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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第3章 能力は生活必需品
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過去に襲われる

「今お前を斬ったのは、3分48秒前の俺だ」

「なんだって、3分48秒前のあなた…過去から連れてきたって事ですか」

 いきなりの事で驚き、俺は地面へと降りる。背中を3箇所ほど斬られた、ナイフだったから傷はまだ浅かったものの、日本刀や棍棒が彼の武器だったらアウトだった。

「まあそんな感じだ、正確には『自分の過去を現在に映し出す』能力、もちろん現実としてだ。もし俺が木を切り倒そうとして一度斧を振ればもう俺が斧を持つ必要は無い。後は1秒、2秒前の俺を映し出せばその木は勝手に倒れるんだよ」

 話を聞くだけでわかる、恐ろしい能力だ、しかしそれよりも恐ろしいのは彼の記憶力、それがあってこその能力なんだ。もしこの人が遠距離攻撃を使えたらどうなっただろう、おそらくこの人に勝てる者はいなくなるだろう。

 しかしまずい、俺はこの人がどの辺でナイフを振っていたかを覚えていない。むやみに動けない、今いるここが安全とも分からない、もしかしたら能力を使っていないだけで今すぐ俺の頚動脈を斬る事ができるのでは、こいつは…強い。

「ピンチ…ってヤツですかね、今のこの状況ってのは」

「ピンチ?違うね、俺と出会った時点でお前の人生…いや、妖怪生は終わっている。ピンチってのは『チ』で終わる、すなわち『チャンス』に繋がるんだ。だがお前は今『死が目前』に迫っている、つまり何にも繋がらない」

 ちっ、長々と御託を並べちゃって、強者ってのは多くを語らないものだろう、それともこれは俺の偏見か。

「ちょっとイラッときましたが別にいいです、大体俺は人間だって何度言えば分かるんですか、もう3度目ですよ」

「やかましい、仮にお前が妖怪でなくても俺にハッタリをかまし、攻撃してきた罪は償ってもらう」

 そう言うと彼は近くの木の皮を思い切り剥ぎ、上へ投げる。彼の怒りの表れか、はたまた木の皮を剥ぐのが好きなのか、どちらにせよ俺はこの人に勝たなければならない。

 しかし状況は最悪、負傷した背中と三葉さんの風を防ぐ為に消費した大量の魔力、更に悲鳴を上げている右足とさっき受けた攻撃で失った溜まった左手の電気、この状況を打開するにはどうすれば…

「考えてもダメか、別にあなたを倒す必要は無い、気絶させれば済む話だ」

「舐めるなよ妖怪、人間様の復讐の力を見せてやる」

 彼がそう言うと俺の後ろに別の彼が出現する、やはりここにも準備していたか。俺は攻撃を避け、彼の過去に電気を流す。しかし現在の彼に変化は無い、やはり過去の行動が現在に実体として現れるだけで最終的にはただのビジョン、現在の彼とは何も関係が無い。

 そんな事を考えていたが避けた先がまずかった、その時には彼がそこに回り込んでナイフを突き立ててくる。

 俺は地を蹴ってまた空へと逃げる、焦って右足で蹴った為、痛みが全身を駆け巡る。

「お前さっきからおかしいぞ、右足の骨ヒビでもはいってんじゃないか?」

「ご心配どうも、どうやらそのようです」

 なるほど、骨にヒビがはいってたのか。知らなかったがそれを悟られないように対応する。

「まあいい、もともと敵じゃないが楽なのはいい事だ」

 そう言うと彼は執拗に右足を狙い攻撃を仕掛けてくるようになった、汚いやつだ。もちろんハッタリをかました俺が言えた事ではない。

 彼が空へと追いかけてくる、が、俺よりも高く飛んできた。そしてナイフを投げる、他に武器を隠し持っている様子はない、重力で落とすか…いや、ほっとけば下の木に刺さるだろう。俺はナイフをサッと避ける。

「避けたな、やはり妖怪は頭脳が足りない」

 彼はそう言う、正義をかぶった復讐心は人を変えるのか、それとも元々こういう性格なのか。

 更に彼の過去が俺を襲う、防戦一方だ。流れるような過去の攻撃に避けるしか方法が無い、避けながら本体に魔力弾や炎などの撃ち込んでみるがスルスル避けられる。

「避けろ避けろ。ほら、今のは7分15秒前の俺だ」

 すごく辛い、魔力も切れてきた。息切れする、冷や汗も出てくる、死ぬのは怖くないが痛いのは嫌だ。

 ひたすら避ける、何が何だか分からなくなってきた。攻撃するのも忘れてひたすら避ける。

「よし、自ら詰みに入ってくるとはバカなやつだ」

 よく聞こえなかった、詰みがなんとか言ったのか。

「2分50秒前の俺が詰みへの最初の一手だ」

 2分50秒前、あの人何してたっけ。

「…痛っ⁉︎」

 突然足にナイフが刺さる、下から飛んできたそれはまさかあの時の木の皮を剥いだ行動か、この事を見越していたのか、恐ろしいやつだ。

 驚いて下を見ていた俺に追撃がくる、右足を蹴られた、こいつに慈悲は無いのか。ヒビがはいっていただけの骨が完全に折れ、右足が変な方向に曲がってしまっている。痛みに耐え切れず地面へとゆっくり墜落していく、重力を弄って衝撃を少しでも和らげようとした結果だ。

「くそっ…まずいですね…」

「正解、計算通りの場所に落ちたな、チェックメイトだ」

 右足を庇いながらゆっくり立ち上がる、計算通りの場所?落ち葉が1箇所だけなくなり土が見えている、さっき俺が蹴って飛んだ場所か。


……⁉︎まずい、という事は⁉︎


「……ゲホッ、ゲホッ」

「ジャスト2分前の俺だ、そのまま死にな」

 心臓を刺される、俺が空へ逃げる前にナイフを突き立ててきた時の彼だ。左胸から血が溢れる、咳をするたび吐血する、息が苦しくなる、目が霞んでくる、前にもあったようなこの感覚、死ぬんだ。

 約4カ月で3回目の死、もう慣れてきたな。一体俺は何なんだ、死に慣れるなんてどんな化け物か死神か、もしかしたら本当に妖怪とか。

 俺はその場に力なく倒れる、前に倒れた為、ナイフが更に食い込んでくる、もう痛みは感じなかった。右足もなんともない。

「ふっ、口ほどにも無いやつ。さて、次はこいつの仲間だな」

 俺を足でひっくり返しナイフを回収した彼は、三葉さんを襲いに行くつもりだろう。今の俺にはどうする事もできない、が、


そろそろかな


「…?なんの光だ…なっ⁉︎」

 彼が驚いている、それはそうだろう、俺の死体が光っているんだ。

 光が辺り一帯を照らす、昼でも眩しいとわかる程の光、発しているのは俺だ、俺の死体だ。そう主張するようにさらに光は強くなる。


 輝きがおさまり、俺は立ち上がる。

 傷、疲労、魔力、すべて完全回復している。右足だって元どおりだ。これもすべてあの時の薬の効果。

「さて、第2ラウンドですか?」

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