白花、渋々働く
「は?誘拐事件?それがどうしたのよ」
のんびりしていた私の元へモエミが事件を持ってきた。一ヶ月何もなかったと思ったのに、また面倒くさいことが起こっているな。
「どうしたのってあなたの仕事でしょう?この世界の平和を守るのが」
「うるさいわね、私は戦うのが嫌なの。そういうのは正義の味方さんにでも言いなさいよね。大体モエミ、あんた前の事件で何があったか忘れてないでしょうね?あの時はモエミのせいで…」
「はいはい、やめろやめろ。お前それ何回目だ?私が聞いただけでも五回はあるぞ」
私の台詞の途中で、そうマリが横から口を挟んできた。
「失礼ね、そんなに言ってないわよ。あんたはいつも過剰表現しすぎなのよ」
「そうか?まぁそんなことはどうでもいい。で、その誘拐事件とはなんぞや?」
まったくどいつもこいつも、いい加減にしてほしい。毎日あんた達に付き合う私の身にもなってほしいものだ。
「ええ、最近動物の誘拐事件があったの。飼われてるわけじゃないんだけどね。他の世界の珍しい動物達が目を離した隙に保護されている籠ごとヒョイっと」
なんだ、たかが動物じゃない。そんな事件に私を巻き込むなんて勘弁してほしい。それに誘拐じゃなくて、そいつらが勝手に逃げ出したのかもしれないし。
「なにそれ、そんなこと私に関係ないじゃない。前は風ちゃんが絡んでたから渋々承知したけど、今回は私知らないからね」
私は自分の気持ちを正直にモエミにぶつける。するとまたマリが、
「おい!そんな言い方はないと思うぞ!おまえ動物飼ったことないだろ、私のとうふちゃんがいなくなったらどれだけ心配するか…」
あぁ、そういえばこいつはとうふっていう名前の猫を飼っていたな。でもとうふって名前、どうやって思いついたんだ?なかなかいい趣味してると思う。
「あっそ、じゃあマリが行ってきなさいよ。私は今回お休み」
白花ちゃんの場合、今回もなんだけどね、とモエミに言われたのは言うまでもない、腹が立つな。
「あぁそうか、いいよいいよ。なら今回はあいつ連れて行くから」
あいつ、あいつって誰だ?もしかしてマリの友達?ほぅ、ちょっと興味あるな。見学だけしようかな。
「待って待って、やっぱり私も行くわ。私も子供の頃に蝶々を飼っていたからね。黙ってはいられないわ」もちろん嘘だ。
「おおそうか、じゃああいつとハクと私の三人で行くか」
よしよし、ばれてないばれてない。マリの友達を見たらさっさと帰ろう。と、その前に、
「モエミ、今回は大丈夫なんでしょうね?前みたいなことがあったら…」
しっかりとモエミに確認をとっておかなくては、まてよ、確かに私は同じことを言っているな。
「大丈夫大丈夫、今回は間違いない!」
とモエミは言うが…信じられないな。
「ほらほら、さっさと行くぞ。あいつも呼ばないといけないからな」
私はマリの言う『あいつ』の正体を知るためだけについていった。
「ちょっとマリ、ここって…」
なんてこと、ここは医者いらずの森。こいつの友達ってまさか…
「おう、さっさとあいつ呼んでこよう。最近修行してたらしいぞ」
間違いない、シオンだ。あいつは嫌いじゃないけどちょっと苦手だ。だって、あいつはこの世界が大好きなんて言ってるんだもの、私とは正反対。
「やめときなさいよ、きっとシオンは薬を売るので忙しいわよ」
「そうかもしれないけどさ、人数は多いほうがいいだろ?」
そう言うマリ、確かにそうだけどなぜシオンなんだ。つい一ヶ月前に来たやつを危険な目にあわせるなんて。
違う、これは言い訳。やっぱり私はあいつが苦手。それに、私よりも弱いやつに頼むなんて、マリもどうかしている。
私の中で怒りの様な嫉妬の様なものがぐるぐると回っている様な感じがする。
そうこうしているうちに私たちはシオンの働いているお店、薬屋「草花」に着いた。草と花から薬を作っているから「草花」何のひねりもない。
「おーい、シオン!いるかー!犯人退治しようぜー!」
まるで友達を遊びに誘うようにマリが叫ぶ。いつ間のにこんなに親しくなっていたんだ。
「誰ですか、大声で人の名前を叫んでるのは?」
シオンが出てきた。今日は薬の配達に行ってなかったのか。
「あぁ、白花さんいらっしゃい、どうしたんですか?お薬ならいくらでも売りますよ」
はぁ、のんきなやつだ。会うたびに薬を進めてくるるなんて怪しいやつみたいだと思う。
「いいえ、薬はいいの。ちょっと頼みがあってね。事件を解決するのを手伝ってほしいの」
「へー、事件ですか。面白そう…って言っちゃいけませんよね。ええ、喜んで協力させていただきますよ」
俺の好きな世界を守るのに繋がるのなら、とシオンが付け加える、相変わらず気に入らない。こんな世界のどこがいいのか。
「よーし、決まりだな。場所は町の外れだ、れっつごーだ!」またれっつごー、マリはこの言葉好きだな。
「はーい、レッツゴー!…ところであなた誰ですか?」
シオンがマリにそう言う、れっつごーはシオンの世界では通じるの…え?
「ちょっと待ちなさいよ、あんた達知り合いじゃないの?」
「あぁ、知らないよ。胡桃ってやつに聞いただけだから」
「ああ!もしかしてあなたが鞠さん?胡桃さんから聞きましたよ、父親思いの良い子だって」
なんなのマリのやつ、よくもまあ知らないやつを誘おうと思ったわね。問題の本人は呆れている私の隣で、「いやー良い子なんて照れるなぁ」と喜んでいる。
「もう、行くのなら早く行きましょう。私は何もしないから二人でさっさと解決しなさいよ」
私は一生この人達のペースについていけないと思った。




