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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第7章 固い2ヶ月の友情
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子供の頃の記憶

 最近になってモエミの存在がありがたいと思うことも増えたが、面倒ごとを持って来るのはやめてほしい。今回もまたそれではないかと内心穏やかではない。

 私はとりあえずモエミに嫌な視線を送る。いつも通りだ。ため息を1つつき、

「とりあえず説明が面倒だから端折るけど、何しに来たのよ」

「んー、特には。様子を見に来ただけよ」

「そ。それならいいのよ」

 心の中で歓声をあげる。顔に出ないように気をつけるが、思わず口角が上がりそうだ。冷静を装って舌を軽く噛み、笑いをこらえる。

 何もしないでいいのなら何もしたくないし、今日は久しぶりに親友も来ているのだから、世界守の仕事は遠慮したい。できれば永遠に。

 私が油断していると、モエミは勝手にポットにお湯を沸かし、自分用のお茶を淹れ始めようとする。茶葉は隠していたのだが、朝ごはんの時に使って出したままだった。

 まったく迷惑な話だが、仕事を持ってこなかっただけマシにも思える。とりあえず橙華もいるし、嫌味を言うのはやめておく。その代わりにまた嫌な視線を送る。

 すると私の視線を感じたのか、モエミは私の方を向き、

「あっ、今面倒ごと押し付けられなくてよかった、って思ったでしょ」

「…、い、いや別に」

 図星だ。私は露骨に動揺してしまう。真知さんのおかげで、心を読まれるのには慣れた–––と言っていいのかは疑問だ–––が、油断していたこともあった所為でこんなことになってしまう。それを見透かされたかのように、モエミは微笑み、

「あっそう。それならよろしい」

 とだけ言ってお湯が沸くのを待っている。この反応は完全にバレていると、長い付き合いの私にはわかる。

 そう考えると、深いため息が1つ漏れた。熟年夫婦みたいだ、と。

 お湯が沸いたのだから、ついでに私もお茶をもらおうと立ち上がる。台所に行き、食器棚を開け、さっき片付けたばかりのそれを取り、みんなのいる居間へ向かう。

 モエミが自分の為に沸かしたお湯、どうせなら私のも淹れてもらいたいところだ。いつも淹れてあげているのだから。

「モエミ、偶には私にもお茶注いでよ」

 日頃の鬱憤を込め、雑に湯呑みを渡す。

「あらあら、もっと可愛く頼んでよ」

「私は可愛いなんて性格してないわよ」

 いつものように軽く言い合いをすると、マリの隣からクスクスと笑い声が聞こえ、私はハッとする。橙華にはしたないところを見せてしまった。

「プッ…、ふふふ…」

「ああ、ごめん。気にしないで」

 申し訳なさそうに、私は言う。橙華はまだクスクスと笑い、それを終えると今度はうって変わって寂しそうな顔になる。忙しい人だ。

「いいなぁ親子喧嘩、私はもうできないからさ」

「いや、だから親子じゃ––––」

 訂正を入れようとすると、再びモエミが私の言葉を切り、横から口を挟んでくる。

「あら、あなた別の世界の人? 帰りたいの?」

 橙華は突然の質問に戸惑い、やや躊躇ってから口を開く。

「う、うん、まあね。前の世界にやり残した事があるから…」

「帰る?」

「えっ…、でも白花はここから帰ることはできないって…」

「まあ普通じゃあね。でも知り合いに世界間を自由に移動できる人がいるのよ。その人に頼んでみましょうか」

「ぜ、ぜひ!」

 途端に明るくなり喜ぶ橙華、まるではしゃぐ子供だ、と言ってる場合ではない。今モエミは何と言ったのか、私は耳を疑う。

 多分私は今、口を半開きにし、間抜けな顔でぽかんとしているのだろう。それほどの衝撃だった。

 段々と動悸が激しくなる。だって私の耳が正しければ、念願が叶うかもしれないのだから。

「ちょっとモエミ、つまりそれってここじゃない別の世界へ行ける、ってことよね?」

「ええその通りよ。白花ちゃんも昔行ったことあるでしょ」

 再び私は耳を疑う。昔、子供の頃の記憶を隅まで余さずに思い出そうとする。

「そんなこと…、いやでも…」

 言われてみれば確かにあった。小さい頃の記憶だから曖昧だったが、私の見た多くの場所はここ、カナンではない。雨が降り続けたり、花が一面に咲いていたり、他にも色々見た。確かモエミも一緒だったはず。なぜ忘れていたのか。

 けれどもおかしい。昔の記憶を呼び起こし、うんうん唸りながら思い出そうとする。

「でもあの時……、私とモエミ以外に誰かいたかしら」

 私が考えながらそう尋ねると、モエミはあからさまに目線を逸らし、

「ぇ…、あっ、多分白花ちゃん小さかったから、覚えてないのよ」

「そうだったかしら。まあいいけど、じゃあついでに私も外に––––」

「ダーメ。白花ちゃんにはこれからも世界守を頑張ってもらいまーす」

 そう言うとモエミは、橙華を連れてその知り合いの元へ向かおうとする。気をつけて帰れよ、とマリが手を振るその隣で、私も連れて行け、という勢いで後を追おうとすると、服を掴まれて動けなくなった。当然、犯人はわかっている。

「ちょっとマリ、放しなさいよ」

 ややきつく言い放つと、マリは肩を落とし、やれやれといったようにため息をひとつ吐く。

「ハクさ、いい加減大人になれよ。イヤイヤ言って世の中生きられるとお思いか?」

「何様よあんた…」

「鞠様だ。よく知ってるだろ、親友さん」

 掴まれた手を払いのけようとしたが、マリのその言葉に一瞬躊躇ってしまう。親友、という言葉にどうも弱い。孤独な人生送ってきたから、それも仕方がないのかもしれない。

 今度は私がため息をつく。人生とは不平等なものだ、という不満を込めて。

「あーあ、やだやだ。本っ当に私貧乏くじばっか引いてる」

「そんなもんだよ。…悪かったな、痛くなかったか」

 私が2人を追うのを諦めると、間を空けずにマリは手を放し、すまなそうに言った。こういうところで、私はマリに敵わないのだと実感する。

「大丈夫、慣れてるから」

 2人は既に視界から消えていた。さっきまで賑やかだったのに、いきなり静かになって少し寂しくもある。橙華の話の外界人のように、私は1人ではないから、それだけ恵まれていると考えれば希望は持てる。ほんの僅かではあるが、ないよりマシだ。

 おだやかな風が開いた扉から居間に吹き込んでくる。この風は何かを知らせるもののような気がする。橙華だろうか、帰れたのだとしたら時間としては早いものだ。さっき出て行ったばかりなのだから。

 モエミも私のお母さんを名乗るなら、隠し事なんてしないでほしい。帰ってきたらとっちめる。

 今日はよくため息をついた。多くの幸せが逃げてしまっただろう。

 私は手をポキポキ鳴らし、その人が帰ってくるのをマリと一緒に待った。

7章終わりです…、長かった…。

多分次からもこのくらいかもです。というか昔が短すぎた…。

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