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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第8章 弱き者らの導き手
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反逆の狼煙

 カミツレは一呼吸置き、

「他の2人も強者の匂いがしたけど、一番血の匂いが強いのがおまえだった、だから中途半端なあの人らを追いやって、おまえだけ残した。…とまあ前置きはこのくらいで、一番の理由は、霜月には聞きたいことがあるからだな。ぼくの主人の敵である霜月にね」

 言い終えたカミツレは私を右手で指差すと、自身の使う武器であろう針を4本どこかから取り出し、左手にそれを構える。とても細い針、殺傷能力は皆無だろう。

 だがあの針、投げるのだとしたら、いつも使っている細身の剣では弾きにくいかもしれない、と考えながら私はニヤリと笑い、

「へぇ、随分と敵が増えたわね、私も。でも、やっぱりあんた馬鹿じゃないのよ。私が一番強いから残した? まともな考えじゃないわね」

 私はカミツレに冷たい目線をやり、

「私に勝てるとでも?」

「まともに戦っちゃ勝てないさ。まともに、ね」

「言ってなさい」

 もともと何の関係もないが、私は突き放すようにカミツレに言う。こんなにも敵に対して冷酷であった事はない。

 怒りとは恐ろしい、人を変えてしまう。さっきのモエミも怒っていた、カミツレの能力は怒りなのか、いや違うだろう。現にマリは怒ってなどいない、心配そうな顔をするか、笑っていただけだった。

 カミツレの能力は単純、『性格を逆転させる』、そう仮定していいだろう。

 だったらどうにでもなる、すぐに息の根を止めることも…

 それではダメだ

 わたしが今一番に行うべきは2人の無事を確保すること。特にモエミだ。目的を外れてはいけない、怒りとは本当に恐ろしい。

 冷静に考えづらい、濡れた布を額に乗せて頭を冷やしたいが、当然のごとくそんなことは無理だ。落ち着けと自分に言い聞かせても、早くモエミ達を助けなくてはという焦りが出る。

 こうなっては仕方がない。半身ほど、怒りに身をまかせるとしよう。

「今はだいぶ虫の居所が悪いの、私を一番に無力化させなかったのがあんたの運の尽きよ」

「ククク…フハハハハ!」

 カミツレは不気味に笑い、右手にも針を構えながら、

「もらう、もらうよ。全部で4つ、そのうちの1つは霜月、おまえの命だ!」

「4つ…、何だか知らないけど、既に2つ奪われたわ。さっさと取り返させてもらうわよ」

 私は固い地面に手をつけ、土の材質を変えるとそれらをひとつの形に纏め、地面から取り外す。持ち手は木製、刃は当然鉄の薙刀、いつもならわずかについた汚れを気にして、持ち手に紙を巻くところだが、今回はそれをしない。

 薙刀は初めて使う。だが自然と使いこなせるような気がした。

「一瞬で終わらせるわ」

「ほざいてろ! くらえ山荒やまあらし––––」

 カミツレが技名を叫び、それを繰り出そうと拳に力を入れた瞬間、私は動いた。6メートルほどあった距離を一瞬にして詰め、私はカミツレの背後に回り、薙刀を大きく振りかぶる。カミツレは私が背後にいることさえ気づいていない。

「遅いわよ」

 カミツレの右脇腹めがけ、刃に近い柄をぶつけると思い切り振り抜く。体の小さなそいつは踏ん張ることもなく、勢いよく飛ばされる。

 地に打ち付けられ、引きずられ、カミツレはようやく止まる。立ち上がってくるかと思いきや、苦しそうに咳をするだけで私に立ち向かってこない。

「はぁ…、何よ、とんだ拍子抜けじゃない」

 弱った作戦でもないだろう、私はゆっくりと歩いてカミツレに近づき、仰向けになって倒れているカミツレの首元に切先を近づける。拍子抜けだったこともあってか、この頃には自然と落ち着いていた。

「ちょっとあんた、まだ喋れるくらいの体力はあるでしょう。私もお子ちゃまをいたぶる趣味はないの、2人を返してもらえさえすればそれでいい、マリはもう元に戻ったの? モエミを元に戻せるの?」

「くっ…くくっ…」

「余裕そうね、弱いくせに。あんた、本当にこの異変の首謀者? ただ逆の性格にさせるだけの能力で、それを使わずに私に勝てるとでも思ってたの?」

「そうさ…、ぼくは弱いさ…」

 的外れな回答をするカミツレに、私はわずかにムカつく。

「質問に答えなさい。いたぶる趣味はない、でもあんたを気絶させるくらい、今度の私はなんとも感じないわ」

「ふふ……ふひひ…」

 力無い笑い、すでにカミツレの命は私の手の中だ。それなのになぜ笑っていられるのか、私には分からない。

「そうさ…」

 カミツレの目つきが変わる。私はその変化を見逃さなかったが、見逃していた方が良かったかもしれないと思った。カミツレの目は死んだ目つきと何ら変わりなかったのだ。

 そんな目を空へ向け、カミツレはゆっくりと語り始める。

「そうさ…ぼくは弱い、この世の誰よりも…弱い、弱い自信がある…! 力もない、体力も魔力も貧弱、口だけ達者なゴミ同然の存在さ!」

「あんた…一体何言って…」

「だからって、そんな弱者のぼくは夢を見てはいけないのか、希望を抱いてはいけないのか、おかしいだろう。…あの方達はぼくに夢をくれた、希望をくれた、ぼくに…ぼくにチカラをくれた! 全てをひっくり返せと、あの方達は言った!」

 自身の過去か、その死んだ目つきはなぜか輝いている。見えない神を敬うかのような、それを信じて行動しているカミツレ、私は不思議とこの倒れた瀕死の人間を恐れていた。

「性格を逆転させる…? それがぼくのチカラ…? 違う、ぼくにかかれば太陽だって、他人の実力だって、何だって逆さまにできる!」

「太陽って、まさかあれもあんたが––––!」

 私が気づいた時にはもう遅く、カミツレは自身の体に人差し指を下に向け親指を立て、

反逆の狼煙ザ・リバース天国の門ヘブンズゲート!」

 と言って人差し指を上に半回転させる。

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