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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第7章 固い2ヶ月の友情
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四つ葉のクローバー

 森の中を3人で歩く。土曜日、ミラと出会って1週間、また同じ場所へと戻っている。かすかな希望だけ持って、強引に連れてけ、と言うミラに負けたからだ。

 みっちゃんは剣道の方を優先し、今回は参加していない。あの菫ちゃんに言われたらしい。なんでもヤキモチを焼かれたとか、そんな話を聞いた。

 ミラが来て変わった事といえば、みっちゃんがいつもよりほんの少し明るくなったくらいだ。あとは、ミラのあだ名がすいちゃんに決定した事。翡翠だから、「すい」、私しか使わない。

 結局あの後、お母さんには手品の練習とか適当な事を言って誤魔化し、すいちゃんをうちに住まわせる事に成功した。その言い訳にたどり着くまでに30分かかったのは、今考えると遅すぎると思う。

 だが私の日常生活に変わりはなく、いつも通りに過ぎていく。すいちゃんの登場も、私の夢にさほど影響はなかった。

 私が学校に行っている間、すいちゃんは適当な場所を回って別の世界への入り口を探す。早く見つけないと、がすいちゃんの口癖になっていた。

 水曜日は国民の休日だったけど、見た目高校生の女の子が昼間からそこら辺をウロウロしている、というのは少し問題があると思う。それも仕方のない事だ。第一、すいちゃんには学校という概念がない。行け、という方が無理だし、行かせろ、と言われてもうちにそんな余裕はない。

 だが、すいちゃんが不良学生の汚名を着せられる事はなかった。


「ここの人たちはさ」

 昨日、私が学校から帰ると、ベッドに座り、私がいつも使っているクッションをぎゅっと抱きしめ、どこか遠くを見つめながらすいちゃんが言った。

「他人に興味がないんだね。なんか、こう…、背景? あるけどメインじゃない、そんな感じ」

 私はこくりと頷く。その通りだからだ。かばんを勉強机の側に置き、

「あれでしょ。外歩くのが怖くない、って」

「うん。最初は大丈夫かな、とか考えてたけど、みんな自分の事しか考えてない」

 そこまで言うと、すいちゃんはクッションを抱いたまま後ろに倒れ、

「違う意味で人が怖いって感じた」

 私はみっちゃんの事を思った。そういえばあの子も他人を気にしていた。この世界にはまずいない他人優先の人間、お人好しで片付けられない、良い意味でのお馬鹿さん。

 それで言えばすいちゃんも同じだ。恐怖という意味ではあるが他人を気にしている。

 2人は似た者同士、みっちゃん曰く、「仲間」。

 私は考える。自分はどうだろうか。

 私が別の世界の存在を世に教えたかったのは、かつて実際に別の世界を体験し、それを狂言だと馬鹿にされた祖母の敵討ち。私はそのために、別の世界の存在を利用しようとしていた。良い意味のお馬鹿さんに出会うまでは。

 さっき私が頷いたのは、私自身が変わったから。そして理解したから。だって最近、私は他人のために動いている。他人というか友達だが、私を変えたきっかけのために、私を犠牲にしている。過去にそんな事はなかった。

 科学に侵されたこの世界、もしかしたらこの世界を飲み込んだのは科学ではなく、それを背景とし、他を尊重しなくなった私たち人間なのかも。だからこの世界は、他の世界へと道を閉ざしてしまった、そう考えるとつじつまが合う。

「橙華…?」

 すいちゃんの声で我に返る。立ったまま考え込んでいたようだ。いつの間にか起き、心配そうな表情で私を見つめる。

「ああ、ごめん。なんでもないよ」

 椅子に座り、深い呼吸をする。なんでもなくない、と心の中で付け加え、

「確かに、人は怖いね。四つ葉のクローバーを探すために三つ葉を踏む、それで見つけても本当に幸せなのかねぇ」

 すいちゃんは首を傾げ、「四つ葉…?」とつぶやく。幸せの象徴だよ、と私が説明をすると、変なの、とだけ言ってまたベッドに倒れる。

(私はもう、絶対に踏まないよ…)


 今でも私は考える。自身の探究心を満たすための行動、友達の幸せを思っての行動、1割でも前者が混ざっていないかと。他人の幸せを踏んでいないかと。

 それをふまえ、今回研究ノートは持ってきていない。男手がない、というのもあるが、比較的軽装のためグングンと森を進んでいく。木漏れ日がほとんど差さないのもあり、暑さと疲労を感じる事もほとんどなかった。前回疲れなかったのも、それが関係しているのかもしれない。

「ここを私をおんぶして帰ったの? シオンすごいね」

 軍手を装備し、すいちゃんは木のくぼみに手を置いて進んでいく。スピードも大したもので、軍にいた頃の名残なのだと勝手に納得する。

 これまた軽装のかめちゃんもスルスルと進み、

「男の子なんやから、それくらいできんとあかんのよ」

「そうなんだ。私の知ってる男の人っていえば、……、それはもう怖い人で…」

 背中から暗いオーラが見える。よほど怖い目にあったのか、思い出したくないというのが伝わってくる。

「はいはい、暗い事は考えなくてよし。もう着いたよ」

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