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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第8章 弱き者らの導き手
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互いの優しさ

 話を終えると、少女は隣で私の目を見つめる。涙を流し、少し赤くなった目で。私はずっと少女の方を向いていたので、それを快く受け、微笑んだ。

 少女の頭に切れていない方の手を乗せ、優しく撫でる。子ども扱いをしたわけではないが、少々恥ずかしくなり、子どもの頃によくモエミにされた行動をとった。今思えば、あの頃私はよく泣いていた気がする。

「わたしのこと、嫌いになったりしないかな…」

 恥ずかしそうに頬を赤らめた少女が心配そうに言う。

「言ったでしょ、信じてあげなさい、大丈夫だから」

「何の保証も、ないよ…」

「そうね…、無責任よね。でも、もしそれを隠すとして、あなたは心から友達と笑えるの? …私はあまり笑えないわ。友達を馬鹿にする時くらいかしら」

「笑わないの?」

 少女に言われ、私はマリやモエミの顔を思い浮かべるが、優しいところは何1つ浮かばず、ドジをしている時や私が馬鹿にしている時しか思い出せない。優しい2人を私は沢山知っているはずなのに。

「笑えないの…、私、イヤな性格だから」

 溜息を吐き、少女から目をそらす。

「あなたには、私みたいになってほしくない。それだけ」

「そんな…お姉さんは…」

「私も、言えたらいいんだけどね…」

 今までの仕事を思い出す。能力を使う度に僅かに上がる呼吸、必死になり抵抗する敵の攻撃の痛み、紙の剣で肉を貫く感覚、血の匂いとイヤな温かさ、死ぬ直前の憎しみに満ちた目。全てが私の脳に焼き付いて離れない。

 私の行動が、私がそれを作り出した。自業自得だが、立場上不可避の惨劇。赤黒く染まった地に立つ私は、厚かましいがさしずめ死神にも近いだろう。

 世界を脅かす存在、それを退ける世界守わたし

 “わたし”とは何なのだろうか。私の人生なんて、人を殺してご飯を食べて、人を殺して夜眠って、それ以外に目立った出来事など無い。年頃の女の子らしい事などあるわけもなく、これから先、恋も縁がないだろう。世界守をしていたお母さんがお父さんとどういった経緯で出会ったのか甚だ疑問である。

 いや、お母さん達の事はどうでもいい。顔も知らないのだから。

 時々考える。お母さんはなぜ私を産んだのだろう、と。

 私が生まれてすぐに亡くなった2人、考え方によっては私に世界の平和を押し付け、自分は逃げた様にも捉えることができる。実際に見たわけではないのだから、本当に外界の奴に殺されたという確信はない。私の知識は全てモエミの言葉だ。疑っているわけではないが本当に逃げたのだとしたら、

 だとしたら、私は––––

「お姉さん、泣いてるの?」

 少女の声が聞こえ、私はハッとする。言われるまで気がつかなかったが、涙が頬を伝う感覚が確かにあった。

「……ごめんなさい、色々暗い事考えて、それが情けなくって…」

 涙を指で拭い、急いで取って付けた笑顔を作る。

「大丈夫だから…ね?」

「………」

「………」

 一瞬の沈黙の後、私は何の前触れもなく少女に優しく抱きしめたれた。脳が考える事を停止し、何が起こっているのかわからなくなる。

「なっ…何…!?」

「元気が出るおまじない、なっちゃん…友達が辛い時に、いつもやってって言われてるから…」

 私よりも低い身長、頭一つ分は違う少女に抱きしめられ、安心してしまう自分がいる。こういう事をされたのは2回目だが、1回目とは違う優しさ、不思議だ。

「生意気……、ふふ、ありがと…」

 自信なくすなぁ、私の方がお姉さんなのに。

 少女は微笑み、私の体から手を離す。出会ってすぐの人を抱きしめるのはさすがに恥ずかしかったのか、少女は頬を赤らめている。私の平手打ちを食らった左頬は真っ赤だ。

 私は深呼吸をし、心を落ち着かせる。

「…ごめんなさいね、言ってる事とやってる事が矛盾してるわね、私」

「ううん、元気出た」

「そう。私も、ありがと」

「名前、聞いてもいいかな…」

「白花よ。霜月 白花」

「白花、お姉さん…」

「お姉さん…」

 シオンは呼び捨てなのに、1つ上の私はお姉さん。ずっと呼ばれていたが、名前をつけられるとどうもむず痒い。

「あっ、いやそのっ! …い、嫌かな?」

「い、いえ別に…ただちょっと照れくさいだけ。…こちらこそよろしく、鬼灯ちゃん」

 私が微笑むと鬼灯ちゃんも微笑む。そして何かを決心したような顔をし、

「この力、ほんとうに強くなるまで使わないでおく事にする。あと、精神的にも。とりあえず今日、シオンに謝らなくちゃ」

「その時は仕事を手伝ってもらおうかしら」

「うん、約束」

 そう言って鬼灯ちゃんは小指を立ててこちらに向ける。私はそれを見て察し、それに小指を引っ掛けて指切りをする。少々子供っぽいが、悪くない。

 指切りを終えると、鬼灯ちゃんは勢いよく草花の方へ駆けていく。ある程度進んだところで振り返り、

「じゃあ、行ってくる!」

 と手を振ったので私も小さく手を振る。鬼灯ちゃんはニコッと笑い、振り返る事なく走って行った。姿が見えなくなるまで手を振った私、表情がいつもより柔らかい気がする。

「いたた…ちょっと、カッコつけちゃったかな…」

 ナイフで切れ、血で赤くなった手を包帯に変化させた紙で縛り、私もその場を離れる。




 医者いらずの森を抜けた私は、真知さんの図書館に向かわずそのまま帰宅する事を選んだ。ルカと鬼灯ちゃんの決闘、それが原因で死にかけのルカを草花に連れて行き、鬼灯ちゃんと出会い、話をした。感覚で物を言う事になってしまうが、かなり時間を消費して決まったはずだ。無駄ではなかったが。

 性格の変わったマリの相手をするのは怖いが、今日は引き上げた方が良いと判断した。早く、早くと焦るほど良いことはな1度情報をまとめ、明日に備えるべきだろう。

 もっとも、情報は雀の涙ほどで、まとめるまでもないだが。

「ただいま」

 家に帰った私は居間にいるモエミに声をかける。見たところいるのはモエミ1人で、マリの姿は見当たらない。机の上に湯呑みが2つあるという事はまだ帰っていないのだろう。ちゃっかりお煎餅の袋も開けられている。

「おかえりなさい。事件の解決…はまだみたいね」

「今日中になんとかしたかったんだけど、色々面倒事に巻き込まれちゃってね」

 嫌な事ばかりではなかったが、と心の中で付け加えておく。1番嫌だったのは、シオンの作ったお茶だったかもしれない。そう考えると可笑しくなってしまう。

「あら、何ニヤけてるの?」

「別にニヤけてないわよ。変なこと言わないで」

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