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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第8章 弱き者らの導き手
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白花、始動

久しぶりに書いたから少し下手になってるかもです…

 簡単に言ってくれる、と私は溜息を吐いた。いつものように目つきを鋭くさせ、もっとちゃんとした手がかりがないのか尋ねる。

「ぶっとばすかはまだ未定として、情報、もっと他にないの」

「あるわよ。それはもう沢山、町のあの家この家で性格が変わっちゃった人リストが。とは言っても、今回はこの人たちに当たっても無意味なはずよ」

 私がなぜ、と問う前に、モエミは気持ちよく説明を続ける。

「鞠ちゃんほどの実力者がこんな有様なんだから、一般人がどうこうって話じゃないわ。まあ、おかしくなった人をたどっていけば、いつかはたどり着くと思うけど」

 それも曖昧である。実力者と呼ばれ、何のことかはっきりしない様子でいるマリが羨ましい。能力や世界守についても、性格が真逆になっているのだから、興味関心がなくなっているのだろう。私はそんなマリを横目に、

「なによ面倒くさい…、私だってそんな探偵みたいに他人の身辺調査して、それでお金がもらえるのならそっちの仕事がいいわ」

「そんなこと言われても、これは私の役割ですもの。戦いには不向きなのよ」

「なんでよ。シオンの時みたいに瞬間移動で背後にいきなり現れて何かで刺せば…」

 ここまで言ってマリの表情に気づき、口を動かすのをやめる。元々怯えていたのに、物騒な事を言って余計に怯えさせる必要はないし、何より私の人間性が疑われるのを避けた。モエミへの疑問は残ったままだが、仕方がないと諦める。

 私はまた溜息を漏らす。そして、ずっと聞いてはいるものの、全く答えてもらっていない質問を懲りずにしてみた。

「それで、そのリストってのをなんであんたが持ってるのよ。今までの事件もそうだけど、毎回あんたが鍵を持っている。そろそろはっきりさせてもいいんじゃない」

「………」

 モエミは露骨に黙り込む。言いたくない理由がわからないから、私としても気持ち悪いのだ。だからその理由だけでもいい、と付け加えると、モエミの表情が少し楽になった。

 やや間を置き、モエミは軽く笑みを浮かべ、先程までとは違うゆっくりとした、まるで子供に物語を読み聞かせるように話し始める。

「この娘を助けてあげて、由藍ゆらん…白花ちゃんのお母さんにそう言われたの。私がカナンに来た時、色々とお世話になったのが由藍なの。私が今、こうしてここに居られるのも由藍のおかげ。だからね、そんな人のお願いに責任感じてるというか、まあそんな感じなのよ。だから瞬間移動で飛びまわって、いろいろ話聞いて、これでも頑張ってるんだから」

 頬を掻き、恥ずかしそうに笑って話を終えた。

 私はそれを黙って聞いていた。私が生まれてすぐに亡くなった母が理由で、モエミは今まで手助けをしてくれたのだと、それを深く知る。

 おそらくその助けてあげて、は赤ん坊の私を、という意味なのだろうが、モエミは独自解釈で母親代わりだけでなく、あらゆる事を助けてと踏んだ。それをおせっかいであると感じてしまう私がいた。ならば危険な事をさせないでほしいとも。

 複雑な心境。どうもありがとう、が出てこない。自分の性格上、仕方がない。感謝していないわけではないが、どこか腑に落ちない部分があるのも確か。

 私は自分の無知さを知らされる。

 そもそも私はお母さんとモエミの関係を詳しく知らない。仲がよかった、その程度の認識だ。その理由は特に今まで興味がなかったから。そして、モエミがあまりそれについて話したがらないから。

 何があったのかは知らないが、おそらく良いことではないのだろう。

「はあ…、なんか私が悪者みたい」

 頭を掻き、思わずそう口にする。自分は自分のために何もせず、逃げを優先してきた弱虫だ。気が遠くなる話ではあるが、悪を根絶やしにするだとか、そういう考えを持っていいのかもしれない。もちろん、正義の味方でもなんでもない私はそれは望まないが。

