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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第7章 固い2ヶ月の友情
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資格なし

『いつか別れる時のため、とりあえず手紙を書いておこうと思い、書いた次第です。直接言えない弱い自分をお許しください。

 自分はやっぱり別の世界の人間です。ここにいてはいけないんです。先輩を天井に立てらせた時、あの時だってそうでした。危険とわかっていながら、先輩に変なチカラを使ってしまって、今考えるとどうしようもなく怖いです。お許しください。

 自分は贅沢をしすぎました。見ず知らずの怪しい自分を家族に迎え入れてもらえて、変なチカラを持った自分と友達になってくれる人がいて、本気で自分の事を考えてくれる人がいて、これ以上ない贅沢です。幸せの意味を知りました。

 けれども、自分はそれに慣れてしまったのかもしれません。それが当たり前と思ってしまったのかもしれません。人間、良いと感じるとそこで止まっちゃうんです、前に進めないんです。

 若い時の苦労は買ってでもしろ、という言葉があります。自分は苦労を知らずに生きる子供です、それを実行しなければいけないのです。


 お二人にはお世話になりました。書ききれないので書きませんが、お二人に1つだけ、どうしても伝えたいことを書きます。

 自分はお二人の思いやりに助けられました。他人である自分のことなのに、真剣になってくれる姿を見て、家で涙したこともあります。

 ですが、あまり他人のことで悩まないでください。欲望には忠実になった方がいいです。自分の所為で夢を捨てようとするお二人を見るのは辛いです。夢にまっすぐなお二人でいてください。

 都合の良いことばかり書いているのはわかっていますが、どうか夢を捨てないでください。

 自分の所為で迷惑をかけたり、悩ませてしまったり、本当に申し訳ないと思っています。今度会えたら殴ってください、怒りませんので。


 ここまで書いてなんですが、やはり辛いですね。

 前も言ったと思います。本当はずっとここにいたかったです。みんながいますから。でもやっぱりダメなんです。

 隠せるのなら、変なチカラを隠して生きたいです。でも、いつ暴発するかわからない爆弾を抱えたまま、普通に生活というのが無理な話です。

 危険なものは排除される、それが当然なんですから。さよならは免れません。


 これは自分がここにいたという記録、それと共に記憶になりますでしょうか。よければ覚えていてください、自分はずっと覚えているつもりです

 できることなら、この手紙が永遠に不要であることを祈ります。

                    心音 』


 手紙を読み終え、私はそれを元のように折り、封筒へとしまう。手を頭の後ろで組み、ソファの背もたれに体を預け深い呼吸をし、

「…だってさ」

 と言うと、かめちゃんももたれかかり、

「ふぅん…、そっか」

「泣く?」

「泣かへん」

「そっか」

 そう言うと私は天井を見て、あのあたりに立っていたのかな、と昔を思う。今よく見ると靴の跡が付いており、後で拭いておかなければ、と思ってしまうのは、この状況では冷たいことなのだろうか。もたれかかるのをやめ、今度は手紙に目線をやる。

 この手紙を読んだけど、私には感動の涙がこみ上げてこない。むしろ悔しくて途中で読むのをやめたくなった。

 この人との出会いで変わった私たちを否定された、そんな感じ。でもそれは違う、嫌いにはなれない。私たちは否定されていない。この手紙で否定されているのはみっちゃん自身だから。

 一応ではあるがみっちゃんの気持ちもわかる。確かにあなたの為に、私は夢を1度見るのをやめた。でも諦めたわけではない、ただ悩んでいただけ。それを含めての、手紙のごめんなさい。贅沢をしているのは私たちだ。

 辛いなんて言わないでほしかったし、考えてほしくなかった。それも全部あなたの、あの時泣いたあなたの力になりたかったから。

 私がしたいと思ったことが、世界研究から人助けに変わっただけ。本当にたったそれだけ。

 いつ以来だろう、こんなに苦しいのは。

「私は我慢していた…」

 強く拳を握り、唇を噛む。かめちゃんはそれを受けて、ソファにもたれかかるのをやめる。

「橙華…ちゃん…?」

「我慢してたよ。でもさ、それってみっちゃんも同じじゃん。私たちのために自分を殺して、挙げ句の果てには他人を優先した。みっちゃんにこんな事言える資格ないよ!」

 話が進むにつれ、自然と声を荒げる。

「私たちに言う前に自分を貫けばいいじゃん…、ずっとここにいればいいじゃん…、いなくなる必要なんてどこにもないよ!」

 そう、どこにもない。悪いのは科学に侵され外との関係を遮断したこの自己中心的な世界、どこか別の世界で出会っていたなら、こんなに苦しいことはなかった。

 手の甲に涙が落ちる。この世界にとって、私たちは敗者なのだ。パチンと叩かれて終わる、羽虫同然の存在、人間に力なんてない。

「私…、悔しいよ…」

 涙を流し、うなだれる。私のしたいことは、一体何だったんだ。この2ヶ月は、一体何だったんだ。

「辛いのは、うちもわかるよ」

 かめちゃんの声を受け、顔を上げようとするが、その力が入らない。仕方なく、私はその体勢のまま続きを聞く。

「やったらさ、橙華ちゃんとうちで変えようよ」

 私は耳を疑う。それは、永遠にしてはならない禁忌と、最近の私たちは考えていたはず。

 思わず力が入り、顔を上げることに成功する。かめちゃんの目をまっすぐ見て、私はゆっくりと口を開く。

「この世界を…? でも…」

「大丈夫。利用なんてさせへん」

「いや、だからそれは…」

「信じようで。それやないと、うちらの世界を信じん人間の言う言葉なんて、誰も信じんよ。私たちは変われた、やったら他の人やって変われる、そうやろ?」

 かめちゃんの笑顔が眩しい。そうだ、その通りだ。危険なものは排除されるのなら、危険思想だって排除される対象、可能性は十分ある。

「よっしゃ、そうと決まったらまずは掃除するよ。新世界研究部始動やで」

次回からカナンに戻ります。もしかしたら次回が7章最終回かもです。

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