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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第3章 能力は生活必需品
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ずっと一緒に

「三葉…三葉なのか…」

「お兄ちゃん…なんでここにいるの」

 今現在、俺の目の前でとんでもない事が起こっている、なんという運命の巡り合わせか、はたまた悪魔の悪戯か。

 俺は三葉さんの為に薬を採りに行った、樅さんは三葉さんの為に復讐をしようとした、もし俺が本当に死んでいたらどうなったかな。俺を殺した後で三葉さんを見つけて樅さんを三葉さんが恨む、みたいな事になるのか。

「あの、樅さんの妹さんって三葉さんだったんですか?」

「三葉…よかった、三葉!」

 樅さんが泣きながら三葉さんの名前を連呼して抱きしめる、俺の言葉は聞こえていないようだ。当然何がなんだか分からない様子の三葉さんである。

「ちょっとお兄ちゃんどうしたの…あ、心音君お薬ありがと」

 いえいえ、と必要最低限の言葉を返す。まだ安静にしてろなんて言える状況じゃないし、樅さんがこの状態だ。

「三葉!俺はお前が妖怪に連れていかれたって、もう死んでしまったって、よかった無事で…」

「何言ってるの、私が死ぬわけないでしょ、だいたい誰から聞いたのそんな事。私と心音君は今ここで修行してるの、この娘はシルフさん、私の精霊ともだち

 誰がお前の精霊ともだちだ、と以前のシルフなら言っただろう、が今は三葉さんの頭の上に乗って、よろしく、と樅さんに挨拶している。そういえば呼び方もお前から三葉、心音に変わったな、いつからだっけ。

「でさ、なんで心音君とお兄ちゃんが一緒にいるの?知りあい?」

「えっと…ああそうそう!さっき偶然そこで会ったんですよ、それで話してたら意気投合して今に至ります。ですよね、樅さん」

 余計な事は言わなくていい、といった感じの念を樅さんに言葉と一緒に送る。さっきまで死闘を繰り広げていた、なんて言ったらどうなるか。

 すると、そうそうその通り、と樅さんは察してくれた。

「ふーんそうなんだ、ねぇ心音君、今日はもう修行やめない?お兄ちゃんもいるし山の幸でご馳走作ってぱーっとしようよ」

「仕方ないですね、じゃあ食べ物採ってくるんで待っててください」

 個人的にもそうしたかった、今日は色々な事がありすぎて疲れたからだ、巨大シルフと覚醒三葉さん、樅さんとの戦い、謎の刀と薬研やげん、そして一番はあの薬の効果で刺殺されてからの再生だ。死ぬときの痛みが文字通り痛いほど分かった、出来ることなら2度と死にたくない。この力を多用するのはやめよう、できれば死なないようにしよう。

 その日の夜は焼きキノコに焼き栗、焼き魚と焼き物ばかりではあったがいつもより楽しい夕飯になった。

次の日、樅さんは三葉をよろしく、とだけ俺に言って帰っていった。


ーー修行25日目

「さあ、そろそろ修行の成果を見せてください。風は完全にコントロールできるようにはなりましたが、それだけでは少々不安ですからね」

「分かってるよ、だから今日はこうして川に来たんじゃない」

 1ヶ月の修行も今日を入れてあと6日、俺の予定では15日には三葉さんがかなり実力をつけていて、後は実践を積む為に組手、って感じだったんですけどね。

 いやいや、そんな事を思ってはいけない。三葉さんは大器晩成型、将来的に最高の召喚士サマナーになれる。

 あの時見た巨大シルフ、これが何よりの証拠だ。

水精霊ウンディーネよ、汝の姿を現せ。そして我に力を貸したまえ」

 三葉さんが静かに言葉を紡ぐ、それは昔に比べより召喚士サマナーらしくなったと言える。

 ふと、三葉さんと出会ってから今日までの出来事が重い返される、最初は無茶苦茶な人だと思っていた、でも日を重ねるごとに印象は変わってきた。俺は今この人を信頼している、やればできる人だと思っている、大切な友達だと思っている。

 そんな大切な友達の能力についてさらに分かった事がある、今まで三葉さんの能力が発動した時、それは言葉と周りの状態が一致した時限定で起こったという事だ。

 シルフが召喚された時、そこにはそよそよとした風があった。攻撃方法が欲しいと言った時、ライターの火程度しかコントロールできなかったし、当たり付きのお菓子が10回くらい連続で当たった時、そこには約10個の当たりがあった。

 つまり逆だ、逆を考えればそよ風程度だから豆大福シルフだったし、元々ある程度の力があったから木に穴を開ける事ができた。そして当たり付きのお菓子がそれ以上なければ、当たれと言っても当たるわけがない。

 三葉さんの能力は場とリンクしている、以前、水精霊ウンディーネを召喚しようとした時に現れたのはただの水の塊だった。ここは一年中秋の金秋山きんしゅうざん、空気は乾燥しているし周りに水もなかった。

 だったら辺りに水があれば恐らく、

 川の水が人の形を作りだす、それほど大きくはないが三葉さんより少し小さく、俺より少し大きいくらいだ。

「ウンディーネ、さん?」

「ええ、わたくしを呼び出したのは貴女?」

 見た目もだが性格もシルフとは違う、大人の精霊って感じだ。

「やぁエリク、久しぶりだね」

 シルフがウンディーネに話しかける、エリク、彼女の名前だろうか。

「あらシルフ、どこへ行ってらしたの、捜しましたわよ」

 ゴメンゴメン、とシルフは謝る。

「あのウンディーネさん、ウンディーネさんの名前はエリクっていうの?」

 三葉さんが訊く、

「ええそう、わたくしの名前はエリク、それがいかがなさいました?」

「じゃあこのシルフさんの名前はなんていうの?」

 げっ、とシルフが困った顔をしている。何かあるのか知らないが俺も気になっていた、どんな名前なのかな。

「そうね、この娘に名前はありませんわ。わたくし達精霊は一流の精霊になった証として大精霊様から名前をいただくの、その娘はまだ半人前ですから名前はないの。それにこの娘はまだ小さいですからね」

「ちょっ、ばか!なんで言っちゃうの!」

 俺と三葉さんの冷たい目線がシルフに向けられる、大きな事言ってたけれどまだ子供なのか、元々小さい姿だったらしい。可愛いところあるじゃないか。

「あっ、でもエリク、シルフはこの三葉さんと修行して2メートルくらいの大きさになって暴風を発生させた事があったんですよ」

 俺の言葉にエリクは驚き、三葉さんをじっと見つめる。

「そうなの、あなた見所がありそうね。いいわ、わたくしの事はいつでも召喚んで、なんだか面白そうですから。今日は帰らせていただくわ」

 ウンディーネは精霊の住処へ帰るそうだ、三葉さんが慌ててエリクをとめようとする。

「あっ、シルフさんも一緒に連れていっ…」

「三葉!」

 シルフが三葉さんの言葉を遮る、

「いいんだ、私ずっと三葉と一緒にいたい」

 エリクは優しい笑顔を見せ、住処へと消えていった。

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