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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第8章 弱き者らの導き手
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正真正銘 男です

「そういえばそうだね。…でも、それってシオンが女みたいだからじゃないの」

 わたしが言うと、シオンは恥ずかしがりつつも怒りの表情を見せる。

「なっ、なんでですか! 俺は正真正銘の男です!」

「そう言われても、趣味がお菓子作りで、暇さえあれば掃除とかしてる男の人の方が珍しいよ。もはや家政婦じゃん」

 実際、わたしはここ最近「草花」に泊めてもらっているため、何度もそんなシーンを目撃した。食事当番はほぼ毎日朝昼晩シオンで、3日に一度、おやつはシオンの手作り。薬配達を終えたシオンは帰ってきて早々、庭と部屋の掃除をする。主婦の鑑のような男性だ。

 それに昔、容姿で女に間違えられたこともあるらしい。本人はその事で「なんで俺が女にみえるんですか」などとぶつくさ言っていた。なっちゃん曰く、その姿に萌えるのだとか。

 「シオン女じゃない説」の唯一の救いといえば、みんなの洗濯は美良さんがやっている事くらいだろう。

「せっ、せめて使用人と言ってください。家政婦は女性の方です」シオンは悲しそうに溜息を吐き、「筋トレでもしてマッチョになれば…」

 わたしはマッチョシオンを想像する。びっくりするほど似合わない。

「ごめんごめん。冗談だよ」

「この世には言っていい冗談と悪い冗談があってですね…」

 なっちゃんに襲われていた時に比べ、かなり声のトーンが低くなっている。わたしにはよくわからないが、シオンにとっては大事な問題なのだろう。

 などとわたしが考えていると、美良さんが笑顔で日に油を注ぐが如く追い打ちをかける。

「女の子の服着たら似合うと思うんだけどな」

「美良さんまで…」

「で、でも、女の子の服が似合う男の人は、かっこいい感じの人が多いんだよ」

「じゃあ俺は例外ですね…、かっこよくないですし…」

 わたしは2人の会話を聞いて苦笑いをする。美良さんは真面目にフォローしているつもりのようだが、全くフォローになっていない。もうこの話は切ったほうがいいだろう。

 ふと、話を変えるために襖を開け、外を見る。廊下の先に見える縁側には日が差し、昼と変わりない明るさがあった。わたしはそれに違和感を覚え、シオンに尋ねる。

「ねえシオン、もう晩御飯なの? 確かに少しお腹空いてきたけど、まだ外は明るいよ?」

「そうなんですか?」

 まだ声のトーンは低いが、それでも表情は少しいつも通りに戻った。そのままわたし達は3人で部屋の外に出て、縁側の方に行って確認する。

「本当ですね、お日様が真上です…」

「お昼ご飯の間違いじゃないの?」

 シオンの言葉に美良さんが答える。それを受け、シオンは顎に手を当て、

「うーん、確かにお昼は食べましたよ。…ちょっと待っててください」

 と言って1人で美良さんの部屋に向かって小走りをする。ややあってシオンが戻ると、その表情はさっきまでの落ち込んだというより、何やら深刻なものとなっていた。

 わたしと美良さんは何をしに行ったのかを尋ねた。

「時計です、気になったので見てきました」

「で、何時だったの? お昼?」

「いえ、お昼じゃないです。今、午後6時ですよ」

「6時? 午前じゃなくて、午後6時なのに太陽があの位置なの? 午前でもおかしいけどさ」

「ええ…、自分の目を疑いました。それにあの太陽、沈む気配がしませんね」

 わたしもシオンと同じ意見だった。あの太陽、見れば見るほどどこか不気味だ。別におかしいところはないが、何か違う力を受けているような、バネを無理やり引っ張っているような、そんな感じがしていた。

 嫌な予感がする。白花お姉さんの言っていた「世界を守っている」という言葉、それを聞くまでわたしはこの世界にそんな危機があるなんて知らなかった。世界の危機、それが今のこの状況だと言うのか。

 汗が出てきた。太陽の暑さの所為か、緊張の所為かは分からない。

「ねえシオン、これって…」

「………」

 シオンは答えない。それがわたしの不安を一気に駆り立てた。

「シオン!」

 わたしの声がようやくシオンに届く。だが、ハッとしたシオンはすぐに冷静な表情になり、

「あ、はい。これは気にすることはないでしょう」

「なんでさ、今はもうほとんど夜なのに、太陽は真上なんだよ? 普通じゃないよ!」

「普通じゃない…ですか、確かにそうですね。ですが、俺が前にいた世界では『白夜』という、太陽が沈まない現象がありました。ここはカナン、何があっても不思議ではありません」

「でも…」

 わたしには納得がいかない。シオンが何かを隠しているような気がしてならなかったが、わたしも確信があるわけでもない。

 不安そうにするわたしの両肩にシオンが軽く手を置き、

「心配はないです。さ、部屋に戻って、晩御飯までなずなさんの相手をしてあげてください」

 と言うと、わたしの体をくるりと半回転させ、背中を軽く押された。今は何を言おうと無意味だとわかっていたから、おとなしく勢いのままなっちゃんのいるであろう部屋に向かうことにした。振り返ると、シオンと美良さんはまだそこで話をしている。

 やはり気になるわたしは廊下を曲がった所で隠れ、何か小さくて飛ぶ虫に変身を試みる。ハエでも蚊でも何でもいい、盗み聞きができればそれでいいのだ。

 そう思って変身した姿はハエ。特有の素早い飛行でものの数秒でシオン達の元へ戻り、襖に留まって話を聞く。

「……、すみません美良さん、食事当番代わってください」

「シオン、もしかして行くの?」

「はい、万が一ということもありますから。それに、俺って暗くないと眠れないので」

「…わかった、気をつけてね」

 2人の会話に明るさはなかった。シオンの冗談さえ、今は本当の話に聞こえてしまう。

 やはり、何かまずい事が起こっている。

 シオンの体がふわりと浮き、「では」と言って飛び去ろうとする。

 ––––ドスンという音、シオンに襲いかかる黒い影。

 何かが上空から降ってくると、シオンの浮かんだ体は地に落ち、何かに取り憑かれたかのように身動きが取れなくなっていた。

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