第2の逆転能力
私は再び薙刀を大きく振り、カミツレを打ち飛ばす。何度目かの鈍い衝撃が腕から伝わってくる。今までは剣ばかりを使っていたから、肉の裂ける感覚はだいぶ慣れてきたのだが、この打撃というのは斬撃と違い妙な生々しさがある。
「あんたは勝てないの。さっさと観念した方が楽よ」
そしてまた同じように倒れながら指を回転させ、傷を回復させるカミツレに私は冷たく言い放つ。痛みを力に変えるわけでもない、倒れるたびに強くなるわけでもない、逆転させた力はどこまで行っても逆転、最大値を超えることは絶対にない。
最大の力を持ってさえ、圧倒的な実力差を既に見せつけている以上、カミツレは勝ち目がないのを瞬時に悟るべきなのだ。すぐにやられてくれる馬鹿は好きだが、しぶとい馬鹿は嫌いだ。
回復を終え、立ち上がったカミツレは自身の服についた土を払い、私を哀れむような目で見てから肩をすくめる。
「楽な道ばかり選ぶなんてクールじゃない。言ったろう、ゆっくりと、順序を追って最後にしっかり決める、それがクールだ」
「何が来るのよ」
「来るじゃない、クールだ。カッコイイ、素敵、まさに世界の真理、それがクールだ」
「わけわかんない、それで身を滅ぼしちゃ意味ないでしょう」
「滅ぼさないのは、今おまえが身をもって体験してるだろう」
「うっさい、私が優しいから生きてるんでしょうに。息の根止められたらその妙な能力も使えないでしょう」
「止めるのか?」
「まさか。でもやろうと思えばやれるわよ、ただやらないだけ」
私の言葉を受けたカミツレは声を出して笑い、
「なるほど、やっぱり間違えてはいなかった。霜月、おまえは逆転させても意味がない、心のどこかで戦いを拒んでいる。そんな奴を逆転させたら、好戦的もいいところだろうよ」
と私を指差して言う。図星だ、よく分かっている。真知さんのような完全な読心術ではないが、何でもかんでも逆転させられるのだからある程度敵については知らなければならない。洞察力に優れているのはカミツレが弱く、そうでもしないと勝ち目なんてないからだろう。
だが私は、あえてそのカミツレの言葉に逆らっていく。
「ふん、あんたとは戦う理由が違うのよ」
「そうか、そりゃ残念」とカミツレは気にする様子もなく言い、「とまあ、そろそろ次のステップに移ってもいい頃だろう」
と言って、人差し指を上にして親指を私に向ける。私の性格を変えても無駄だと自身で言っていたのだから、それを変えられる心配はないだろう。
しかし、こいつは人の実力さえも逆転させることができる。自惚れではないが、私の力の反対側はどれほど低いのだろう、というか、一体何が基準で強い弱いなのだろう。世界は広い、私より強い人はうじゃうじゃいる。全世界基準なら、私も強くなる可能性があるはずだ。
だとすれば、力の逆転もないだろう。では一体何を変えるつもりなのだ。何にしろ、能力を使われると面倒だ。
私がそう考えていると、カミツレは既に能力の準備を終えており、含みのある笑みを浮かべている。
「反逆の狼煙第2のチカラ、死への行軍を見せてやる!」
「使わせない、次こそ気絶させてやるわ!」
私は自身の言葉を合図に走り出す。しかし、考えていた時間が長く、間に合わない。
「残念、もう遅い」
そう言うとカミツレは手首を回し、上に向けていた人差し指を下へと向けた。瞬間、尋常じゃないほどの冷や汗が吹き出るのを感じ、体に起きた変化の所為で私は勢いよく転んでしまう。
「うあぁぁぁあああぁっ!! 足が…足がぁ……!!」
尋常じゃない痛み、思わず私は足を押さえ、悲鳴をあげる。カミツレは私の何を逆転させたのだ、足に穴が開いたように痛い。目立った外傷はないようだが、痛みは私の思考を停止させ、カミツレからも目を逸らした。
だがカミツレはこれ見よがしに私を襲うことをしない。余裕の表れなのか、お腹を抱えて笑う声が私の呻き声に混じって耳に入る。
「あははッ、いい転けっぷりだな!」
「ぅぅう……何これ…足が、何かに貫かれたみたい……」
「貫かれた、か。まあ針だったからね。ぼくのチカラには殺傷能力のある武器なんて要らない、むしろかすり傷程度の気づかない痛みが一番なのさ。さっき針でつけた傷、その傷の痛みの度合いを逆転させた、それだけさ。どうだ、痛いだろう? おとなしく渡すもの渡せば、元に戻してあげてもいいけど?」
「じょ、冗談じゃないわ! あんたに渡していいものなんてない、誰がこれくらいの痛みで…、くぅっ…絶対に降参するもんですか!」
言いながら私は何とか立ち上がり、薙刀を構える。だが片足だけで立っている状態の今、体幹はグラグラ、思い切り武器を振るうことさえ不可能だろう。
苦しむ私の姿を見ているカミツレは苦笑し、
「くくっ、だろうねぇ。でも、これでさっきのように素早くは動けない。ゆっくりと次の傷をつけて、そこも逆転させてやろう」