「正義の味方なら、マリの方が向いてる気がする」

 何の前触れもなく私が言ったから、マリはぶんぶんと首を振り、手を交差させてそれを否定する。女の子丸出しのその仕草にいつものマリらしさはやはりない。

「もう、憎たらしい」

 言いながら私はマリの両頬を軽く引っ張る。知らないとは素晴らしいのだろう。私も忘れてみたいものだ、という鬱憤を込めての行為。

「いたひよ白花ひゃん…」

「言えてない」

 やってすぐ気付いたが、抵抗しない幼気な少女を痛めつけているようで罪悪感にかられる。いつものマリなら何ともないのに、今日の私は恐ろしいほど嫌な奴だ。

 私たちをを見て笑うモエミがパチン、と手を叩く。それを受け、私は引っ張るのを止め、モエミの方を向いた。

「白花ちゃん」

「な、何よ…」

 モエミがいつもと違う真剣な面持ちで名前を呼んだため、私は少し怯んでしまう。その人は後ろに引いた私の肩にポンと手を置き、

「鞠ちゃんがこのままでもいいの?」

「いや、いい事はないけど…」

「だったら頑張りなさい。鞠ちゃんを出しにするのは私自身卑怯だと思うけど、最終的にはこれもあなたの仕事なの。私は由藍の後継者…友達として、白花ちゃんを立派な世界守にしてあげたい。迷惑なのは解ってる。白花ちゃんが争いを好まない優しい娘だって知ってるから。でも、あなたの嫌いな霜月だって、由藍のおかげで変わったんだから、あなたも霜月を、カナンを変えちゃったらいいのよ」

 モエミの言葉を、私は寺の住職に教えを説かれるかのように聞いていた。確かに、マリが元に戻らないと私が困る。特に頭痛、胃痛、熱辺りが心配だ。というのはこじつけで、単純にいつものマリがいい。いつものようにくだらない話をしてマリをからかい、笑いたいのだ。今の状態ではそれすらできない。

 そんな事を考えていると、私は長々とした台詞に上手く丸め込まれたのかもしれない。

 モエミの言葉をもう1度思い出す。

 お母さんが霜月を変えた、という話は初耳だが、私が世界を変えるとはまた大層な話だ。

 そのことについて少し考えてみる。自分の思うようにできるならどうするか、答えはすぐに出た。

「私がカナンを変えるなら、もう外からも中からも出入りできない、監獄のような世界にするわよ」

 それでいいのか、と尋ねるように言う。私が嫌いなのは事件の多いカナンであり、何もなければ住み心地が良いから、別に問題はない。

「無理ね、できないわ。いや、正確にはできるけど、あなた自身がそれを拒むでしょう」

「なんでよ。じゃあ、モエミは世界を変えられるならどうしたいの」

「今のまま。これが私の望む世界よ。由藍の愛した世界だから、私もここを愛してる」

 モエミの言葉でなく、一瞬の間もなく返ってきたので私は体を少し引く。そろそろここら一帯の空気は私をわがまま娘として包み込むだろう。その前にここから抜け出そうと、不本意ではあるが私は立ち上がる。

「あら、行ってくれるの?」

 笑顔で私に尋ねるモエミを背に、私は体を伸ばしながら、

「嫌々ね。マリのこと頼んだわよ」

 私がそう言うと「白花ちゃん」とマリが私の名前を叫ぶ。振り返ると、マリは涙目になっていた。

「無理しないでね…」

 マリにこうして見送られるのは新鮮だが、やはり私からすれば不気味でしょうがない。それを顔と口に出すのも失礼だから、私は作り笑顔を見せ、

「馬鹿ね。無理しないとこっちはやってられないのよ」

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