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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第2章 優しさに酔いしれて
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真知の家族

途中からマリ視点になります

 真知さんの家は図書館だった。カナンでも本は作られているが数は少ない。そのため、新聞や他の世界から流れ着いてきた本がほとんどだ。絵本に小説、漫画もあった。

 事件が片付いたら、前にいた世界で好きだった漫画を読みに来よう。しかしずいぶんと高いところに本が置いてあるな、空を飛べない人は取れない高さだ。

「へー、ここの図書館お前…マチさんのお家だったんでございますか」

 鞠さんが無理のある敬語を使う。いや、これは敬語なのか?

「鞠さん、あなたよくここに外界の本を借りに来てたでしょう?今度はこの本を借りに来たらいいわよ」

 真知さんが手に持っていたのは「猿でもわかる礼儀作法」という本だ。絵に描いたような題名に、俺は思わず吹き出しそうになったが、図書館ということもありなんとか堪える。

 その隣で、笑いもせずに深刻な表情で、その方があなたのためよ、と白花さんが鞠さんの肩に手をぽんと置く。

「なんだよ…なんだよなんだよ!そんなに礼儀が大事か!もう私もアレだぞ!えっと…その、泣くぞ!」

 鞠さんには迫力も何もなかった。子供のように泣きそうな顔をしている。そもそも泣くぞと言われて何と応えればいいのだ。

「まあまあ、冗談はこの辺にしておきましょう。アレサー、ちょっと来て!」

 真知さんがやや大きめの声で人を呼ぶ。アレサ、その人が誘拐犯なのだろうか。

「はーい、今行きまーす、どうなさいましたー?」

 アレサと呼ばれた少女が飛んでやってきた、本当に飛んで。

 ああ、それで天井が高かったのか。あんな高い所にある本、一体誰が取れるのかと思っていたがなるほど、アレサさんが本を探して取るといった感じか。と、俺は1人で納得している。

「真知さん、ご用件は?」アレサさんが聞く。

「いやね、こちらの方々があなたに話を聞きたいって。ほら、あなたが連れてきた動物達のことで」

 それを聞いた瞬間、アレサさんの表情が硬くなる。何かやましい事があるのか?

「はい、わかりました。何なりと聞いてください」

 と、少し開き直ったか冷静な表情に戻った。

「ぐすん、率直に聞く、お前…動物誘拐犯か?」

 怒りを含んだ声で鞠さんが訊く、が、最初のグスンで台無しだ。

 しかし、動物を誘拐した事を許せないという気持ちと、馬鹿にされて悔しいという気持ちが入り混じっているのか、鞠さんの手は硬く握られている。

「いいえ、誘拐なんてしてません。言い掛かりはよしてください」

 一方アレサさんも強気に出る。

「そうか、じゃあお前が連れてきたという動物はどう説明する。どこから拾って来たんだ?」

 鞠さんが圧をかける、しかしアレサさんは知らないとかぶりを振る。

「なんで知らないんだ?お前が連れてきたのなら知ってるだろう?」

「知りませんよ。だって私じゃなくてキアレが…っ、いえ、何でもないです」

 アレサさんが、まるでドラマや映画のようなとぼけ方をする。それを聞き逃す鞠さんではない。

「キアレ?誰だそいつは、お前の仲間か?教えてくれよ。何でも聞けって言ったよな?」

 鞠さんの話の聞き方はまるで極道か借金取だ。白花さんではないが、この人の将来が心配だ。

「知りません、どうしても聞きたいなら力ずくで聞けばどうです?」

 アレサさんがそう言うと、待ってましたとばかりに鞠さんの頬が緩む。

「おおそうかそうか、だったら早く外へ行こう。室内じゃ私も本気を出せないからな」

「いいですよ、私もそろそろ時期なので」

 鞠さんとアレサさんは外へ向かう。俺はアレサさんの謎の台詞と、去り際にニヤリと笑ったのを、少し不気味に感じた。


 ようやく魔法が使える。やっぱり魔力は定期的に消費しないとな。アレサとか言ったかな、私の得意な魔法で灰にしてくれよう。

「私が能力者なのは真知さんから聞いてるかしら」

「おう、どんな能力かは聞いてないから安心しろ。私は正々堂々と戦いたいんだ」

 空へ向かう。地上は家があるから、そこらへんの気配りは私にもできる。

「じゃあ、始めますか」

 そう言ったアレサの周りに現れたのは、五つの白いふよふよしたもの。何だあれ、わたあめか?

まあいい、私の能力でふよふよ共々消し炭にしてやる。

 私は手を前に出して重ね、魔力を集中させる。私の得意な火炎魔法だ、溜時間チャージはそれ程必要じゃない。

「燃え尽きな!火炎魔法フィアンマ!」

 半径3メートルほどの火球をアレサに向かい放つ。

 が、アレサは避けなかった。普通の人間なら驚いて何とかして避けようとするはずなのだが、何か策でもあるのか。

「あまいよ、私を舐めすぎ」

 アレサがボソッと言うと白いふよふよが1つに固まり、薄く、丸く伸びる。まるで餃子の皮のようだ。

 その餃子の皮が私の火球を包み込み、喰らってしまった。

「な、何だ今のは⁉︎」

 私は驚きを隠せない。いや、これを見て驚かないやつがいるのか?直径6メートルの火球を一瞬で飲み込み、また同じ大きさの5つの白いふよふよに戻ったのだ。

 何なんだ、あの白いふよふよは…。

「驚いた?この白いふよふよは魔力に飢える魂、その名も『魔餓魂マガタマ』。飢えた魂ハンガーソウル、私はそう呼んでいるわ。あなたは魔力をたっぷり蓄えてそうね。1か月分くらいかしら?」

 そう言いながら、アレサは魔餓魂マガタマを動かしてみせる。5を10、10を20、と倍に分裂させるという芸当もした。

 魔力を喰う魂、私の能力と相性悪すぎじゃないか。しかもよく見ると白いふよふよには小さな牙が見える。もしかして、魔力だけじゃなくて人間も喰うんじゃないか?

 しかし、私の辞書に“諦める”の文字はない、不可能を可能にする事が私は大好きだ。

「ふん、言いたい事はそれだけか?私の魔力が1か月分?笑わせるじゃん。いいよ、本気でやってやる。私の魔法をたっぷりご馳走してやるよ!」

 私の知っている言葉の中で最高の決め台詞をアレサに言い放った。

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