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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第8章 弱き者らの導き手
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逆転の結末

今回で第8章最終回となります。

「邪魔って…やめとくってどういう意味よ…」

「辞書で引こうか?」


 そう余裕を見せるノブヒコに、私は黙っているしかできない。“やめる”の意味くらい分かっている、反応に困るし、そもそも私の心境はそれどころではなかった。

 やや間を置き、何も言わない私を見て、ノブヒコは大げさに音を立てるようにして本を閉じ、

「じゃあな霜月、多分また会うだろうよ」

 私はその言葉でゆっくりと振り向くと、そこには漆黒の渦だけがあり、ノブヒコの姿は影も形もなくなっていた。

 私は、それでなぜか安心していた。

「…負けた……」

 いろいろな感情が入り乱れる。襲ってくるとてつもない敗北感、完膚なきまでに叩きのめされたような惨めさと、自分よりも遥かに実力の勝っている者と出会い、助かった事で安心をしていた。よくよく考えれば安心などできないのに、今、この時を生きている事がありがたい。

 ありがたいが、「また会う」かもなのだ。おそらく次はないだろう。

 私はゆっくりと立ち上がり、ふらふらと力の入らぬ体をなんとか動かして縁側に座る。息切れは不味いお茶の所為でしていないが、精神的な疲労感が容赦なく身体を襲った。寝転がればこのまま朝まで深い眠りにつけるだろう。

「白花ちゃん!!」

 突如として無の空間から現れたノブヒコの言う邪魔が私の名前を呼ぶ。ほんの数十分聞いていなかっただけだが、とても懐かしい声に感じられた。

「モエミ…」

 そこにいたのは呆気ないまでにモエミで、ここから去っていった時の顔や声、雰囲気などは全て消え、いつも通りの柔らかい表情のモエミになっていた。

 実際は、今は私の心配をしているらしく、険しい表情になっているのだが。

「大丈夫!? 怪我はない!?」

 モエミが私のそばに寄り、あたふたしながら私の体のあちこちを確認する。多少過保護気味だが、それが私にはありがたかった。私はそっと笑い、

「うん、大丈夫。ありがと。事件はもう解決したから」

 私の方も幸い傷は最初につけられた足の傷だけで、他には何もなかったのでモエミも一旦落ち着いてくれた。

「よかった…、わたしよく分からないんだけど、さっきまで意識がなくて…、気づいたら別の場所にいて、いつの間にか暗くなってるものだから…」

「へ? ほんとう、気づかなかった」

 私が空を見ると、太陽は今の時間にふさわしい位置にある。モエミの言葉を聞いて初めて気付いたが、一体いつ戻ったのだろうか。確かカミツレを倒した時はまだ明るかった。だとすればカミツレがノブヒコに消された時か。

「………」

「どうしたの? やっぱり何かあったんじゃ…」

「ううん、ほんとに何もないから、心配しないで」

 そう言って私はその場を濁し、モエミには何も伝えない事にした。ノブヒコの事を言っても心配をかけるだけだし、言ったところで現状は何も変わらない。その時の事はその時に考える事にしよう。

「それよりもモエミ」

 私が名前を呼ぶと、モエミは不安げな表情かおをこちらに向けた。心配性はいつになったら治るのだろうか、などと考えながら、私は笑って続ける。

「ごめんなさいね。ご馳走、今日は無理だわ」



 若干疲れの残った体を机に突っ伏し、私はマリに昨日の出来事を話している。マリの拷問を受けないよう、マリの性格が逆転させられていたことと、ノブヒコの事を省いた全内容を話すのは割と時間がかかった。

 私がカミツレとの戦いを終えた後、久しぶりに自分以外の人が作った晩ご飯を食べ、ゆっくりとお風呂に入り、数分間身体を伸ばしてから明日に疲れを残さないようにして、マリの隣に布団を敷いて眠りについた。きっと不味いお茶の効力が切れれば私の体はボロボロのはず。何度でも言う、不味いお茶の所為だ。

 そして次の日、私が起きた時にはもう昼の12時で、私は朝ごはんも食べずに熟睡していたらしい。さすがに寝すぎだろう。だが、体の疲れはほとんどなくなっていた。

 布団をたたみ、片付けてから居間に行くと、モエミとマリがそこにいた。もちろん、いつもの2人になって。

 マリは仕方ないとして、モエミは結局あの後私の家に泊まり、マリだけを朝起こして勝手に朝ごはんを食べたらしいが、お昼はまだらしいので、私はモエミにお昼ご飯の食材とおやつの買い出しに行ってもらう事にし、私とマリはそれを待っている。

