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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第3章 能力は生活必需品
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恨みの強み

 痛い、こんな鋭い痛みは初めてだ。白花さんに肩を攻撃された時の何倍もの痛み、それが現在俺の右足を蝕んでいる。

 約4ヶ月生きている中で一番の痛みだ、これが通常の赤ちゃんだったならどれほど苦しいだろうか。

「確かこの辺にあったような…」

 俺は以前薬草を見つけた辺りに到着した。が、地面には降りずに少し浮いた状態で探す。ぶっちゃけ探しにくいが、痛みを少しでもなくすにはこうするしかないのだ。

 三葉さんはどうだろうか、俺と違い大量の血を流していた。痛いのかな、苦しいのかな、俺には分からない。ただ1つ分かるのは手当が必要だという事だ。

「あった、これだ」

 無事薬草を見つける、しかし何かがおかしい、まるで間違い探しをしているようだ。別に木が1本増えたとかそういう事じゃない、この辺りを包む空気というか雰囲気というか、そんなはっきりとしない何かが違う。

 きっと気のせいだ、早く戻って三葉さんの手当てをしないと、そう思い帰ろうと振り返った時だ、

「ねえ君、なんで浮いているんだい?」

 そこには少年がいてそう訊ねてきた、年はまた俺と同じくらいだろう。だが何か町の人とは違う雰囲気を醸し出している。

「ええちょっとですね、怪我をしてしまってですね」

「そう、それは大変だ。何とかしてあげるよ!」

 彼はいきなり襲いかかってくる、小刀…いやナイフか?それを俺に向かい突き立ててきた。

 間一髪のところでそれを躱す、変に体に力を入れたため右足に更に鋭い痛みが走る。

「何をするんですか、危ないじゃないですか⁉︎」

 そう言うと彼は人を馬鹿にしたようにハハハと笑い始めたのだ。

「危ない?それはこっちのセリフだ。死ねば痛みもなくなるだろう。人を襲う妖怪め、今すぐ退治してくれる!」

 何だって、俺が妖怪?冗談じゃないよ、確かに4ヶ月しか生きてなくて能力を持ってはいるけど俺は人間だ。それだけは間違いない。

「待ってください、俺は妖怪じゃないです。いま仲間が怪我をしていて…早く手当てをしに行かなきゃいけないんです!」

「黙れ!妖怪の分際で仲間だと?お前らにもそんな感情があったとは驚きだ。よし、じゃあお前を片付けたら次はそいつの番だ」

 ダメだ、話を聞いてくれそうな人じゃない、この人には俺が完全に妖怪に見えているらしい。なんとかして逃げ出すか、いや、もし逃げられたとして三葉さんの手当ての途中で襲われでもしたら大変だ。ここでなんとかするしかない。

「はぁ…なんでこうなるのかな」

「お、ついにやる気になったか?よしかかってきな、この松香まつか もみ、貴様ら全ての妖怪に復讐する」

 人の事を妖怪呼ばわりしておいてタダで済むと思わないでもらおうか。新能力の実験台にさせてあげよう。

 するといきなり彼はその場でナイフをブンブンと振り始めた、更にこちらに近づいて来るわけでもなく空を飛び、移動しながら様々な方向に向かってブンブン振る。俺はそれをマグロの解体ショーの様に黙って見ていた。

「さて、準備完了だ。むやみに動くとズタズタになるぜ」

 言っている意味が分からない、おそらくこの人の能力が関係しているはずだ。まずは相手の能力を探るところから始めるか。

 俺は両手に魔力を込める、右手には炎、左手には電気を発生させる。

「ほう、そいつが貴様の能力か。だが俺の能力の前では無意味、俺の能力に力とスピードはいらない、必要なのは記憶力だけだからな」

「余裕こいてるところ申し訳ないんですが、後ろ気をつけたほうがいいですよ?」

「なんだと?」

 敵が俺の忠告で振り返り後ろを確認する、今だ。

 俺は右手で地面を思い切り叩く、もちろん奴の後ろには何も仕掛けをしていない、ただのハッタリだ。

右手に纏わせていた炎が地を這うように進んでいく、その間左手は待機、更に魔力を込め電力を上げる。

「軽く炙れ、炎蛇レッドスネーク!」

 炎が敵を包もうとしたその時、

「さすがは妖怪、お前の頭脳がハッタリじゃないか」

 と、作戦はバレていた様ですんなりと避けられてしまった。

 敵は避けた先にあった木を蹴り、勢いをつけ俺に接近してきた。少々驚いたが距離があったため、こちらも難なく避ける事ができた。

 おそらくこの人はナイフで戦う接近戦タイプだ、遠距離攻撃は無いと思っておこう。

「なかなかいい動きですね、久しぶりですよ接近戦なんて」

 俺はカナンに来てからほぼ遠距離専門となっていた。その所為で近接攻撃に対応しにくくなってしまった。

「妖怪に褒められる筋合いは無い」

「冷たいですね、それに俺は妖怪じゃないですがなぜ妖怪を嫌うんです?」

「よかろう、教えてやろうじゃないか」

 彼は一瞬考えてから口を開いた、どうせ貴様に教える必要は無い、とか言いたかったんだろう。

「俺には妹がいる、世界でたった1人の大切な妹だ。その妹が約2週間前から行方不明になっている、俺は必死で情報を集めたさ、すると1つの有力な情報を掴んだ」

「妖怪に連れて行かれた、と」

 俺は予想で口を挟む、そうだ、と彼は答え続ける、

「その時さ、俺が妖怪を憎むようになったのは。復讐してやる、大事な宝を盗まれて黙っていられるわけがない!」

 彼の拳に力が入る、自分の話で怒りに満ちているようだ。

「それって悪いのはそいつじゃないですか、なぜ全ての妖怪を憎むんです?」

「どんな妖怪に連れて行かれたかは分からないんだよ、だったら全滅させれば問題無い」

 その発言に問題があるような気がするが大事な家族を失ったんだ、そうなってもおかしくはない、のか?

「だからまずはお前からだ、潔く死ねい」

 そう言って彼がまた突進してきた、左手の電気はかなり溜まったがあと少し溜めたい、俺は後ろに下がろうとするが足が痛い、これはもう捻ったとか打ったとかそんな痛みじゃない。何なんだこの痛みは。

 痛みに気を取られ敵が目の前まで来ていた、思わず俺は空へと逃げる。

「言っただろ、むやみに動くとズタズタになる、ってな」

 彼のその言葉の意味は未だに分からない、一体どんな能力なんだ。

 しかし次の瞬間、俺は嫌でも彼の能力を知ることになってしまった。

「…っ⁉︎」

 何が起こったのか分からなかった、分かったのは背中をナイフで斬られたという感覚、思わずその場から離れる。

 離れた先で俺が見たものはナイフをブンブン振る彼、ちょうど背中を斬られた位置にそいつはいた。しかし本人ではない、奴は今地上にいる、一体なんだこいつは…

 戸惑っている俺に向かい、彼はこう言った。


忘れているなメモリー・オブ・タイム…今お前を攻撃したのは、3分48秒前の俺だ」

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