当たり前だから
一度シオン視点に戻ります
「はぁ…今日も平和ですねー」
三人で町へ向かい飛んでいた。魔力をコントロールすれば飛べるらしい。俺も最初は飛べなかったから能力で浮いていただけだったけど、今は能力なしで自由に飛び回れる。
「あのね、平和じゃないから私たちは今こうして飛んでいるのよ?わかってるの?」
白花さんが呆れてそう訊いてきたので軽く返しておく。
「あーそうでしたそうでした。で、どんな事件なんです?一応薬は持ってきましたけど」
この事件で怪我をした人にこれを使ってあげれば、さらにお客様を増やせるかもしれない、我ながらいい作戦だ。
「薬は多分いらないかな?誘拐犯懲らしめて終わりだから」
と鞠さんが言ったので少しがっかりした。薬は売れないが…なるほどこれが鞠さん、さっぱりとした人だ。この人は多くの人に好かれるタイプだな。
「あぁ、そうなんですか。しかし物騒ですね、この世界でも子供の誘拐とかあるんですか」
薬が売れない事にがっかりしつつ、こんな素敵な世界で誘拐事件が発生している事に対しての疑問を白花さんにぶつける。
「いいえ、カナンで誘拐なんて今までなかったわよ。それに誘拐されたのは子供じゃなくて、保護されてた他の世界の動物達よ」
へー、動物もこの世界に来るんだ。どんな動物かな、犬とか猫とかじゃ保護されないしな。もしかしたら絶滅したトキやらクニマスやらがこの世界で生きているのかも。クニマスは美味しいらしいから、いっぱいいたら二、三匹もらえないかな。
「やっぱりカナンが素敵な世界だから、動物も来たがるんですかね」
そんな事を考えながら俺がそう言った瞬間、白花さんが少し怖い顔でこっちを見てきた。
「ねえ、前から聞きたかったんだけど、こんな世界のどこがいいの?私は十七年この世界にいるけど、素敵なんて思ったことないわよ?」
白花さんは昔からこの世界を守るために働いていたそうだけど、なんかそんな風には思えない。
「え、なんでですか?能力を隠さなくていいし、みんな優しいし、退屈はしないし、こんな良い世界は他にありませんよ」
俺はこの世界で感じたことを、そのまま彼女に伝える。すると、
「なんでそれでいい世界なんて言えるの?能力を隠さなくていいってことは、他に能力者が多くいて危険だってことなのよ?それに退屈しないのは今だけ、そのうち苦痛になってくるわ。後、みんなって胡桃さん達のことでしょ?外界人じゃないの。私はこんなところ嫌いよ」と全否定だ。
「白花さん、それはずっとこの世界にいるからですよ。毎日友達のように神様に会ったらありがたいと思いますか?毎日旅行へ行って楽しいですか?それと同じです。あと俺は、町で素敵な人に…」
「まあまあお前ら、けんかするなって。ほらもう見えてきた、あそこだよ」
鞠さんが俺と白花さんの話を遮る。正直助かった。このままエスカレートしたら口喧嘩に止まらなかっただろう。
町のはずれ、聞いた話だけどこのあたりは主に外界人か町の変わり者が住んでいるらしい。中には能力者もいるが、町で暮らす分隠していることが多い。
そういえばこのあたりはまだ薬を売りに来てなかったな。明日、早速売りに来よう。
「で、どの家に誘拐犯がいるのよ?」白花さんが言う。
「知らないよ。詳しい場所まではわからないだと」
「またなの…全くモエミは使えないわね」
「まあそう言うなって、あいつだって忙しいんだろ?」
「何が忙しいよ、モエミならどうせうちで勝手にお茶飲んでるわよ」
俺は二人の会話を聞いていた。モエミさんって誰だろう、聞いたことあるような、ないような…
「まあまあ二人とも、ここは一軒一軒確かめるまでです。俺が行ってきますよ、ちょうど薬も持ってきてますし」
俺は切り込み隊長を買って出る。
「おお、薬売りのふりをするのな。いいあいであじゃんか」と鞠さんが言ってくれた。
その隣で「あいであ?どういう意味だろう?」と白花さんが考えている。もしかしてカナンで英語は使えないんだろうか。まぁいいや、俺も英語苦手だったし。
「じゃあ行ってきますね。何かあったら呼びますから」
よし、調査ついでに薬のサンプルを渡して買ってくれる人を増やそう。俺はそんなことを考えながら調査へと向かった。
「駄目です、全く薬が売れません」
「そうじゃないでしょう?あんたなんのために来たのよ、犯人らしい人はいたの?」
と白花さんに指摘されて気がついた。まずい、いつものお店に帰るノリで2人に話しかけてしまった。
「あ、えっと…家の中の重力をちょっとだけ弄ってどこに何があるか調べてたんですけど動物はいませんでした」
誤魔化すように俺は2人に現状を伝えた。
「へぇ、お前そんなことできるんだ、便利だな。でも気付かなかったとかはないのか?」
と鞠さんが聞いてくる、当然の疑問だと思う。白花さんと違う、ただの人間がそこまで能力を使いこなせるのか、という事だろう。
「はい、最近練習したので。それに動物達ってことはたくさんいるはずですから、気づかないことはないと思います」
しかし、そうは言うけどもう半分くらいの家を回った。こんな調子で見つかるのだろうか。
その時だった。
「またお会いしましたね、今日は薬屋さんじゃなくて探偵のお仕事ですか?」
そう俺に話しかけてきたのは、前に一度会った事のある不思議少女だった。




