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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第8章 弱き者らの導き手
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感覚が狂っちゃう

 机の端に置いてあった目覚ましを、マリは手を伸ばして取り、それを私に手渡した。

「何するの?」

 マリは不思議そうに首を傾げる。鈍いやつだ。

「無理やり動かすの。正確な時間が知りたいわ」

 そう言って私は、壊れた目覚ましの中に未だに入っている電池を取り出す。両極にそれぞれ人差し指と親指を当て、ゆっくりと魔力を流し始める。

「……新しいの買わなきゃ」

 バチバチという音を立て、電池はゆっくりと魔力を貯めていく。もともと電池は最近変えた物、壊れた目覚ましは普通の力では動くはずもない。

 私はすでに満タンになったであろう電池にさらに魔力を送る。ゆっくり、ゆっくり。もう電池は魔力を受け付けることをしていない。さしずめ空気のパンパンに入った風船のようだろう。

 私はまだまだ送る。これでは動くはずもない、ゆっくりではもう入らないだろう。強行手段その2、ギリギリ限界の量に達する魔力を、私は一気に電池に送り、すぐさま目覚ましにそれをはめ込む。

 電池をはめ込んだ瞬間、目覚ましの針は勢いよく動き出し、時間を自動的にあわせ始める。空気中に漂う魔力、それによって時間はあわせられる。

 ややあって、針の動きは緩やかになり、長針と短針は止まり、秒針だけが動くようになった。私は目覚ましの示す時間を読み取る。

「6時過ぎ…もう暗くなってきてもいい時間だわ…」

 私は驚きもしなかった。そもそもモエミの言った“3時”がそれほど信じられなかったし、お腹の虫もわずかに鳴いているからだ。時計が壊れていなければこんな事にはならなかったから、全ては時計が悪いのだが。

 その恨みを込めて、私は開いた襖から外に目覚ましを投げ捨てる。それを見たマリは驚き、

「あっ、何で投げるの」

「爆発するからだけど」

 私が言った数秒後から、外に投げ捨てた目覚ましはガタガタと震え始め、やや大きめの爆発音とともに煙を上げて散る。私はそれを背に向けていたが、まともに見ていたマリは爆発音に怯え、耳を塞いで縮こまる。

「経験者は語るのよ」

 以前、他の機械を無理やり動かした時も爆発した。その時のことは思い出したくもない。

「でも、なんで太陽が逆戻りしてるの」

 縮こまるマリを無視し、私はモエミに尋ねる。

「わからないわよ、わたし太陽じゃないもの」

「当たり前のこと言わないで。…ったく、性格が逆になったり太陽が反抗期だったり、今日は厄日なのかしら…」

 私は少々不満を漏らす。過去に事件が重なる事はあったが、それはこんな面倒な事件ではなかった。せいぜい能力の試し撃ちをしたやつと、能力者同士の争い程度だ。世界全体を巻き込む異変ではない。

 それを聞いたモエミは呆れ気味になり、

「厄日で太陽が反対方向に動くわけないでしょう。これはもう、誰かが意図的にやってるとしか考えられないわね…」

「何の為に」

 愚問だった。なんと返されるかは分かっていたが、聞かざるをえなかった。

「それを調べて解決するのが白花ちゃんでしょ」

「そうだけど…、時間は進んでるのよ。お腹も空いたし、眠いし、明日じゃだめ…よね、生活に関わるもの」

 言いながら私は町の住民の事を思い出す。今回はみんなに影響する事件だ。裂け目事件は実害はなく、知らなければ何の問題もなかったが、太陽という生活に欠かせない物を弄られては、皆に影響が出るのも確かだ。

「そうよ、今頃町は大混乱よ」

 私は自分に言い聞かせる。これはもう私たち能力者の、ごく一部の問題ではない。性格逆転も含め、世界全体を蝕む大事件になるだろう。

「感覚というか、生活リズムが崩れちゃうわね」

 そうモエミが言うと、真剣な表情を私に向け、

「白花ちゃん」

「…なによ」

「今日中に解決できる?」

 表情を変えずにモエミが尋ねる。私の答えはもちろん“できない”だ。

「無理ね。馬鹿なことやってるやつがどこにいるのかわからないもの」

「そうよね…でも––––」

「やらなきゃいけないって、そう言いたいんでしょ」

 モエミの言葉を途中で引き継ぐ。分かっている、分かっているから私は目覚ましを犠牲にしたのだ。

 そんな私にモエミは感動したような眼差しを向け、

「白花ちゃん…」

「これは世界の問題以前に、私たちの問題でもある。お日様が昇れば起きるし、沈めば眠るわ。それが自然なの。生活を脅かされてたまるもんですか」

 私は逆を言う。本来、世界は私たちで、私たちは世界だが、建前を私は言った。この2人の前で、まだ私は世界を嫌う世界守でいたいと、そう思ったからだ。

「そうね…、その通りよ」

「でも、本当に今日中の解決は無理。砂漠で米粒を探すようなもの、私の能力じゃできないわ」

 私は自分の能力に不満を漏らす。なぜかモエミはそれを聞いて悲しそうな目をしたが、私は気にしないでおく。

 やや間を置いて、モエミが口を開いた。

「わたしも、各地に瞬間移動できるとはいえ、カナンは広すぎるわ。それに、能力者だって人間、おとなしくしてれば普通の人間と変わらないもの」

「はぁ…、私たちってさ、つくづく戦闘向きな能力者の集まりよね」

 私は溜息を吐く。臨機応変に戦闘をこなせる材質変化、攻撃しかできない魔力貯蓄、自分にしか使えない瞬間移動と、私たちの能力は特定の人探しに全く活かせない。犯人が自ら動きを見せねば、私は対応できないのだ。

 部屋の中を重い空気が流れる。この時間が無駄なのかもしれないが、無闇に世界中を飛び回ることも無駄なのだ。

「ね、ねえ…」

 先ほどまで怯えて縮こまっていたマリが口を開き、重苦しい空気を破る。

「どうしたのよマリ、ババ抜きの続きならしないわよ」

「そうじゃなくて」

 私の冗談交じりの言葉を否定し、マリは続ける。

「わたし、できるかも」

「できるかも、って何が」

「その、悪い人を捜すこと」

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