カナン伝説
「すごいねこの薬、そこらのとは大違い」
私が塗ってあげた薬を見てキアレが言う。
「そうでしょう?よければ他の薬も…」
シオンが商売を始めようとしたがキアレが言葉を遮る。
「あんたには言ってないよ、僕は白花さんに言ったんだ」
ふふん、シオン嫌われてる、私に変われって言った罰よ。がっかりするシオンを横目に私は本題を切り出す。
「で、なんで動物たちを誘拐したの?飼いたかっただけ?」
違う、とキアレが否定する、じゃあなんなのだ。
「実はね、町の占い師に言われたんだ。あなたは明日、何か1つ良い事をしろって、そうしたら道が開けるって。」
ふーん、占い師ね…そんなやついたっけ?
「でもなんで良い事が動物の誘拐なの?それって普通に考えたら悪いことでしょ?しかも保護された動物なんて…」
「前にね、真知さんと保護動物を見に行ったんだ。その時に真知さんが言ってたんだ、可哀想にって。真知さんの能力は動物の気持ちも分かるから…きっと、狭い籠に閉じ込められて自由を奪われた、って動物たちは言ってたんだろうね。だから、真知さんなら動物たちも幸せにできるかなって」
なるほどね、自由を奪われる事がどれだけ辛いかは私もよくわか…ん?
「ちょっと待って、あなたなんで真知さんの能力知ってるの?真知さんはあなた達に能力の事を教えてないって…」
「知ってるよ、アレサも知ってる。真知さんは僕たちに能力を使ってないみたいだけど…信頼されてないのかな?」
そんな事はない、って言いたいけど私が言う事じゃないわよね。真知さんの口から言ってもらわなきゃキアレも信じないだろう。
「ところで1つ気になってた事があるんですけど…いいですか?」
シオンが口を挟んでくる、そういえばいたなこいつ。
キアレは何?と少々怒ったように言う、よほど気に入らないんだろう。
「いえ、家族って言う割には似てないなって、姉弟じゃないでしょうし、それにアレサさんは親がいないって話してましたから」
そういえばそうだ、どういうことだ?
「ああその事?僕とアレサは拾われたんだ、アレサに付き合って放浪してたらね。別にアレサを恨んではないよ、そういう能力だし仕方ないよね。その時に真知さん言ってたよ、辛かったんだね、苦しかったんだね
、今日から私があなた達の家族だ、ってね。それで真知さんの能力がわかったよ、別に僕たちボロボロになっても泣いてもなかったから、普通に立ってたらそう言ってくれたからね」
「そうだったんですか、大変でしたね」
あんたに同情される筋合いはないよ、とキアレがシオンに言う。
「まあまあ、それでキアレは真知さんにお節介だ、なんて思ってないんでしょう?」
「当然です、これからどうしようって思ってたから、真知さんには感謝してます」
「だったら言ってあげなさい、能力を隠さなくていいって、あなたが大好きだって」
うん、とキアレは頷き笑った。
「ところで、あなたの能力って何なの?」
「ああ、僕は能力を持ってないんです。だから誰にもわからない」
あぁなるほど…
「そう、無事解決したのね」
「ええ、結局動物たちは元の保護者に返されたわ。キアレは残念そうだったけど」
「まあそこは仕方ないわね、いくら可哀想でも貴重な生き物ですもの、野生に返して他の動物に襲われたらいけないものね」
事件解決から1日経った、私は家でモエミと駄弁っている。
「で、その真知さんとやらはどうなったの?」
「ええ、仲良くやってるわ。でも能力は使わないって、普通の家族として接したいからですって」
「へぇ、良い話ね。白花ちゃんも私に頼っていいのよ?家族なんだから」
「うっさい、あんた本当の家族じゃないでしょう。そうだ忘れてた、ねえモエミ、今回の事件って世界守の仕事だったの?私にはどうも関係ない気がするんだけど?」
私はずっと気になっていた事をモエミにぶつける、忘れてたけど。
「えーあーうん、関係ある関係ある」
関係ないな。はぁ、もういや。
「ま…まぁそう落ち込まないで、そうだ!面白い話があるのよ、カナン伝説って知ってる?」
カナン伝説?なんだそれ、興味はないが聞いてやるか。
「カナン伝説っていうのはね、素敵なお話なの。カナンに愛されて死んだ人は、その人が死んだ場所に花が咲くんですって、その人に合った花がね」
「ふーん、で?」
「で、って何よ?」
「だからあんたはそれを見た事があるの?この世界に愛されて死んだ人に捧がれた花を、例えば…私の両親とか…」
モエミが笑う、きっと私を子供だって思ってるんだ、本当は寂しいんだって、そう思ってるんだ。
「残念だけど、見た事ないわ。白花ちゃんの両親が亡くなった時も花は咲かなかった。でもね、白花ちゃんには咲くと思うのよ、私の勝手な予想だけどね」
「なによ、私が死んだ時になんて縁起の悪い…」
まぁ、素敵な話ではある。世界が一住民に贈る弔いの花…
ちょっとだけ…本当にちょっとだけカナンを好きになれた気がする。
「真知さん、どうですか?」
「うーん、よく分からないわ。やっぱり3ヶ月分の記録、もとい記憶しかないわ」
「そうですか…」
真知さんの能力なら俺の過去が分かるかもしれないって思ったけど、駄目だったか。
俺って本当に何者なんだろう、何の為に生まれたんだろう。
普通じゃない理由で生まれたのは確かだ、そうでなけりゃ俺も赤ん坊から始まるわけだし。
「別に良いんじゃないか?どうだってさ。知った所で辛いだけかもよ」
と、本を借りに来ていた鞠さんに言われる。鞠さんは、例の本を借りようとしていたから笑いそうになった。
「そういえばキアレさんは道が開けたんですか?」
俺は話を変える、そうでもないと笑ってしまうからだ。
「ええ、図書館の手伝いをしてくれるらしいわ、今までアレサしか手伝ってなかったから」
あ、それだけなんだ。動物を誘拐して図書館の手伝いって関係してんのかな?
でもなんか面白そうだな。俺も聞いてみようかな、その占い師に。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
本編で第2章「優しさへの過度な要求」は終了です。
次回から第3章が始まります。キャラ紹介も更新しますのでよろしければどうぞ。




