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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第8章 弱き者らの導き手
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急激な成長

 少女は一瞬何かを考えたような顔をし、多分能力を叫ぶ。掴んでいた少女は変身したのか一瞬にして消え、私の手は空を握る。

 逃げられた、と考えるよりも前に、私の体は力の均衡を失い、勢いよく背中から倒れた。

「っ…、痛…く、ない?」

 私は廊下に体を打ち付けたはずだ。しかし、痛みはどこにもなく、むしろ気持ち良い。まるで干したての布団に飛び込んだようにふかふかで、目を閉じればそのまま眠ってしまいそう。だが、眠っている場合ではない。

「何、これ?」

 体を起こし、手で自分の下に敷かれた何かを何度か押す。まるで布団、というよりそのまんま布団だ。

「なんでこんな所に…」

『いいから、早く退いて』

「きゃっ、なにっ!?」

 どこかから聞こえた声に私は声を上げて驚く。その声は上、左右、前後ではなく、下から聞こえてきた。だが、私の下には謎の布団しかない。

 もしかすると幽霊の声でも聞こえたのかもしれない。そう思うと背中が凍りつくように恐怖が襲ってきた。

 自然と体を震わせる。おばけは苦手だ。

『お姉さん、早く、重くないけど退いてよ』

「まただわ、もしかして、呪い…嫌だっ、おばけ怖い…」

『お姉さん、何か勘違いしてない? 話聞きたいって言ってたじゃん。わたしだよ。布団に変身してるけど』

「えっ…、……!」

 私は飛ぶようにその布団の上から離れ、壁を背にしてそれを見つめる。するとその布団は光を放ち始め、ウネウネと動きながら人の形へと変化していく。

 それは一度見た光景、間違いはない。

 ややあって、その布団だった“モノ”は光を放つのを止め、長い息を吐いて申し訳なさそうに私に話しかける。

「……外で、ここじゃわたしの友達に聞かれるかもだから」

 布団から人間に戻った少女がそう言ったので私は頷き、少女の後ろに着き、そのまま『草花』から離れる。その背中は悲しみで溢れている気がした。


 「どうしてこの店に?」

 歩いている途中、私は尋ねた。偶然にしては出来すぎている。だが狙っていたとしたら、逃げる必要もないはずだ。

「さっき言った友達ね、その娘がわたしを運んだ」

「友達って、あの大きなオオカミのこと?」

「……!」

 少女は足を止める。背中越しに驚きか、動揺かがうかがえた。どうしたのか尋ねる前に少女は止まった足を再び動かし始める。

「いや…普通の人間だよ、普通の…、もしかしたら食べられたんじゃないかって驚いただけ」

「ふぅん…そう」

 少女はどこか様子がおかしかったが、これから色々話してもらわなければならない。深く追求はしないでおく。思い過ごしであるならそれに越したことはない。

「もういいかな…」

 草花を出て少し行った場所。薬草だらけのこの森に特定の場所というのもおかしいが、少女がボソッと呟き、そこで立ち止まったので私も止まる。

 「友達に聞かれるかも」、というのは自身の行いを知られたくなかったからなのか、それは私もなんとなく理解できる。嫌な事をとやかく言われるのはなおさらだ。この場所に来たのはおおよそ保険だろう。

 私は頭をポリポリと掻き、少女が口を開くのを待つ。

「わたし、最低だよね」

 やや間を置いて暗い溜息をひとつ吐き、1本の木に右手をつけると、少女は私にその哀しい背中を向けたまま言う。

 少女の声はすぐにでも泣くことのできるような声で、涙を我慢しているように思えた。

「そう思うわ」

 私は敢えて冷たく当たる。今の彼女にはこちらの方がいい気がしたからだ。それは間違ってはいなかった。

「うん、ありがと」、と言い顔を僅かに下へ向け、「浮かれてたんだよ」

「浮かれてた?」

 少女には見えないが一応私は肩をすくめる。

「新しい能力に。お姉さんも見てたよね。変身じゃない方のやつ」

 私は、彼女に襲われそうになった時、彼女の服の袖が尖ったのを思い出し、

「あぁ、私に襲いかかってきたアレ」

 再び冷たく言うと、少女は頷いて左拳を固く握る。

偽物遊びイミテーションマジック、相手と全く同じチカラを使える力」

 どこか悔しそうな少女に、私は違和感を覚える。ルカと決闘をしていた時と性格がまるで違う。私は事件の手がかりを期待して聞こうとする。

 少女の右手に力が入る。指先が木に擦れて痛そうだ。

「あんな能力、わたしは使えなかった」

「使えなかった…、シオンに少し聞いたわ。あなたが急激に力をつけた、って」

「そうなんだ。だったら話が早いね」

 そう言って少女は首を回し、背後で聞いている私をチラッと見る。私からは彼女の表情は見えなかった。

 少女は続ける。

「変身する、させるチカラ。あれがわたしの本当の能力。お姉さんも知ってるよね、わたしがあの人を恨んでいたこと。…わたしだって能力者だ、友達を守れる程度の実力はあると思ってたし、今まで2人で辛い世の中を生きてきた。そのこれまでをズタズタにされたんだ…友達を傷つけられ、自分も傷だらけにされた。わたしに実力なんてなかったんだ…、だから、だから強くなろうって決めた。シオンに頼んでね。でも…」

 少女はここまで言って言葉を詰まらせる。続きを催促しようと思ったが、さすがに空気を読んで自重する。口を尖らせ、鼻で息を吐く。

 やや間をおき、少女は再び続ける。

「わたし、目の前の、すぐ手に入るチカラを選んだ。そんなもの、望んでなかったのに、目が眩んだ。弱いから…」

「そう…」

 少女は頷く。わずかに体を震わせ、また右手に力が入るのが見て取れた。

 だが私のそれに対する答えは非情だ。

「はっきり言うと、まったく分からないわ」

「え…?」

 ようやく少女がこちらに向けた顔は鳩が豆鉄砲を食ったようなものだった。

「正確には“聞きたい部分が明確でない”ってだけ。どうやって力をつけたのか、そこを教えて。なんとなくだけど言いにくいのは分かったわ。でも、私にはその情報が必要なの」

 私は町が一瞬にして森に変わった時の事を思い出す。つまり、この少女は町をも作り出した、ということなのだ。莫大な魔力を消費しそうなその技、この小さな女の子のどこにそんな力があるのだろうか。はっきり言って人間業ではない。マリのような能力でなければ。

 私は少女の話を聞いて感じたことをそのまま訊いてみる。

「聞いた限りだとあなた、魔力も増えたんじゃないの?」

「うん…よくわかったね」

「職業柄ね」

 私が面倒くさそうに言うと、少女が少し笑ったような気がした。その後、少女は口を開く。

「わたしが1人で修行してた時、わたしと同じくらいの歳の子に出会ったんだ」

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