弟でも友達でも関係は変わらないって。

「そうだ三葉さん、今日家へ来ませんか?最近同じものしか食べてなかったでしょう、材料さえあればなんでもできますし、よかったら」

「うん、ありがとう。でも遠慮させてもらうよ、お兄ちゃんが待ってると思うから、ごめんね」

「いえいえ、樅さんも心配してるでしょうしその方がいいですね。元気な姿と成長した姿を早く見せてあげてください」

「うん、じゃあまた絶対に会おうね」


「ふーん、大変だったんだ」

 帰ってくるなり修行の話を聞かせてくれって美良さんに言われたから話したのに、帰ってきたのは冷たい返しだ。

「なんでそんな冷たい言い方なんですか」

「べつにー、私はこの1ヶ月シオンの仕事も引き受けてたのに2人でデートしてたなんてひどい、なんてこれっぽっちも思ってないから」

「だからデートじゃないですから、修行ですから。ね、美良さん機嫌直してくださいよ、次の1ヶ月は俺が美良さんの担当も引き受けますから」

 あらあら悪いねー、と美良さんは機嫌を直してくれた。みんなでいる時はおどおどしてて可愛いのに、2人でいるとこれだからな。

 まあ気を許してくれているって事だから別に悪い事ではないが、現金な人だ。

「あらシオン、帰ってたの」

「あ、胡桃さん、ただいま戻りました」

 胡桃さんの手には薬草が持たれている、きっと今から調合をするのだろう。

「そう、1ヶ月ってあっという間ね」

 それだけ言うと胡桃さんは自分の部屋へと向かった。おかえりもなにもない、俺ってこの店に必要なのかな。

「シオン、おかえりなさい、待ってたわよ」

「凪さん…」

 凪さんが一番最初におかえりって言ってくれた。よかった、ちょっと安心。

「さあ早く芋羊羹をちょうだい、お茶の準備もしてね」

 あっ…芋羊羹の事忘れてた。

「あのすみません、芋羊羹忘れてました」

「なんだじゃあ今すぐ買ってきて、早くね」

 はーい、と言い和菓子屋へと向かう、そもそもお金を持って行ってなかったのにどうやって買うのだ。

ーー10分後

「はぁ…はぁ…か、買ってきました…はぁ…」

 俺とした事が町からの帰りに飛んでくるのを忘れて走ってしまった、つくづく俺は緊急時に弱い。

 今日は一本まるまるが無かった為、カットされたものを4つ買ってきた、これで文句はないはずだ。

「おかえり…あら、4つしかないのね。1つ足りないわよ」

「じ、じゃあ…俺は…いいですから…皆さんで…食べてください…」

 なんで5ついるのだ、俺と美良さん、胡桃さん、凪さんで4人のはずだ。

沙奈さな、出てきなさい、お茶の時間よ」

「へーい、今行きまーす」

 そう言って沙奈と呼ばれた人が出てきた、新しい従業員だろうか、凪さんよりも小柄だ。

「ねえミラ、誰この人」

 沙奈さんが俺を見て美良さんに訊く、小さい割に態度はでかいな。

 美良さんは俺の事を沙奈さんに伝える、俺はそんな美良さんに聞かずあえて沙奈さんに直接聞く。なんかこの人苦手だ。この頃には息切れも回復していた。

「面倒くさいな、えーとね私は大神おおみわ 沙奈さな、この店の経営担当だからよろしく。とりあえず一年契約でね」

「経営担当、ですか?薬の値段は胡桃さんが決めていたのでは、今いくらで売ってるんですか」

 俺は薬の値段を見て驚愕した。

「高っ⁉︎ちょっと高すぎじゃないですか!前の2倍以上もしますよ」

「いいのいいの、その位の価値はあるし前が安すぎただけ。儲けを考えないと商売の世界では生きていけないの、別に騙してる訳じゃないし」

 この人大丈夫かな、確かに間違ってはないと思うけど胡桃さんは了承したのか。

 俺がそれを訊く、ええもちろん、との事だ。胡桃さんはお金のために薬を売ってる訳じゃないと思うけどな。

「それで、頼みがあるのよ」

 胡桃さんが奥から出てきてそう言う、どんな頼みだろう。

「町の人たちに言ってきてほしいの、作りすぎたからまた元の値段で提供する、ってね」

「っ⁉︎ちょっとクルミ、どういう意味なの」

「そのままの意味よ、別に私達は利益を求めてるわけじゃないから。でも一年契約だからちゃんと働いてもらうわよ」

 どうやら俺が羊羹を買いに行っている間に大量生産していたようだ、胡桃さん曰く、沙奈さんはお金にうるさいところがあるが経営のセンスはあるらしい、さすがは胡桃さんと言ったところか。

 兎にも角にも、修行が終わってまたいつも通りの生活が始まるわけだ。まずは美良さんから引き受けた1ヶ月分の仕事をしないとな。

以上で第3章終了となります。ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございます。

明日から第4章が始まります、ちょっとシリアスな感じになる予定です。

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