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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第8章 弱き者らの導き手
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記憶力勝負…はしていない

 派手には動けないが派手な格好はするのか、という言葉は吞み込む。明らかにルカの服装は雰囲気に合っていない。月と石ころくらい違う。その点は自覚がないらしい。

 だが、本人がいいならそれでいいのだろう。下手に言っても面倒なだけだ。

「それで、何か当てはあるの」

 当てのない私はルカに尋ねる。私の持っていない有益な情報を持っているなら、それを共有してほしい。犯人に思しき人物を知っていれば嬉しいのだが、流石にそれはないだろう。

 ルカは歩きながらやや大げさに肩をすくめ、

「さっぱり。わたし達の様な能力者であることは確かなのですがね」

「知ってるわよそんなこと。はぁ…探偵も楽じゃないわね」

「おや、霜月氏は探偵だったのですか」

「違うわ。ものの例えよ、例え」

 そう言った後に下を向き、モエミの苦労をほんの少し知る。1から調べ物をするとは、広い森の中で1つの決まった木を探す様なものだ。途方もない作業、瞬間移動とはいえ、モエミはどうやってこなしているのか理解しがたい。

 そんな事を考えていると、街の中心部まで来てしまったことに気がつく。モエミ曰く聞き込みは無駄とはいえ、何もせずにここまで来たのは今までで初めてだ。

 いっそ誰かに訊いてみようかと思うが、無駄なことは嫌いなのでやめておく。だが事件が起こっているのはここ以外のどこでもない。どうするべきか、何をすべきか、私は唸りながら悩む。

「マリの家の方面は昨日行ったし、どうしよ」

 独り言を言うと、ルカがそれに反応する。

「町外れはどうです。あそこは能力者と変わり者が多い」

「それ、あんたが言える台詞なの」

「言えませんね。わたしとつづみ様も今は町外れに住んでいるので、変わり者達の一員なのでしょう」

 そうだったの、とどうでもいい情報を適当に流す。

 だが町外れという選択は非常に良い。どうせこの辺りは何も知らない人達しかいない。だったら多少面倒でもそちらに行く方が確率は高いだろう。いざとなれば真知さんもいる。

 私はルカに先行し、町外れの方へと向かおうとする。

「えっと、真知さんの図書館のある方向は、和菓子屋さんの2つ左の道…」

「覚えていないのですか」

 私が道を指差し、確認しているとそうルカに言われ、ムッとする。

「あまり来ないから、覚えられないのよ。というか、そんな事どうでもいいでしょう。ほら、早く行くわよ」

 やや強めに言い放ち、そのままルカの顔も見ずにその道へと進む。背後から「わたしはもう覚えましたよ」、と聞こえたが、私の虫の居所を少し悪くするだけで済む。相手にするだけ疲れるからだ。

 依然、噂話の絶えない中心部を抜け、私たちは町外れに続く道へと入る。

 この道になると、噂話をしている人数はガタッと少なくなった。能力者達の耳にもこの事件は届いているだろうが、そんな事日常茶飯事である能力者達、これといって気にする様子もない人が多い。

  むしろどうでもいいといった様子で将棋を指す人もいれば、囲碁の道具で五目並べをする子供達も、それを見学する人もいる。変わり者、もしくは能力者と思うと、この人たちの性格が変わっていない事をありがたく感じてしまう。

 再び通り過ぎざま、将棋を指している人らの雑談に耳を傾けると、「町の方じゃ大騒ぎだよ」、「性格が変わる、ってあれな。まあすぐに霜月様が何とかしてくれるさ」、と私が聞いているのも気づかず駄弁っていた。

 あなた方も能力者なのだから、少しくらい協力してくれてもいいのではないか、と考えるのはおかしいのだろうか。少なくとも私はおかしいと感じない。

 しかし皆は私達のように魔力は多くないのだ。だから能力と言っても、手からちょろちょろ水が出たり、他人よりほんの少し力持ちになれたり、とその程度。一般人からすれば恐ろしいものも、私達からすればまるで子供同然。世界守なんて職業を霜月が任されるのも、必ず能力を持って生まれる赤ん坊と、その魔力の多さがあってなのだ。なんとも迷惑な話である。

「……氏…」

 この能力や魔力を捨てる事が出来るのなら、私はどれほど自由になれるのだろう。

「し……き氏…」

 世界守はマリや三葉ちゃん達に任せて、私も皆のように事件の噂をしたりするのだろうか。

「霜月氏!」

 ルカに肩を叩かれ、私は我に返る。さっきから呼ばれていたようだったが、いろいろ考えていて気づかなかった。

「えっ、ああ、何かしら」

「何かしら、じゃないですよ。何か考え事ですか」

「うん、ちょっとね」

 内容は誤魔化したものの、笑顔は作らず、あえて素の表情を見せた。特に思う事はなかったが、咄嗟でもあったからまあ良しとする。

 とりあえずルカに何の話かを尋ねる。

「ここです。この道に入って一番最初の左側の路地。ここが図書館への近道なんです」

「へぇ、そうなんだ。知らなかったわ」

 苦笑いを浮かべて言うと、再びルカは“自分は知っている”という事を鼻に掛け、得意がる。本当に年上なのかと何度感じただろうか、ほんの数回ではない。

 私がやれやれと呆れていると、今度はルカが私を先行して路地に入る。

 この人と路地の組み合わせにはいい感じがしない。人気のいない、薄暗い場所。ルカが人を蹴ったり、毒を撒いた場所だ。

 その所為か、私の足取りも自然と重くなり、挙げ句の果てには町の雰囲気さえ気味悪く感じてしまう。まるで誰か–––強いて言えばお化け–––に見られている様だ。

「ね、ねえ。さっき近道、って言ってたけど、なんで図書館に行こうと思ったのよ」

 この空気に耐えられなくなり、私は先を行くルカの背中に尋ねる。それに先ほどからこれは疑問に思っていた。

 ルカは私の方を振り返る事なく、

「なんでって、さっき言ってたじゃないですか。えっと…、マッチさん? の図書館はこっちだ、って」

 確かに言ったが、マッチさんではなく真知さんだ。ルカは名前を覚えるのが苦手なのか、不本意ながらカナンでは有名な私の名前も忘れていたのも、それなら納得がいく。

 とりあえずマッチで覚えられても真知さんがかわいそうなため、それだけ訂正しておく。「そうでしたそうでした」とルカは笑い飛ばし、未だ終わらない路地を進みつづける。

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