マリのともだち
今回は、ほんの少し長めです。
「私の魔法、たっぷりご馳走してやるよ!」
とは言ったものの、どうしようかな。私の能力は魔法以外にほとんど応用が利かない。ハクやシオンのような事が出来ないからな。
多分あのふよふよに物理攻撃を仕掛けても無意味だろう、パンチなんかしたら手首から先が無くなるのがオチだだ。
きっと弱点はある、弱点のない能力はない。私の能力なんて弱点だらけだ。
「どうしたの?早くあなたの魔法をご馳走してよ。楽しみ楽しみ、私の『魔餓魂』は、特に痺れるような雷魔法が好きなのよ。それをお願いできるかしら?」
調子に乗っちゃって…自分から魔法を指定してくるなんて。
いい度胸じゃあないか、ならばお望み通り…
「やってやろうじゃあないの!」
私は人差し指を立て、上に掲げる。指先の痺れるような感覚、魔力を電気に変換、一点に集中、バチバチと音を立てながら溜まっていく。
「待たせたね、くらえ雷魔法!」
指から広範囲に一気に放出された雷がアレサを360度包みこもうとする、これなら防ぎきれないだろ。
「ふふふ、ありがとう。じゃあいただこうかしら」
魔餓魂が動きだす、しかし、今度は雷を包み込まずにアレサ自身を包んだ。
全方位から降る雷がアレサを包んだ魔餓魂に注がれる。当然、私の魔法は吸収された。
だが収穫はあった、これならいける。
雷が止み、アレサが魔餓魂から出てくる。その様子は、まるで花から生まれた親指姫のようだ。
「なかなかの雷だったわ、リクエストに答えてくれてありがとう。今度は何がいいかしら?それともさっきので魔力を使い果たした?」
私を煽っているのか、アレサは不敵な笑みを浮かべている。
「残念…いや、安心しろの方がいいか?まだまだご馳走できるぞ」
魔力にはまだ余裕がある、しかし心配なのは奴の魔餓魂が、私の魔力でパワーアップしない保証がないという事だ。もしかしたら、溜めた魔力を一気に放ってくるかもしれない。
早めに方を付けた方がいいか、私は相手の出方を見るために少し探りを入れる。
「ところでお前、お前は攻撃してこないのか?守ってばかりじゃ勝てないぞ?」
わたしがそう言うとアレサは大声で笑い始める。何だ、気分悪いな。
「アハハ!あなた、何を言ってるの?私がいつあなたに勝つって言った?私はあなたから魔力を貰えるだけ貰う、それだけが目的よ。もっとも、あなたの魔力が無くなれば、自ずと私の勝ちになるけれど?」
何だこいつ、やっぱり攻撃手段がないのか?確かに、あいつが私に勝ったところで、メリットはほとんどない。
しかしゲラゲラと笑われた挙句、自分は何もせずに私の自滅を待つと言われて黙っている私ではない。
『そろそろ時期だから…そうね、1ヶ月分かしら…貰えるだけ貰う…』
突然アレサの言葉が脳内に流れ込んでくる、こいつまさか…
私の脳内で1つの答えにたどり着いた。勝手な想像かもしれない、でも私には…そうしか考えられない。
「そうか…お前、可哀想な奴だな。やっぱり私の能力は、お前の能力に相性が良いようだよ」
安心してくれ、といった感じで私は言ったがアレサには逆効果だ。
「何さ、初対面の人に可哀想な奴呼ばわりされる覚えはないですよ。それとも何ですか?油断させようとしてるんですか?」
アレサは正直な気持ちでそう言ったんだろう。でも、私には強がりにしか聞こえなかった。
こいつ…いや、アレサも…同じだったんだ。真知…さんと。
とりあえず今は止そう、勝負が先だ。
「勝たせてもらうよ、アレサ」
私の中で目的が変わっていた、アレサと戦う目的が。
