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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第7章 固い2ヶ月の友情
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デジャビュ

「で、どうするん?」

 私の部屋、3人分のお茶を持って来た時、かめちゃんがそう言う。別世界少女の事だろう。肝心の彼女は私のベッドに寝かせている。どうやら疲れているようで、ぐっすり眠っている。

 森を抜け、私の家に来るまでの時間およそ1時間強。みっちゃんの歩く速度は、最初から最後まで衰える事はなかった。途中、行きと同じくバランスを崩していたが、根性で立て直していた。

 森を抜けてからは早かった。その頃にはみっちゃんが少しかわいそうになっていた。ここは一応都会、すれ違う人に見られ、それを微笑ましそうに笑って行く。それが心苦しかったのだろう。

 私の家に上がってもらう時も気が抜けなかった。お母さんに黙って、こっそり上げたからだ。かめちゃんは幼馴染だから問題はない、しかしみっちゃんと彼女は違う。別の世界の研究仲間、なんて言ったらどんな顔をされるか。表面上は笑っていても、後でなんて言われるか分かったものじゃない。

「まぁ黙ってペット飼う、とかいう問題じゃないし、親が旅行中、とでも言って誤魔化すよ」

 机にお茶を置き、私も座る。正直なところ、彼女が了承するといった確証はない。かなり無理のある決断だと自分でも思う。それに家族が無理と言っても、いざとなればかめちゃんに頼めばなんとかなるはず。そのいざは80パーセントくらいで訪れそうだ。

「ところで…、座らないの?」

 かめちゃんは既に座ってくつろいでいる。これはみっちゃんに向けた言葉、今みっちゃんは扉の近くで立っている。

「す、座っていいんですか?

「当たり前でしょ。気になるから、むしろ座って」

 みっちゃんの座る場所をここ、と指差し、そう促す。

「すみません。友達の家って初めてで、勝手がわからなくて」

 困った笑いをしながら、私の示した場所に移動し。座る。

 当然のように正座をすると、机に置かれたお茶を少し口にした。やはりノンストップで1時間強の歩行は疲れるようだ。実際、軽い荷物の私もいつもと同じとまではいかないが、なかなか疲労がたまっている。

 本当なら帰ってすぐにベッドにダイブするところだが、倒れている娘を差し置いて寝転がるわけにはいかない。それに友達の前で横になるわけにもいかない。足を伸ばすのが今できる中で最高のリラックスだ。

「歩きっぱなしやったから、めっちゃ足痛いわぁ」

 かめちゃんが自身の足をさすりながら、軽く微笑む。かめちゃんも体力がある方ではない。まぁ平均、中学の時はバドミントン部に入っていたから、その時に体力がついたのだろう。高校でバドミントンを辞めてからは、落ちる一方だが。

「すみません。俺の所為で休憩なしになってしまって…」

「あぁ気にせんといて。うちが心音に言ったんや、悪いのはうち」

 確かにそうだが、実際それ以外に連れて帰る方法があったのか、と聞かれたら、ない、と答えるしかない。リュックくらい持ってあげればよかったか、みっちゃんも肩をさすっている。

 だがそれほど汗をかいていないところが運動部の凄さだろう。

 今更ながら思うが、みっちゃんは剣道強いのだろうか。瑞樹家の居候らしいが、瑞樹流を伝授してもらっているのか。見た事はないが、練習もだいぶきついとか。

 などと考える。が、今の話には関係ないから思考を今に合わせる。

「それなら私が一番悪いよ。1人パニックになってたし、体力ないし」

 お茶に手を伸ばすが、口にはしない。持ったまま離さない、手がひんやりとして少し気持ちいい。が、水滴で濡れるのは少し気持ち悪い。

「いえ、それは仕方ないですよ。耳、聞こえなくなってたんですよね」

 そう言いながら、みっちゃんは自身の耳を手でふさいでみせる。その姿に有名な「叫び」の絵を思い浮かべてしまい、笑いをこらえながら、

「うん。凄い体験したよ」

「それってアレやんな、この娘の能力、って事でええんやろ?」

 言い終わると、かめちゃんは寝ている彼女を見る。表情はいたって真面目で、どこか医者のような雰囲気を感じる。

 私も彼女が少し気になり、立ち上がってベッドに寄る。やはりぐっすり眠っている。先ほどよりは顔色が良くなった気がする。目覚めるのも時間の問題だろう。

 私が熱を出して寝込んだ時、お母さんがしてくれるように前髪を上げる。さっきは慌てていて気がつかなかったが、よく見るとかわいい。長くて綺麗な髪、整った顔立ち、娘に欲しい。

 髪を戻すと、それに気がついたのか少女はゆっくり目を開ける。

「あ、起きた」

 目と口が半開きのまま数秒すぎる。デジャビュだ。しかし先ほどとは違い、今回は落ち着いた様子でゆっくりと起き上がる。

「ぅ、うぅ…。クラクラする…」

「大丈夫? 飲み物持ってこようか?」

 扉の前にスタンバイし、そう尋ねる。これもデジャビュな気がする。電車に酔ったみっちゃんの時だ。

「………? あれ、私…何して…」

 まだ頭がボーッとしているようで、私の声も届いていない。それどころか私たちの存在にさえ気がついていないようだ。どんくさいというか、間が抜けているというか、所謂どこか放っておけない存在だろう。

「…ひぃっ! ま、またああなたたち…、こ、ここはど、どどどこですか⁉︎」

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