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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第8章 弱き者らの導き手
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正直な三葉

「ところでなんで私なの」

 無理やり連れられた私にはこれを聞く権利がある。空を飛んでいる途中、三葉ちゃんの顔を見ずに言うのは、少しムッとしていたからだ。

 それにもかかわらず、三葉ちゃんは元気な声でハキハキと答える。

「心音君に聞いたの。白花ちゃんなら詳しい、って。」

「シオンじゃダメだったの?」

「私も頼んだんだけど、仕事が忙しいんだって」

 元気な声は消え、残念そうに言う。つまり私は面倒ごとを押し付けられ、暇だから付き合う対象になった、と。それも仕方なく。

 三葉ちゃんに悪気はないのは分かる。この娘は変わり者で、シオンをよく慕っており、嘘をつかない正直な人。私とは逆、故に私はこの人にイラつきを覚えているのかもしれない。

 それを考えると溜息が出る。どうにか自分の心を紛らわせるため、別の質問をする。

「私が詳しいって、どんな店に行くのよ」

「えっとね、なんか変わった物ばかり売ってるお店。外の世界の物もあるの」

「ふーん、名前は」

「露海骨董店。友達が看板娘らしいね」

 露海。その名前に私は納得する。シオンの判断は正しかった。いろいろな意味で、シオンにあの店は刺激が強すぎるのだ。

「まあ、そうなんだけどさ…」

 言葉を濁したのは1つ重要な問題があるから。

 それはマリのことだ。私がマリの店に行く時は必ず先に教えてくれと言われており、黙って行くとものすごく怒ってしまう。それはすぐではないが、後が怖いのだ。

 いろいろ考えを張り巡らせ、一番単純な方法で問題解決を図る。

「悪いけど、お店の中に入るのは1人ね」

「えーなんでー、白花ちゃんも一緒にお買い物しようよ。友達のお店なんだから、たくさんお金持ってなくても安くしてくれるって」

 また悪びれる様子もなく、純粋に嫌味を言われる。事情を説明すれば簡単なのだが、「友達なのに意味がわからない」、と言われそうで言い出せない。お金も確かにないが、それ以上にマリを怒らせてしまうのが面倒なのだ。

 前に黙ってお店に行った時、私は30分以上拷問に合わせられた。あの時のことを思い出すだけで憂鬱になる。もう2度と、あんな目にあいたくない。

 なんとか分かりやすく、それでいて上手い言い回しを考えるが、当然時間は待ってくれない。ある程度速度を出していた所為で町はもうすぐそばに見えた。

 それに気づかずに飛んでいると、三葉ちゃんが私の袖を引っ張って知らせてくれる。ハッとしてその場に止まり、私たちはゆっくり地面に足をつけた。ここからは約1分歩きになる。

 無論、その間に考えつく訳もなく、私たちは町に到着した。

「こっちよ。ついて来て」

 マリの自宅、露海骨董店は町の中心部から見て南側。マリがいないことを祈り、私は道案内を始める。


 占いってどうやってやるの。

 道案内の途中、話す話題も特に無いから聞いてみた。興味は一切ないし、そもそも占いと平和は信じないようにしている。それだけ気まずい空気だったのだ。

 しかし、返ってくる答えはどうしようもなく参考にならない。

「適当に水晶に手のひらかざして、適当なことを言うだけ。そうしたらその通りになるから」

 占い師としてどうなのだろう、その答えに私が口を開けて呆れていると、でも前からちゃんと見える、と三葉ちゃんは付け加えた。

 ならばそちらを教えてほしいものだが、贅沢は言えない。答えなんてどうでもよかった。

「お客さんはそんなので怒らないの?」

 唯一それだけが気になり、最後に尋ねてみる。

「当たるから怒られないよ。もしだったらその時はその時、ケ・セラ・セラ、何とかなる、ってね」

「楽観的ねぇ、後で痛い目に遭うわよ」

 そうは言うが、案外違うのかもしれない。良いことばかり考えていれば、嫌なことがあっても気がつかないのでは、と考えられる。馬鹿が風邪を引かないのは、風邪を引いたことに気がついていないからだ。

 つまり鈍感、そういうこと。三葉ちゃんはどうか知らないが、私はそれだと今更気がつく。有言実行奇々怪々ケ・セラ・セラ、三葉ちゃんの能力で、私は買い物に付き合うことを決定付けられていたのだ。

 そしてその通りなら、私は店に入ってしまう。どう足掻いても、ここからは飛び去ったとしても、私は三葉ちゃんに逆らえない。嫌な能力であると同時に恐ろしく思う。

 溜息をひとつ漏らすが、ひとつじゃ足りない。あと5回くらい吐きたいが、あまりにも不自然なのでやめておく。

「ダメだよ白花ちゃん、溜息をすると幸福しあわせが逃げちゃうんだから」

「変なこと言わないでよ。本当にその通りになっちゃうから」

 反射的に強く言い返すが、三葉ちゃんは気にも留めない。やはり鈍感なのだ。それも恐ろしいところで、露世ろぜさんと2人きりにしたらどんな事になるか、想像しただけで恐ろしい。

 変な想像を捨て、道を曲がる。ここを曲がれば店はすぐそこで、変わり者の集まるマリの実家がある。

 私は目的地を指差し、

「ほらあの店、あれがそうだから」

 と言って腕を下ろそうとするが、下ろす前に掴まれた。顔を見るとにこにこ笑い、

「じゃあ早く行こうよ」

 と強引に引っ張られる。もう何も言わなかった。目をつむって腹を括り、マリが居ないことを自分の運全てをかけて願う。

 引っ張られる動きが止まり、目を開くと味のある看板が1番に目に入る。

 「店董骨海露」、三葉ちゃんは勢いよく扉を開き、こんにちはと挨拶する。

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