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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第8章 弱き者らの導き手
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静かな戦い

 そう言い終える頃にはもう時既に遅く、シオンは見えなくなっていた。仕事が忙しいのは本当の様だが、面倒を残して行かないでほしい。そもそも傷薬だけ渡して、渡す物としては解毒薬の方が適切であるはずだ。

 私はそんなシオンに怒りを覚えることなく、ただただ落胆するばかりだ。

「私がなんとかすればいいって、なんでそうなるのよ…」

 1人愚痴をこぼし、膝をついて座り込むが、よく考えてみればまだ何が起こると決まったわけでもない。ルカが適当に勝てば、万事解決だろう。そう考えると少しは気持ちが楽になる。

 私の個人的見解では、ルカが圧倒的有利だ。あの少女の素人っぽさ、更には能力の強さの差もルカとはかけ離れているはず。変身と毒では勝負にもならないだろう。

「勝手にしなさいよ…」

 2人を容赦なく突き放す独り言を言った後、私は少し離れた位置にある一本の木にもたれかかった。

 2人はといえば、既に私の存在も忘れて火花を散らしあっていた。私は耳をすませ、遠めに聞こえる会話を注意深く聞いてみる。

「知らないで戦うのもなんだから、名前、聞いとくよ」

小京こまち 流果るか、つづみ様の一番弟子です」

 いらない情報を1つ付け加えて自己紹介したルカに、少女は顔をしかめる。何か気に入らないことがあったらしい。

「…、なんか違う」

 少女はいたって真面目な表情で言う。

 何が違うのか、きっと一番弟子とかいう無駄な情報だと私は考えたが、どうやらそれは違ったらしい。少女はルカに指をさし、

「シオンが決闘する時は丁寧語と手加減は無しだ、って言ってた」

「ほお、そうなのですか。ですがこれは癖でして、やめろと言われてやめられないのです」

 少女は一瞬考える仕草を見せ、

「…なら、しょうがないか」

 と言って息を深く吸い込み、ゆっくりと吐き出す。目が動物にも似た狩るものの目となり、

「我が名は鬼灯ほおずき。この戦いは我が宿命なり」

 ルカの目だけを見て、少女が言った。復讐という名の決闘も、もう時を待たずして始まる様だ。

 気にもたれかかり、楽な体勢を取っている私は、その様子を子供の喧嘩を見る様な感じで見ている。兄と妹の行き過ぎた喧嘩。私にとってはそれと何ら変わりない。

 だが、私の存在を自分の中から消し去り、いたって真剣な少女は自身の髪の毛を数本掴み、

「手加減無しだよ」

 と言ってそれを引き抜く。少女は長い髪ではないため、抜きやすそうではあるが相当痛いだろう。それに、女の子として私は引いている。ありえない。

 ルカはその様子を何の疑問も持たずに見て、手足をぶらぶらさせる。その準備体操を終えると、数回軽く垂直跳びをし、それを終えたところで笑みを浮かべた。

「わかっています。手加減は相手にとって最大の侮辱行為、殺す気でかかってきてください。わたしもそのつもりです」

「当然。進化した嘘つき遊び、いくよ…偽物遊びイミテーションマジック

 能力を叫んだ少女が先ほど抜いた髪の毛を自身の周りに散らすと、周りに色鮮やかな蝶たちが一瞬にして現れたので、私は驚きを隠せないでいる。あれは間違いなくルカの能力で、それを少女が使っているところを見ると、少女の能力は単なる変身ではないのだろう。

 だが、よく見てみると蝶の色がほんの少し違う。ルカの蝶が鮮やかな紫色なのに対し、少女の作り出したのは赤紫色。ぱっと見では見分けなんてつかない。

 ルカもその少女の行為に多少驚いてはいるが、いたって冷静な状態で関心にも近い表情を浮かべる。

 赤紫色の蝶たちを周りに遊ばせる少女に、ルカは苦笑し、

「どういうつもりか知りませんが、偽物は所詮偽物。二流三流がいいところでしょう。オリジナルは永遠に超えられない壁となり立ちはだかる。…分解されて美しく散れ、この蝶、凶悪につきカースバタフライ

 今度はルカの周りにも蝶が現れる。本物の鮮やかな紫色。2つ並べて比べてみると違いは歴然だった。それにルカの蝶の方が一回り小さい。

 ルカの言う通り、少女の蝶は偽物なのだろう。おそらくばら撒いた髪の毛を変身させた物。ルカの蝶と同じ能力を持っているのかだけが疑問だ。

 本物の蝶を目の前に、少女は一歩も引かず、見せつける様に蝶を操ってみせる。

「わたしは二流でもなければ三流でもないよ。オリジナルを超えるからマジックなんだ」

「ふむ、威勢はいい様です。上行きましょう。ここではあなたもわたしも、戦うに十分な動きがとれませんから」

 少女はその申し出に首を縦に振り、2人は同じ速度で空へと浮かんで行く。

「まったく…」

 一応見届け人である私も、木から背を離して空へと向かい、少し離れたところで木の葉の上に座ろうとする。さすがに普通では座れないので、私も能力を使い葉をふわふわのスポンジに、枝を鉄棒に変えてそこに座る。

 私が座り心地を確認していると、もう既に決闘が始まっており、2人は空を右へ左へと飛び回っている。

 激しく空を飛び回るが、互いに蝶で牽制しあう戦いは動きに見合わず静かなものだ。私は近接攻撃主体だが、能力者同士の戦いにはこういったものもあるのだと、私はなぜか納得する。

 蝶を1匹相手の方に向かわせては元の位置に戻し、相手の蝶を避けては向かわせ、を2人は繰り返す。見栄えは地味ではあるが、蝶の危険さを知っているため緊迫した状態は続く。

 当たれば即終了の戦い。2人とも慎重かつ大胆に攻め、避ける。気を張り詰め、息が詰まりそうなその戦闘模様を、私はふかふかの即席椅子に座って見物する。

 戦いながら相手の出方を見るため、少女はルカに話しかける。無論、その間も攻撃は止まない。

「毒、カビ、ウイルス。わたしの作り出した奴らも同じだって気づいてたんだね」

 やや息を切らせ始めた少女が言うと、ルカはそれに答える。攻撃はこちらも同様だ。

「自分の能力ですから。まあ当然でしょう。つまり、貴女もこの危険さを知っている」

「まあね。触れたらダメ、燃やしてもダメ、何をしても無意味…自殺行為。ただただ触れさせるのみ」

 少女は遠回しに『強いけど使い勝手の悪い能力』、と言っている。実際に使っているから、そう言えるのだろう。ルカもそれには同意し、戦いの最中ながら歯を見せて笑う。

「子供の頃、カビたパンや毒ガスを経験しましたから、それの恩恵ですかね。嬉しくもないですが。まあでも、もう少し強い能力が開花してもよかったと思ってます」

 そう言いながら、ルカは牽制に3匹の蝶を派遣する。

「贅沢だね。でも、過信しすぎるのはよろしくないね。わたしは変身1つであんたに勝つつもりだよ」

 3匹を当然の様に避ける少女。その避けた先にルカはもう1匹を向かわせるが、少女は自身の蝶をぶつけ、相殺させる。

 2匹の蝶がぶつかり合い、バラバラに崩れて散らばる。その欠片を吸い込まぬ様、2人はそこから瞬時に離れた。

「てか、勝てるもん」

 少女の台詞を合図に、2人の戦いは一度止まる。ルカは息を長く吐き、

「それも道を間違えさせた時と同様の嘘か、はたまた自身の身の丈を知らぬ愚かな自信か、どちらにせよ、わたしは負けない」

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