 そして今に至るわけだ。話を聞き終えたマリは感心するように頷き、

「はぁー、そんな大変なことがあったんだなぁ。多分私は寝てたんだろうな、全然記憶にないもん」

「まったく、あんたは肝心な時にいつもいないんだから。大変だったのよ」

「へぇへぇ、ご苦労さんだよ」

 私はマリに話を合わせ、なんとか拷問を受けないようにうまく持って行った。これで私の無事も約束されただろう。

 マリは机に肘をつき、

「それにしても、運がよかったじゃないか。話を聞く限りシオンのおかげで勝てたみたいなもんだろ」

「そうよ! シオンよシオン!」

 私は机に突っ伏すのをやめ、ドンとその勢いのまま机を叩く。

「あいつのおかげで勝てた、冗談じゃないわよ。あいつの所為で危なかったんじゃない! 変な薬で体力の管理ができなかったんだから!」

「あはは、おまえが管理しながら戦ったことあるのかって」

「あるわよ、ありまくりよ。あんたと違ってね」

「あー、それを言われちゃおしまいだなぁ」

 マリはあははと笑いながら頭を掻く。実際、マリは勝利のために特殊魔法を使うという大きな賭けをすることがほとんどで、攻撃魔法だけで勝つことはまずない。難儀な体質だ。

 私がマリに呆れていると、買い物かごを持ったモエミが庭に現れる。瞬間移動だろう、買い物を終えて帰ってきたのだ。

「白花ちゃ〜ん、買ってきたわよ〜」

「あら、ありがと」

 私はモエミから買い物かごを受け取り、中身を確認する。魚、野菜、おやつ、お金はモエミ持ちだ。今月はマリとモエミがくる日が多いから、霜月家の家計は苦しいのだ。

 私がおやつを手にしていると、マリが不思議そうにそれを見て、

「ん? なんだそりゃ、かまぼこか?」

「どこをどう見りゃこれがかまぼこに見えるのよ。これはういろう…うーん、確かにかまぼこっぽいわね、色が白いと」

「だろう? やっぱりわたしは正しいな。ははは」

 なぜかそれだけのことで大笑いをするマリに、私は呆れ果てる。

 いつものマリだ。こうでなければ調子が狂うが、できれば大人しい時のマリとの中間くらいならいいのにな、とたまに思ってしまう。別に嫌なわけではないが、なんとなく思ってしまうのだ。

「はぁ…」

 私が溜息を吐くとマリが尋ねる。

「なんだ、どうしたんだ?」

「いやぁね、やっぱりいつものマリの方がいいけど、昨日までの大人しかったあんたと足して2で割ったら、ちょうどいいのにって」

 私はさっき自分の考えたことをそのままマリに伝える。

「…は?」

 なぜかマリは間を空け、真顔のまま動きを止める。

 聞き取れなかったのかと思い、私はそれをもう一度言う。

「だから、逆転された昨日の大人しいあんたと、いつものあんた、半分半分の方がいいかもって…」

 と、私はここまで言ってようやく自分が墓穴を掘った事に気付いた。事前に話していたカミツレの逆転能力と、昨日の記憶がないという謎の状況から、マリはそれを察することができる。

「あ…」

「昨日までって…まさか記憶にないのって……、それにハク……おまえ……!」

 マリの顔は紅潮し、強く握った拳がプルプルと震え始める。完全に怒っている、私の努力が一瞬で水の泡になってしまった。

「マリ、待って、今のなし!」

「うるさい! 問答無用だ!」

 そう叫ぶとマリは私に飛びかかり、以前拷問を受けた時と同じように私の横腹や脇をくすぐり始めた。

「や、やめっ、ふふ、あははははっ、やめて苦しい…はははっ!」

「わたしに恥をかかせた罰…10分耐久だこのやろう!」

「じゅ、10分は死ぬ、死ぬって…ふはははっ!」

 抵抗できない私をマリは容赦なくくすぐるその様子を見て、モエミが隣で笑って見ているのだけを私は覚えていた。その後15分間ほどの記憶はない。

ここまで読んでいただいた方、ありがとうございました。

そしてここでご報告があります。第9章へと続くのですが、一度、「世界に捧ぐ幻想花」を最初から書き直ししようと思います。やはり人に見ていただくものですから、より読みやすいようにしたいと思いました。

その為、第9章は改稿が終了してからとなります。できるだけ急いで終わらせますので、よろしければ新しくなった幻想花を見ながらお待ちいただけると嬉しいです。

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