物は言いよう
カミツレの体は魔力を変化させた電気を大量に纏い、掴んだ腕を通して私の体へと流す。電気が金属を流れる容易い、心臓に衝撃を与えるくらいの生ぬるい電力とは違う、雷ほどの強力な電気は軽々と人間の体を真っ黒に焦げの炭とする。人間のほとんどは水分、こちらも電気は流れやすい。私は真っ黒焦げだ。
そう、真っ黒焦げだ––––––あのままなら。
「…こ、これは!?」
驚き動揺するカミツレの腹を痛みのない方の足で思い切り蹴ると、掴まれていた腕は何とか放されたので、私は急いでカミツレから距離を取る。
「あ…、危なかったわ…」
さらに冷や汗をかいた私は手の甲でそれを拭う。それを見ているカミツレは、すぐに痛みを逆転させるとこちらを睨み、
「チッ、なるほど硝子か…」
私は電気が流されるよりも一瞬早く、薄い鎧を金属から絶縁体の硝子へと変化させた。そのおかげで私はこうして生きている。紙も絶縁体だが、薄さゆえ万が一の時も考えられるし、何より燃えるのが怖かった。硝子なら追撃の打撃も防ぐことができる、一石二鳥の絶縁体だった。
「ええ…今のは私も死ぬかと思ったわ…、お花畑が見えたもの…、自分を褒めたい気分よ…」
「惜しかったか……うっ…くっ…!」
魔力を全て消費したのか、カミツレは急に苦しみ始め、膝からガクンと崩れる。あれほどの電力と速度、なかなか魔力の最大量は多いらしいが、使い方を間違えてはおしまいだ。
私は片足を引きずるように歩きながらカミツレに近づいていく。
「魔力、全部使い果たしたみたいね…、諦めどきよ」
「はぁ…はぁ…ふんっ、冗談…」
とカミツレは顔を上げ、私の顔を見て不敵に笑う。だが疲れ切った表情は隠せていない、魔力は体力も同じ、無くなれば立つことも厳しくなる。マリがいい例だ。
だとすればこのカミツレは何をするのだろう。いや、大体は想像できる。こいつの能力はそういうものだった。
「やっぱりステップ進むには少し早いけど、はぁ…はぁ…進めなきゃぼく自身が参っちゃうからな…」 と言いながらカミツレはゆっくり立ち上がり、今までと同じように人差し指を上に向けるように回転させ、「第3の狼煙、精神の泉…」
と言うと、カミツレの表情から疲れは全く見えなくなり、呼吸も正常な速さとなった。カミツレは何も言わないが、減ってしまった魔力を逆転させ、回復させたのだろう。
「ったく、このままじゃキリがないわ…」
あまりの終わりの見えなさに私は思わず不満を漏らす。どんなに攻撃しても気絶することはない、だからといって私が斬撃を繰り出せばこいつは死ぬかもしれない、モエミとマリの無事を確認できない以上、私はこいつに打撃しか使えないのだ。
しかし何度攻撃しても、こいつは立ち上がってくる。何度も何度もその指を回転させ、痛みの逆転などと言ってまたまた立ち上がってくる。
何度も何度も–––––
「…っ、そういえばこいつ全部…、なんで気がつかなかったのかしら…」
あることに気づいた私は今までのカミツレとの戦いを思い出す。カミツレの能力には条件がある、分かりやすいのに今まで気づかなかったのは頭に血が上っていたから、それが一番の理由だろう。
ではどうすればいいのだ。考えれば色々と思いつきそうなものだが、私は1番に思いついたもっとも簡単で、もっともむごたらしい作戦が最善策なのだろうと思う。
「足の痛みも限界に近い…、むごいけどやるしかないわ」
「やる? 何をやるっていうんだ?」
私の言葉にカミツレは疑問を浮かべる。私は長い息を吐き、
「痛いからさっさと決着つけるって言ってるのよ。もう限界、浮いてても全然痛み和らがないし、早くおさらばしたいのよ」
「それはそうだ。でもおまえ、痛い痛い言ってるけどぼくも相当我慢してるんだ。何度殴られたと思う、数えてないけど10は軽く超えてるぞ」
「そう、じゃあもう終わりにしましょう。あんたのもう一つの弱点、それを見つけたわ」
私がそう言うとカミツレは一瞬ドキッとしたように見えた。カミツレは顎に手を置き、
「弱点か…」
「そうよ。あんたの能力、それって第2とか第3とか言ってるけど、基本的には全部同じでしょう。ただ逆転させるだけ、そしてそれはすべて手の動きによって行われる。つまり手を封じればその能力は使えない」
私はゆっくりと説明する。鬼灯ちゃんの時もそう、わたしの攻撃の痛みを消すときも、何かを逆転させる時、カミツレは指を必ず使って回転させるという作業を行っていた。普通ならば緊張の続く戦いの最中、無駄な動きは最小限に抑えたいと考えるのは当然だろうが、カミツレはそれを必ず使って行なう、つまり能力の使用に必須ということになる。
私の言葉にカミツレは少し口をモゴモゴさせ、やや間を置いて舌打ちをし、
「……正解、その通りだよ…」
「ええ、分かってる。やりたくないけど、腕を切らせてもらうわ」




