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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第3章 能力は生活必需品
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風がくれた悲劇

ーー修行17日目


「どうしてこうなるんですか?」

「どうしてこうなるんだろうね」

 俺と三葉さんの目の前にあるのはただの水の塊、水精霊ウンディーネを召喚しようとした結果がこれだ。

 俺の新能力が発現してから1週間、その後の修行は楽なものだった。修行とは名ばかりのキャンプ、美良さんに戦闘の基礎を教えてもらっていた時はこんな事にはならなかった。

 俺の教え方が悪いのか、それとも俺が三葉さんに甘すぎるだけなのか、スパルタは好きじゃないからこうなるのは必然だった。

 修行が始まって2週間と数日、三葉さんの能力がはっきりとしたのが8日目、約10日も経ったのに未だ上達しない。三葉さん自身の攻撃が木に穴を開ける程度、充分と思うかもしれないがそういう問題ではない。

 俺が考えているのは魔力コントロールの最大値、三葉さんの本気が木に穴を開ける程度という事、人と比べるのは嫌いだが鞠さんの本気なら山くらい吹き飛ばせる。

 その最大値が自分の能力に比例するわけだから、今の三葉さんの最大がこの結果シルフとなる。

 もう少しコントロールができれば四精霊エレメンタルを自由に召喚し、操れるはずだ。

 やはり実際に戦闘というものを体に覚えさせるしかないのか、しかし俺と三葉さんの実力の差は明確、手を抜いたところで三葉さんが成長するとは思えないし、本気でやれば一瞬だ。

「シルフ、三葉さんはちゃんと修行してるんですよね?能力ちからを三葉さんの能力で増幅させる、って感じの事を毎日やってるんですよね?」

 そう、俺はこの1週間自分の新能力がどんなものかを模索し続けた。その所為で三葉さんの修行を見ることができなかったのだ。無責任だな。

「うん、ちゃんとやってるよ。でもさ、私2、3日前に気づいたんだよ」

「何にですか?」

「これってさ、三葉は魔力をくれるけど喋るだけじゃん?それで実際に攻撃してるのは私じゃん?これって私の修行になってない?」

 あ……

「そういえばそうだねー、気がつかなかった。じゃあなんで言ってくれなかったの?」

「だって私の風がかなり強力な物になってるんだもん、むしろ三葉の実力を上げるより私が強くなった方が良いんじゃない?」

 滅茶苦茶な話だが風が強くなっている?ちょっと気になるな。

「あのすみません、ちょっとそれ見せてくれませんか?」

「ん?あたしとシルフさんの合体技?私はいいけど…」

 三葉さんがシルフの返事を待つ、

「私もいいよ、やってあげる」

 よかった、了承してくれた。少なくともこの1週間で2人の仲は良くなっている。


「じゃあ心音君、見ててね。シルフさん本気でいくよ、心音君をビビらせてやろう」

 了解、とシルフは三葉の肩に乗り、目を閉じる。

シルフよ…我が魔力を媒介とし、その能力ちからを解放せよ…」

「仰せのままに…我が主人、吹きとべ…突風ウィンドブラスト‼︎」

 我が主人…か、2人の関係がそんな風になっていたとは。

 しかし、驚く俺を嘲笑うかのように、それは起こった。

 シルフが丸い光の球体となる、最初にシルフが召喚された時のように丸く輝き、次第にそれは大きくなる。

「なっ…三葉さん⁉︎一体何をしたんですか⁉︎」

「……」

 聞こえていない、技に集中している。今、三葉さんはナイフで軽く傷をつけられても気づかないだろう、それほど集中しているのが俺にも伝わってくる。

 木の高さ同じ、およそ2メートル程に大きくなった光球は、次第に人の形になっていく。

 まるで八頭身の女性のようなシルエット、あの発言が本当ならこれはシルフだ。

「やっちゃえシルフさん!」

 光が弾けて八頭身シルフが姿を現わす、美しい…これが本来の精霊、まるで神のようなオーラを纏っている。

 しかしまずい、豆大福2つ分シルフがかなりのちからを持っていた、だとしたらこいつは…

「受けきるしかない…か…」

 相手は風、だったらこっちも風で防ぐしかない、うまくいくだろうか。何しろ風は作り出したことがない、これ以上の不安要素がどこにあるだろうか。

 シルフが妖精特有の翼で風を作り出す、わずか一振りで辺り一帯の木が丸裸になった。

「くそっ!こうなりゃやけくそだ‼︎」

 俺の最大魔力を百分の一秒につぎ込む、そっちの方が力は出ると思ったからだ。

 俺の作戦はうまくいったが、強力な風と風がぶつかり、辺りに爆風が発生する、俺と三葉さんはそれに叩きつけられた。


「おい心音、三葉、大丈夫か⁉︎」

「うっ…いてて、俺は大丈夫です」

 俺を起こしてくれたのは豆大福シルフ、どうやら元の姿に戻ったらしい。いや、こっちが仮の姿か?

 いやそんなことはいい、なんとか助かった、爆風と一緒に飛んできた枝なんかを火で燃やしたから怪我をせずに済んだ。

「み、三葉さん⁉︎大丈夫ですか⁉︎」

 俺の目の前にあったのは石を体に打ちつけられ、風に皮膚を切られて血を流して倒れている三葉さんだ。

「うっ…だ、大丈夫…いたっ…」

 三葉さんは平気と言うがそうとは思えない、見るに堪えない痛々しさがそこにある。実際、痛いと言っている。

 薬を店から持ってくるにも距離が離れすぎている、いや待てよ、

「待っててください、すぐに薬を持ってきますからね」

 確か俺が修行していた山頂、そこまでの道に薬草が数種類あった。あれは医者いらずの森にある傷薬と打ち身に効く薬の元だ、それさえあれば薬は俺が作れる。

「痛いでしょうけど我慢してください」

 清潔な布が無かったため止血ができない、薬師の生徒として自分が許せなかったが仕方ないと割り切る。

「じゃあ言ってきますね。シルフ、三葉さんのことよろしく」

 そう言って俺は、右足に違和感を感じながら薬草の元へと飛んでいく。

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