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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第8章 弱き者らの導き手
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人間による発電

 その声に刺激され、見ると大人の表情はぐちゃぐちゃだった。これから何が起こるのかまるで分かっているかのように、縛られた体を必死に動かしている。当然それも無駄だ。

 大男と大人では力以前に体格が違う。スラム暮らしの大人は痩せているのに対し、大男は身長とともに体重もかなりありそうだ。おそらく踏まれれば骨は砕け散るだろう。

 大男は大人の腕を握り、まるで爪楊枝のごとくポキっと折ってしまう。大人は痛みに苦しみ、意味不明な単語を叫ぶ。その言葉に意味は無いし、そもそも意識して叫ぶ訳がない。俗に言う反射だ。

 それで大人は抵抗する力も気力も失ったのか、ぐったりとして動かなくなる。今だけは言葉を知らないことに感謝した。もしぼくが言葉を知っていたら、叫んで、気絶して、見つかって、あの大人と同じ目にあわされただろう。

 それを考え、ぼくはホッと胸をなでおろし、震える足を動かせずその場に佇む。

 バチバチと音を立てる機械、それもぼくの恐怖を煽る。少しするとその音は次第に収まり、チーンという音の後、何かがボテッと落ちる音がどこかからした。

 それと同時に、先ほどまで作業をしていたロボットたちは活動を停止する。

 無音のスラムと比べ、ぼくは音に敏感になっているようだ。大男も同じく、その音に反応して大人を奥に運び始めた。

 ぼくはまた後をつける。背中を冷や汗が気持ち悪く伝い、唇が乾く。先ほどの大人を見たから、騒音により消されるはずの足音を立てないよう自分に言い聞かせ、物陰に身を隠す。

 その途中で見たものは、大量に並べられた人の形の金型と、それが流れるであろうコンベア。大男は並べられた中から金型を1つ、攫った大人と同じような背格好のものを選び、取った。

 それを受け、ぼくはある程度想像し終える。おそらく、というか確実にあの型にあの人をはめるのだろう。その後のことはまだ分からない。

 ぼくの予想通り、奥に進み終えると大男は型に大人をはめ込み始めた。そして蓋をし、コンベアの上に乗せ、その起動スイッチを入れる。

「うっし、あとは待つだけだ」

 大男がそう言うと、近くにあった扉にパスワード入力し、待合室であろう部屋に唸りながら入った。

 ぼくはそれを見送り、大人の入った型の流れる様子を見守る。内心穏やかではなかったが、騒ぐ術を持たないから特に問題はない。

 鈍い音と共に流れるコンベア、途中にいるロボットが手に取り付けられたドライバーで型を密閉し、回転する錐で頭の部分に上と下、4つの空気穴を開ける。

 ふと、ぼくは疑問を感じる。連れ去られた大人たちは当然殺されるはずなのに、あのロボットはわざわざ呼吸のための空気穴を開けた。どうせ殺すのだ、その行為の意味が分からない。

 さらに型は流れる。しかし、コンベアは以外と短く、穴を開けて少ししたら行き止まりになっていた。

 ぼくが拍子抜けしていると、今度は腕だけのロボットがその型を持ち上げ、カプセルのような大きい機械にそれをはめ込んだ。

 ロボットたちの滑らかな動きにより、そこまでの時間は1分とない。ぼくはそれに見惚れていた。無駄がなく、正確で、誰にも逆らわない。けれども、そのロボットたちも電気で動いている、と考えると虚しくなってしまう。

 ぼくが自身の間抜けさにため息を漏らすと、カプセルの中では次の作業が行われていた。頭の部分に開けられた4つの穴、ぼくはあれを空気穴だと思っていたが、どうやら違ったらしく、細い針のような物が4つ全てに回転しながら刺さる。

 針はかなりの長さで、おそらく脳にまで届いているのではないかと考える。それをリアルに想像すると、わずかに吐き気に襲われた。一旦深呼吸をし、努めて心を落ち着かせようとする。

 ほんの少し、うっすらと聞こえる呻き声を感じながら、ぼくは深呼吸を続けた。ややあって、ようやく落ち着きを取り戻し、再びカプセルに目をやると、信じられないものを発見した。

 緊張の連続で分からなかったが、この施設、コンベアやカプセルは1つだけではない。ぼくらが入ってきた入り口付近を除き、中心の方に向かい何十以上のカプセルがあった。

 そしてその全てのカプセルにも、この施設の外見同様に線が繋がっている。その線の先を追うと、全て上に伸びていた。その先に繋がれたものは、ぼくの想像をはるかに超えているものだ。

 バチバチと電気を帯び、太陽のごとく発光している巨大な球が浮いている。外から見えた光はこれだと、ぼくは自然と理解してしまう。それほど圧倒的で、威圧的だった。

 あの球は一体何なのだろう。電気を貯める貯金箱の様なものなのか、だとしたら何処でどうやって発電しているのか、謎は深まるばかりだ。

 ぼくが一生懸命考え、それに目を奪われていると、近くでバチバチとあの球の比ではない大きさの音が聞こえ始める。

 音の方に目をやると、それはさっき攫われた大人が入れられたカプセルだった。脳に刺されたであろう線、そいつが火花を散らし、発光する。まさか、とぼくは思う。

 その発光はしばらく続き、光らなくなると線は外され、カプセルの蓋も開いた。再び腕だけの機械に型は持ち上げられ、そのカプセルにより区切られたコンベアに乗せられると、中心へと向かい流れていく。

 中心まで程なくして着く。そこには機械で動く様な蓋がしてあり、中からほんの僅か死臭が漏れている。

 ぼくが鼻をつまむと、ロボットがドライバーで密閉された型を開け、それと同時に中心部の蓋も鈍い音を立てて開いた。塞がれていた大穴から僅かだった死臭が漏れ出し、ぼくはまた吐き気に襲われる。

 目を疑いたくなる光景だ。チラリと見えた開かれた型の中身、さっきまで人間だったそれは既に死んでおり、真っ黒に焦げていた。その炭は当然の様に、中心部の大穴へと捨てられる。

 その後に、浮かんだ球はより一層輝きを増す。

 ぼくの目の前で行われていたのは『人間脳発電』だと、この時初めて理解した。

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