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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第7章 固い2ヶ月の友情
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落ちる光が開ける穴

 木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中。本当にその通りだ。同じような見た目の中からたった1つを探し出す事は、大げさに言うと砂漠で米粒を探す事と同じ。途方もない作業となる。

 ならば光の道はどうだ。こんな見通しの良い場所に隠せるのか、そもそも隠れているのか、それ以前にあるのかないのか。もし私が光の道を作れて隠すのだとしたら、こんな場所には隠さない。

 探し始めてすでに10分が過ぎた。光の中は影も形もない。影や形があるかは知らないが、見つからないのは事実。

 だが実際にみっちゃんはここに現れた。あるのは確かだ。

「せやけど、180度見渡せる場所で、見つからへん言うのもおかしな話やなぁ」

 歩きまわっては見渡し、歩きまわっては見渡しを繰り返すかめちゃん。ついには持参した双眼鏡を使い始める。しかし、それでも見つからない。

 みっちゃんも自分がどういった状況でここにいたのかを必死に思い出そうとしている。うんうん唸って頭を掻く姿は、筆が進まない作家のようだ。同じところをくるくる歩くなど、意味のない行動を繰り返している。

 私もかめちゃん同様、歩きまわって探す。それしか見つける方法が思いつかない。ダウジングとか、占いとか、そういったものに頼った方が良いのかとさえ考え始めた。

「みっちゃんが帰ったら、もうお菓子食べられないのか…」

 無意識に口が動く。2人には聞こえなかったようで、片方は双眼鏡を覗き、片方は唸っている。そもそも聞こえる距離にいなかった、と間をおいて気がつく。

 独り言と気がついてから、今のこの状況をやけに寂しいと感じる。3人でいるのにそれぞれ1人、探す分には効率が良いのだろうけど、一度孤独を感じると容赦無く襲ってくる。

 かめちゃんと少し駄弁ろうかな、などと考えてみたりする。何を、と聞かれれば、答えに困る。話のネタはない。「見つからないね」、で終わりだ。結局、どこにも行かず1人で探し続ける。

 どうしようもないやるせなさを感じ、しゃがんで草を引き抜いてみる。意外と楽しいが、草だって生きている。雑草の生命力を信じ、抜いた草を植え直す。悪いことをした、と謝りながら。

「やっぱり行こ」

 抜かれた草が元に戻るのを見て、やはりなんでもいいから話がしたくなる。

 立ち上がり、ゆっくりとかめちゃんの方へと進む。今かめちゃんは私に背を向けて探している、こちらに気がついていないようだ。心の中の悪戯心が騒ぐ。

 わっ、と言って驚かす。典型的だが、これが一番効くのだ。まっすぐ、ゆっくりと足音をできるだけ立てないように近づく。

 かめちゃんまで10メートル。9、8、と迫る度に笑いそうになる。それを必死にこらえ、ついに驚かせる絶妙な距離に来た。が、思わぬアクシデントだ。

「先輩!」

 みっちゃんが大声で叫んだ。それに気がついたかめちゃんは振り向き、私が近くにいる事と気が付かれてしまった。悪戯は失敗、察されてニヤリと笑われる始末だ。

「どしたん? なんかあった?」

 それは置き、やや大きめの声でかめちゃんが言うと、みっちゃんは人差し指を立て、空を指した。それを受け、私たちは上を向く。太陽の光が眩しい。

 しかし、それだけで特に変わった事はない。雲一つない晴天、運動していなければ心地よいくらいだ。

「何もないよー」

 口に手を添え、みっちゃんまで声を届ける。

「よく見てください! 太陽が変です!」

 片手で空を指し、片手で声を届けるようにし、意味不明なことを言う。別に太陽はいつも通り、変ではない。

 確かめるため、もう一度見上げてみる。やはり何も変わった事はない。

「やっぱり何も変わってな……」

「なぁ橙華ちゃん。あれ、なんか落ちてきよらへん?」

 途中で言葉を切られる。今度はかめちゃんも空を指差し始めた。「あれ」を指しているのだろうか、私は未だにその「あれ」を見つけられていない。

 秒が進むほど、2人の指が示す方向が落ちてくる。ややあってやっと目撃した。確かに何か落ちてきている。丸くて光っていて、まるで太陽。ゆっくり、ゆっくりと落ちてくる。

「行ってみよう」

 とっさにかめちゃんの手を握り、落ちる小型太陽に向かって走る。落下予測地点は私たちから約30メートル、みっちゃんから50メートルの場所だ。そこに向かってただ走る。

 あんなものは今まで見たことがない。もしかしたらあれが光の道かもしれない、という希望的観測が働く。

 通常、体験した事のないものに対し、人間は恐怖を感じるものだが、今回それはなかった。好奇心が勝っていたからだ。落ちてくるのが楽しみで仕方ない。

 みっちゃんもゆっくりではあるが走り出していた。私たちが走ったからか、それとも光に特別なものを感じたかはわからない。どちらにせよ、この光は特別だ。

 私たちが落下予測地点にたどり着く前に、その光は地面から約150センチの場所で止まり、突如として空間に丸い穴が空く。間違いない、これが光の道だ。

「見つけた…、見つけた!」

 いきなりの出来事に驚き、携帯電話のカメラで写真を撮ることさえ忘れてはしゃぐ。直径70センチほどの穴、人が出入りするには十分な大きさだ。丸の中はまるで星空のように幻想的で、今にも消えてしまいそうな儚さを感じる。

 何もできずに立ち止まっていると、すぐにみっちゃんが私たちの側に着く。

「みっちゃん、入るの? 入っちゃうの?」

 そう尋ねるわたしの目線は光の道に奪われ、みっちゃんの表情は見えないが、おそらく何か決心をした顔をしているのだろう。

 深呼吸する音が聞こえる。みっちゃんだ。意外と落ち着いた声で、

「はい」

 とだけ言う。

「じゃあ、お別れやな…」

 悲しみを含んだ声で、かめちゃんがポツリと呟く。悲しいのだろう、寂しいのだろう。私も同じだ。友達が1人、どこかへ行ってしまうのだから。そう思っていた。

 突然、光に包まれる。眩しくて思わず目を閉じてしまった。光は穴から放たれているようだ。

「なっ、何が…!」

 視覚を光に奪われた今、耳がみっちゃんの声を拾った。みっちゃんが何かしたわけではなさそうだ。

 ややあって、光が収まる。目を開いてすぐ見えたのは、口を開けて驚いているかめちゃんとみっちゃんの顔。

 そしてもう1人、おそらく私よりも年上であろう髪の長い女の子。草むらの上に倒れ、ピクリとも動かない。

 肝心の穴はなくなっていた。

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