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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第8章 弱き者らの導き手
129/180

ぼくは変わる

長らくお待たせしてしまいました…

今回より第8章始まります。タイトルにもある“ぼく”は新キャラです。どれだけキャラ出したら気がすむのか、そう思われちゃいますね…

 思えばぼくの人生は最悪だった。

 力がないだけで除け者にされ、力がないだけで生活を脅かされ、力がないだけで死んでも構わないと言われた。それがどれほど重い罪なのか、まだ子供のぼくには分からない。

 弱者であるぼくたちの見分け方としては「言葉」を知らない、ということ。正確に言えば「言葉を使わせてくれない」だけど、ぼくにとってはどっちも一緒であり、どうでもよかった。

 だからコミュニケーションの手段は首を縦に振るか、横に振るか。イエス、ノーの2つしか、弱者には貰えないのだ。

 けれども、力が全てのこんな世界じゃ、その2つさえ使う機会はなかった。

 今ぼくがこんな事を思い出しているのは、そんな世界を離れ、あの方に言葉と、さらに力を貰った記念だ。弱い者は弱い者と助け合う、それじゃあダメだと分かった。

 だから、ぼくは今から下克上を始める。



 初めてぼくが言葉を使ったあの日、ぼくはいつもの様にローブを身に纏い、顔を隠してコソコソと街を歩いていた。いつもより薄暗い日、空は厚い雲に覆われ、今すぐ雨が降ってきてもおかしくないほどだ。

 傘を持っていなかったのは、ぼくが馬鹿だからじゃない。弱者には傘さえ持たせてもらえなかったのだ。

 だが、その薄暗いのを踏まえても、この街は明るすぎる。ぼくの住むスラム街には灯りなどなかったから、この街が憎くて仕方ない。

 ぼくの目も街相応にギラギラしていることだろう、それほどぼくは酷い扱いを受けた。

 過ぎ去る他人たちは全員、ぼくをチラ見して行く。スラムの匂いがするのか、いつバレてしまうのか気が気ではない。その場を去り、裏道へと逃げ込む。

 ふと、ぼくは立ち止まり、街の中心にある施設を見つめる。眩しすぎる光を発し、嫌でも目に入る大きさの建物。そこがぼくの目的地、下克上の場だ。

 あの施設は力をくれる、ぼくはそう考えていた。

 なぜならあの施設は強者が頻繁に出入りし、攫ったスラム街の大人を連れると電気を貰える謎の施設。この世界は電気で成り立ち、電気が通貨なのだ。

 だからぼくは、不思議な力をくれる代わりに、何日かに1回誰か連れてくる、という契約でも交わしてあるのでは、と読んだ。

 1日に必ず5人、最高で10人は連れて行かれる。ぼくの唯一の肉親である父も、数年前にここに連れられた。誰かの電気のため、ぼくは1人になったのだ。

 1人の生活は苦しかった。10日に1度、街の人間は僕たちに食料を渡しに来る。だがそれも最低限で、奪い合うことも多々あった。だがそれも一部の話しで、ぼくの周りは平和でよかったと思う。

 けれども何故、奴らは僕たちを除け者にするくせに食料を与えてくれるのか。皆はそれを知らないし、ぼくも知らない。

 この世界の1割の富裕層と、9割のスラム暮らし、割合としてはどうなのだろう。他の世界を知らないから、ぼくには分からない。

 だからぼくの目的は、この世界の真実を知る事と、力を得て立場を逆転させることだ。父の敵討ちなど微塵も考えていない。

 ふと、言葉を知らぬ父が死ぬ前に言った最初で最後の台詞を思い出す。

「強い人間になれ。肉体的にでなく、精神的に」

 ぼくには意味がわからない。力が全てなのに、何故精神的に強くならなければいけないのか、全く分からない。

 ぼくに虫の様な声でそう言った後、父は強者に連れ去られた。なんとも説得力のない、間抜けな台詞。ぼくは父が攫われるのを見て、泣いて喚くことをしなかった。自分が助かった、それを喜んでいたのだ。

 ぼくが連れて行かれなかったのは強者の情けか、いやそうではない。後で知ったことだが、連れ去られるのは子持ちの男と女だけだったらしい。

 それがどういう意味だったのか、今日はっきりする。いや、させるのだ。

 ぼくはようやく街の中心部までやって来た。そこには目指していた謎の巨大な施設。ドーム状のそれは天井が透明で、施設の可愛くないイメージキャラクターがホログラムとして映し出されている。

 さらにそのドームから何本もの細い線が伸び、街の全ての家や施設と繋がっている。あれで電気を送るのだ、とぼくは勝手に理解した。

 目の前には自動で開くドア。当然スラムにこんな物があるわけなく、やや躊躇してしまう。心を落ち着けるため1つ深い呼吸をすると、ぼくは内部へと足を運ぶ。

 中は思ったよりもシンプル。というか何もないに等しく、ただ薄い青色の壁と床がぼくの目を引く。取り敢えずで落ち着かせた心は、青のおかげでより落ち着いた。

 入り口を抜けたすぐ先でぼーっと立っていると、ぼくの背中に何か大きなものが触れる。振り向くと、そこにはぼくの何倍もありそうな大男、触れていたのはそいつの手だった。

「邪魔だ、どけ」

 大男は野太い声でぼくに言う。ぼくは言葉を知らないため、頭を下げてそそくさと横に避ける。

 変な奴、とでも思われたのだろう。大男は首を軽く傾げると施設の奥へと向かう。そしてそいつに担がれた大きい袋をぼくは見逃さなかった。

 見た目はただの茶色をした巾着袋なのだが、大きさが普通ではない。大人1人入れる大きさ、中には攫われた大人がいる、とぼくは確信する。

 ぼくはそいつの後をつける事を決めた。幸い、その他には誰もおらず、思いの外スルスルと内部まで潜り込める。途中、自動ドアを越えると直線の道はなくなり、ぐるぐると円を描く様な緩やかな下りの道になる。おそらくドームの中心、そこに何かあるのだ。

 壁や床には何本か線が埋め込まれてあり、心電図のように何秒か間隔で光が走る。当然これもスラムにはない、走る光が面白く見えた。

 暫くして、円を描く道は終わる。ここはおそらく地下、最下層までやって来たのだ。大男は中心部に入る為の扉についたボタンをリズムよく押し、最後に掌を扉に当てるとようやく扉が開く。

 大男が入り、扉が閉まるその瞬間、ぼくは素早く中心部へと紛れこむ。

 電気世界と町の中心部、そこにあったのは大量の変な機械とそこで作業するロボット、そして攫われ気絶させられた大人たちだ。機械の出すバチバチとやかましい音に混じり、ほんの僅かに何処かから大人の悲鳴が聞こえる。

 この施設が何か、ぼくはまだ理解できていなかったが、ここは力をくれそうな場所ではない事は直感で理解していた。

 何かが擦れる音がし、ふと目を横にやると、さっきの大男が担いでいた袋の中身を取り出すのが見える。中身はやはり大人で、ロープでぐるぐる巻きにされ、口にはガムテープを貼られていた。

 何が始まるのだろう、ぼくはそれを見るためにこっそり近く。

 大男は攫った大人の口に貼られたガムテープを勢いよく剥がす。その瞬間、言葉を知らないはずの大人が恐怖に満ちた声で叫んだ。

「やめてくれ、おれにはまだ小さな息子がいるんだ」

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