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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第3章 能力は生活必需品
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痛いが死なぬ

「さて、第2ラウンドといきますか?」

「くそっ!妖怪め…貴様何をした!」

 驚いてる驚いてる、死者が蘇るという自然の摂理を無視している為、仕方のない事だろう。

「別に特別な事は何も、強いて言うなら俺は元々死んでいる、ですかね」

 そう、俺は死んでいる。あの時胡桃さんから詳しく話を聞いた、あれは不死の薬らしい、もちろん不老不死ではない為歳はとる。ただ死なないという効果があるだけだ。

 胡桃さん曰く、痛みは感じるが一度死ねばそれもなくなる、溢れ出た血は体に吸収され、傷ついた体は治癒というより再生する。失われた魔力は通常の状態での最高値まで回復するが、永遠に歳を重ね、いずれ仙人にでも就職する、だそうだ。

「おのれ…妙な術でも使ったか」彼は明らかに動揺している、目が虚ろに見える「だが俺はまだ時間を覚えている。貴様が復活したところで…あ、あぁ…」

 強がり、怖がり、ついには自我が音を立て崩れ落ちる、感情が休む暇もなく働き続ける、きっと今の彼はそんな感じだ。この妖怪には勝てない、永遠に殺し続けても意味などない、何度でも何度でも溢れた血が死体に吸収され、また全快の化け物が目の前にいけしゃあしゃあと立ち上がる。どんな悪夢だ。

「さあ、どうしたんですか?第2ラウンドですよ。続きやりましょうよ」

 そう言いながら俺は右手に握られている刀を彼に向ける、あれ、こんな物どこから出てきたんだ?まあいい。

 彼を挑発すると力ない声で怒鳴る、

「うるさい…うるさいうるさいうるさい、黙れ黙れ黙れ、貴様なんか貴様なんか貴様…なんか…」

 こんな彼を見ていると、自分が悪の大魔王に見られているのではと思い辛くなってくる、精神は一度ひとたび一度ひとたび崩れれば再び形を取り戻すのに長い年月を要する。それが強ければ強いほどに。

 彼は妹の為に妖怪への復讐を誓った、その見せかけの強い精神は展示の終わったハリボテのように壊された。復讐の相手でもない人間の俺に、その体には傷も疲労もないし、もう強さもない。

「ごめんよ…兄ちゃんもうだめだ。すぐそっちに逝くよ、待っててな…」

 そう言ってナイフは彼の手から落ち、体はバタリと地につく、気絶したようだ。

「聞こえてないと思うから言いますが、俺は『死が目前』で何にも繋がらない、でしたね。しりとりなら『んなこと関係ねぇ』です」


第2ラウンドは始まらなかった。


 あーあ、なんか全快なのに疲れた。とりあえずこの人も連れて行きますか、ほっといて気がついたら自害、なんて事されたらたまらない。

 死なないのはいいけどすんごい痛かったな、この痛みはさっさと忘れよう。

 三葉さんの元へ戻ろうとした時、右手に握られていたはずの刀はいつの間にか無くなっていた。


「シルフ、三葉さんの様子は」

「今は寝てるよ、痛くない痛くない、って言って。能力使えたみたい」

「そうですか、よかった」

「それはいいんだけどその人誰?気絶してるみたいだけども」

 俺はシルフにさっきまでの出来事を話しながら薬を作り始める、へぇ大変だったね、とシルフはあっさり話を飲み込んだようだ。

「こんなもんかな」薬研やげんですり潰した薬草を見て言う、「シルフ、手伝ってください」

 俺はシルフに手伝いを頼む、何やら納得のいかない表情で、「ねぇ心音、そんな道具持ってたっけ」と訊いてきた。

「実は俺にもよく分からないんです、なんかポンって出てきました」

「ふーん、能力の応用かな?まあいいや」

 洞窟の奥で寝ている三葉さんに薬を塗る、本当は結構しみるのだが、ぐっすり眠っているようでなんともない。よし、これで起きる頃には治っているだろう。問題はこの人か。

「どうすんの、殺っちゃう?」

「馬鹿言わないでください、この人…樅さんでしたっけ、樅さんも辛いことがあったんです、何か力になれればいいんですが」

 数十秒ほど考えるが何もいい案が浮かばない、そうしている間に彼が目を覚ました。まずいな、面倒くさい事にならなければいいけど。

「うっ…ここは…?」

「ただの洞窟です、気分はどうですか」

 そうか、と彼は異様に落ち着いている、てっきりわーわー言いながら暴れだすと思ったが、なんにせよ助かった。


「すまなかったな、俺の早とちりでこんな事に」

 話を聞くと彼は今日から妖怪への復讐を始めようとして張り切りすぎていたようだ。そんな時に宙に浮いている俺をこの山で見て、妖怪てきだ、と思ったらしい。

 話してみるとなかなかいい人ですぐに打ち解けることができた、もしかしたらまだ生きているかもしれない、妹さんを探す手伝いをする、と言うと涙ながらにありがとう、と3回以上は言った。

 俺はこの人に謝りたい、俺は樅さんを能力的、身体的には強くても精神的に弱い人だと思っていた、なんと言って謝れば俺は赦されるんだ。

「ところで1ついいですか」

 言葉が見つからずに他の話をふる、訊きたいことがあったのは事実だ。

「なんだシオン、なんでも聞いてくれ」

「どうして最初に来たのがこの金秋山きんしゅうざんだったんですか?」

 やや間があって樅さんが口を開く、

「この山はな、妹が大好きな場所だったんだよ。俺と妹は家の事情で別々の親に育てられてね、たまに会ったらよく栗の実を妹と一緒に採りに来たんだ。これからいつ死ぬか分からない戦いが始まると思ったらどうしようもなくここに来たくてね、となっては思い出だがね」

 そうだったんですか、こう答えればいいのだろうか、あえて何も言わないでおこうと思ったが、不意にもう1つ質問をしてしまった。

「妹さんの名前は」

 なんでこんな事を訊いたのだろう、教えてもらったところでなんの意味もないのに、でもどうしても聞きたかったんだ。

 彼が名前を言いかけた時、奥から大きな欠伸が聞こえてきた、起きてきたんだ。

「心音君お腹すいた、今日のおやつは焼き栗が…いい…」

 傷痕の目立たなくなった三葉さんが樅さんを見て驚く、いきなり知らない人がいるんだ、そりゃ驚くだろう。

「三葉…三葉なのか?」

 おや、知り合いか。

「お兄ちゃん…なんでここにいるの」

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