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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第8章 弱き者らの導き手
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力を与える

「子供?」

 子供のあなたからその言葉が出るのはどうなのか、という疑問は呑み込む。

「うん。女の子。もしかするとわたしより下かも。わたしの方が背高い」

「そんな子があなたに力を?」

「そう。でもありえなくはないと思う。いろんな人間が世界中にはいるから」

 言いながら少女は身体もこちらに向け、木にもたれかかる。その言葉はあながち間違いではない。

 現に“神の声が聞こえる”能力や、“どんな願いも叶える”能力を持った人がいるのだ。それに比べれば“他人に力を与える”能力などどうでもない。私の能力も可愛く見える。

 更には真知さんのように歳の割に背が低い人もいる。それと同じの可能性もあるのだ。

 私は頭を抱え、また面倒な奴が現れた事を嘆く。

「ほんと、退屈しなくていいわよこの世界は」

 皮肉を込めて冷たく言い放つが、それは少女にではなく世界にだ。面倒ごとには困らない、そんな世界の守人は私である。この少女にもそれを分かってほしい。崇め奉れというわけではなく、面倒ごとを起こすなという意味でだ。

「で、そのお子さまはなんであんたに力をあげたのよ」

 私が尋ねると、少女は短髪をグシャグシャとかき回して思い出そうとする。

「なんだったかな、会ってすぐ“弱いね”って言われた」

「あらら、それは随分ね…」

「仕方ないよ、本当のことなんだから」

 意外な返答に私は「まあそうね」、と頷いてしまいそうになるが、ここも空気を読む。下を向いた少女は「でも」と言い、そのまま続ける。

「その後、『君は凄い力を秘めているから、ぼくがその力を全てとはいかないけど引き出そうか?』ってその子が言ったんだ」

「で、自分は本当は凄いんだ、とか調子に乗って頷いちゃったのね」

「うん…」

 少女は自身の右の手のひらを見て、溜息を吐いた後に強く握り、言う。

「おかげで今はね、これまでとは真逆の立場にいる気分」

 私はその言葉に違和感を覚える。その正体は分からないが、とりあえずはその子供について知る事が優先だろう。軽く相槌をうち、

「それで、その子に何かされたの?」

「うーん…特に何もされてないよ」

 首を傾げていう少女に、全くこの子供は、と呆れながら間髪入れずに問う。

「何もって事はないでしょうよ。ほら、体を触られたとか、目を合わせたとか、そういうのは? それだけでも能力を使える奴はごまんといるのよ。私も一応触れる系統だし」

「あ…そうなんだ…、えっと…何かあったかな…」

 今度は両手で髪をグシャグシャする少女。女の子がいのちをそんな風に扱うのはどうかと思うが、必死に思い出そうと努力しているのだから、それも仕方のないことなのかもしれない。当然、私ならしないが。

 などと考えている間にも少女は髪をグシャグシャとする。

「うーん、うーん…」

 やや間を置いて、少女は唸り始める。先程のようにパッと思い出せないようだ。細かい仕草のため、思い出すのが難しいのだろう。むしろ覚えている方がおかしい。

 少し待ってみたが、いよいよじれったくなってきた私は前に出て、少女を止めようとする。

「あー、やっぱりもういいわよ。別にそんな–––」

「あっ! 思い出した!」

 彼女の肩に手を置こうとした瞬間、少女が大声で叫んだので驚く。

「びっくりした…で、本当に思い出したのね?」

 疑い気味の私が尋ねると、少女は自信満々に首を小刻みに縦に数回振った後、

「うん、多分アレだ。こう…『クルッ』って」

 と言いながら少女は手を銃のような形にし、それをくるくると何度か回してみせた。その手の動きに比べ、少女の真剣な顔を見るとなんだか笑えるが、なんとか堪える。

 なるほど、確かに日常生活ではしない仕草だ。おそらくそれで間違いはないだろう。

 “力を与える”能力。それを使い町の住民を狂人化させ、事件を起こした、と考えられなくもない。だがそうなると、マリは説明がつかない。アレは本当に性格が真逆だ。やはり犯人は“人の性格を真逆にする”能力の線が有力だろう。

 しかし、本当に少女の言う子供は事件には関係ないのだろうか。これは私の世界守としての勘でしかないが、何かが引っかかる。先ほどから感じる氷の中の小さな小さな気泡のような僅かな違和感。それが大きな勘違いを招いてしまう、そんな予感がする。

「…大丈夫?」

「えっ…?」

 何の前触れもなく聞こえた少女の声に私はハッとする。やや間を置き、「何がかしら」、と少女に尋ねる。

「難しい顔してたから。もう他にないかな、聞きたい事って」

「ええ…大体は分かったわ。ありがとう」

「うん。…それはいいんだけど、お姉さんはなんでわたしにそんな事聞くの?」

「仕事よ。この世界を守る正義の味方、みんな世界守って呼んでるわ。ちょうど調べてる事件があってね、もしかしたら関係があるかも、って思って聞いてみただけよ。疑ってるわけじゃないから心配しないで」

 そこまで言うと私は首に手を触れ、

「まあでも、何ひとつ手がかりがないから手詰まりなのよね…。時間もかなり無駄にしちゃったし、今日中の解決は無理そうね」

「そうなんだ。お姉さんも大変なんだね」

「そうよ。だから無闇な戦いはやめてよね」

 私の言葉を受け、少女は反省したように頭を下げ、小さく謝った。分かってくれればそれでよい。

 ともかく、次の私の行き先は決まった。彼女に力を与えた“子供”、その子に会いに行く。力を持つ者をひたすら当たれば、いずれ事件の主犯に出会えるだろう、という気が遠くなる作戦に出る事にした。手がかりがない以上、こうする他ない。一番最初が“力を与える”子供。そして私は何より、その子供から感じる違和感の正体を知りたいのだ。

「でもそうなると…困ったわね…」

 顎に手を当て、少女を自分の世界から追いやり1人考え事をする。この作戦には問題があった。

 そもそも私はその子供の顔を知らない。たとえカナンの隅から隅まで探し回ったとして、顔を知らなければ見つける事は不可能だ。

 手詰まり後、手詰まり。モエミの持ってきてくれる情報のありがたみに改めて気付かされる。

「ったく、役に立たないんだから…」

 いや、それは違う。モエミはいつも私のために力を貸してくれている。感謝しているのだ。役に立たないのは私自身で、肝心な事は人に頼ってばかり。

 私はひとつ深呼吸する。これは私に課せられた試練なのだろうか。人を使わず頭を使えと、そういう事なのだろうか。

 ともかく、私はその子供の顔か特徴を知らねばならない。

「どうしましょうかねぇ…」

「ねぇ、何が?」

「あ、あんたまだいたの」

 皮肉で言ったわけではない、本当にいる事に気づいていなかった。考え事をしていたとはいえ、さすがにかわいそうな事をしてしまった。私の対応に少女は少しムスッとし、

「いるよ。わたしも…聞きたいこと、あるし…」

 だが、謝る気にもなれない。

「何よ。私はあんたにいう事は––––」

 少女の顔を見て、人に頼るな、とさっき自分で考えたのに、私はこれ以上ない良い案を思いついてしまった。

「そうよ…、そうだわ。なんで気がつかなかったのかしら!」

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