「ふふふ、いいわ。だったら最高の魔法を見せてよ!あなたの!最高の魔法を!」
アレサが要求してくる、最高の魔法か、やろうとしてる事は違うけど、かなり魔力を消費するはずだから良いか。
「ああ、いいよ。待ってな、勝負決めるから」
怪我させるかもしれないな、シオンの薬があるから大丈夫か。
魔力を集中させる、アレサのために。
「いくよ、アレサ!爆発魔法!」
火炎魔法よりも少し小さい火球が、アレサに向かい飛んでいく。
「これがあなたの最高の魔法…がっかりだわ。行きなさい『魔餓魂』包み込みなさい」
魔餓魂がまた餃子の皮のようになり、火球を包もうとする、ここまで予定通り。
「よし、まだまだいくよ!防御魔法!」
火球と魔餓魂のちょうど間、火球を包み込むように防御壁を作る。
「無駄よ、魔餓魂は防御も喰らう!あなたの作戦は失敗よ!」
「何とでも言えよ、まだ終わってないからさ」
餃子の皮が火球を含んだ防御壁を完全に包み込んだ。
「まだまだ!氷魔法!」
防御壁が飲み込まれた頃を見計らい、氷で魔餓魂を包み込む。
やはり、あいつが薄く伸びた時は半紙の様に表と裏がある。魔力を喰える側と、そうでない側が。
温度の下がった物体は壊れやすくなる。今の魔餓魂は簡単に砕けるガラスだ!
「いっけー!着火!」
魔餓魂の中で大爆発が起こる。
「なっ⁉︎」
それは本当にガラスのように砕け、アレサが爆発に巻き込まれる。
「勝った…」
「シオン、火傷に効く薬あるか?」
「もちろんあります、うちの薬をなめないでください」
アレサの火傷がみるみる治っていく、すごいなこの薬。
「負けたわ…悔しいけど約束は守る、何でも聞いて」
アレサが言う。私は早速、一番聞きたかった事を質問する。
「アレサ…お前、その能力って人を喰うんじゃないか?」
アレサは驚き、こっちを見る。
「どうしてそんな事聞くの?キアレの事はいいの?」
「いいんだ、それは後で聞くから。なぁ、教えてくれ」
「ええそうご名答、私の…私の魔餓魂は、定期的に魔力を喰らわないと死んでしまう。もちろん、その能力者である私も。そのせいで私は…私は…」キアレが涙を流しながら続ける。私はいま、アレサにとって触れられたくないところに首を突っ込んでるんだ。「私は昔…親と友達を喰らった。魔力がないと死ぬなんて知らなかったから、私の生存本能がそうさせたのね、気がついたら一人。その後はみんなに避けられたわ、人殺しって。当然よね?私といたら死ぬかもしれないんだもの。でも、キアレは違った。ずっと私と一緒にいてくれた。キアレは私に少しずつ魔力をくれたわ。キアレに恩を感じていた。だから庇ってた」
アレサの過去が私の脳内で映像として流れる。何でこんなに親身になってんだろ、くそう涙が出てきた。
「アレサ、また会いに来てもいいか?私の魔力を分けてやるよ。ほら、私の能力ってさ、アレサと相性いいじゃん?」
アレサの涙が止まらなくなる。
「本当に、本当にいいの?だって私、あなたに…」
「いいんだ」泣いているアレサの言葉を遮り、私は続ける。「私も似たようなもんだからさ、私も一度魔力の貯めすぎでひどいことになったから。そんでさ、よかったら私のこともマリって呼んでくれよ」
「うん、ありがとう…マリ」
アレサは悲しい過去を送ったんだ、だったら未来を楽しんだっていい、私はそう思うんだ。
「そうだマリ、キアレの事だけど、動物を連れてきたのはキアレなの。私はキアレに頼まれて家に連れて帰っただけ。キアレは今、キアレのお気に入りの場所にいる。あなたは間違ってるって言ってあげて」




