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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第7章 固い2ヶ月の友情
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特別はいらない

 四方八方見渡す限りの木、木、木。都会の近くにこのような場所が残されていることを疑問に思うほどの森。この場所を人々はおそらく「自然」の2文字で終わらせるだろう。

 それは私たちも同じだ。しかし、同じ2文字だが重みが違う。ここは私たちにとって、最後の「希望」なのだ。

 その希望の地へ向かい、鬱蒼とした森をゆっくりと進んで行く。

 1、2週間前は共に電車で目的地に向かった。遠かったし、車で送ってもらおうにも、私の両親は世界研究に反対しているため頼んでも拒否されるからだ。

 しかし、今回は電車もクルマも必要ない。サークルグリーンは、私たちが住んでいる町のすぐ近くの森にあるから、今回は完全歩き体制だ。

 普通に歩いて30分、ゆっくり歩いて1時間の距離、とナビには書かれてある。これなら体力のない私でも余裕で歩ける。荷物はみっちゃんのご厚意により今回も持ってくれるそうだ。大きなリュックを背負って森を歩く姿は、普段のみっちゃんからは微塵も感じられない頼もしさを感じる。

 この森に入り、既に30分ほど歩いていた。サークルグリーンは未だ見えない。今回も地図機能を使っているから、道は間違えていない。問題は足場の悪さ。ナビはそれを考慮していなかったのだ。

「うわっ!」

 前を歩くみっちゃんが、盛り上がった木の根につまずきバランスを崩す。倒れそうになるのを、私はとっさにリュックを持って支える。

「大丈夫? 少し中身減らそうか?」

「いえ、平気です。ありがとうございます」

 そう言って体勢を立て直し、再び歩き始める。ちらっと顔が見えたが、全然大丈夫そうではない。生き急いでいるように見え、当然、疲労していた。

 おそらく故郷を探す旅を今回で最後にしたいのだろう。だとすると少し寂しい。3人で歩いているのは、辛い以上に楽しい事が多かった。みっちゃんは楽しくなかったのだろうか。

「大丈夫。心音やって前笑うてたやん。心配せんとき」

 私の後ろを歩いているかめちゃんに、まるで読心術を使ったかのように当てられる。振り向くと顔は微笑んでいる。影の中でもはっきりわかる眩しさがあった。

「そうだよね…」

「そうやで。ほら、見てみ」

 かめちゃんの指差す方向を見ると、遠目ではあるが草原が見える。あれがサークルグリーン、「消えた森」なのか。

「すごいね。本当に木がない…」

「ちゃうよ。そっちやなくて心音の方…」

 素直な感想を言うが、私の見たところとかめちゃんの指すところが違ったらしい。指摘されて気がついたが、みっちゃんは私たちから離れ、ある程度先に進んでいた。

 いつの間に、と考えるよりも先に脳へ流れ込んできたのは、こちらを向き、いい笑顔で手を振るみっちゃんの姿。

「先輩! 見えました、あそこです!」

 はしゃいでいる姿は、まるで遠足に来た子供のように感じられる。それを見て立ち止まり、微笑む私は教師か親か、お留守番のマメちゃんも忘れてしまう勢いだ。

「な? 楽しそうやろ?」

 横に並び、嬉しそうに言う。かめちゃんの顔も私と同じで、見守る顔になっている。

「うん。私たちも行こう」

 みっちゃんまで2分かからない距離だが、手を振る姿が面白いのでゆっくりと時間をかけて歩く。かめちゃんも隣でクスクス笑っている。

 みっちゃんは途中で手を振るのをやめたが、今度は目的地と私たちを交互に見るため、首をせわしなく振る。それもまた面白い。

 やがて合流し、再び3人揃って歩き始める。目的地は目の前、ラストスパートはかけないが、ゆっくり確実に足を進める。

 いつもなら息切れしている距離を歩いているが、今日は何故か大丈夫。何か特別な事でもありそうな予感がする。

「着きました!」

 くだらない事を考えていたが、みっちゃんのその言葉で全て吹き飛ぶ。目の前に広がる景色が、それをさらに遠くへ追いやった。



 サークルグリーンは、円状に広がる森で囲まれた不思議な草原である。そう考える人もいるらしいが、それは詳しく言うと少し違う。

 そもそもここら一帯は全て森だった。それがどういうわけかここら辺りだけ、まるで切り取られたかのように木が消えたのだ。もちろん切り株も、掘った跡もない。完全に消えている。

 しかもそれが消えたのはごく最近の事で、一時期はニュースで話題になった。が、あまりに不気味で、訪れる人はおらず、開発されずに残されている。都市の近くに森があるのも、これが原因だ。

 私たちも当初はここに光の道がある、と考えていたが、みっちゃんが入部した事や、マメちゃんの悩み相談に付き合うなど色々あり、計画は自然消滅していた。

 来てみてわかったが、ここは良い所だ。涼しい風が吹き、ぽかぽか陽気が気持ちよく、お昼寝やキャンプにもってこいの場所だと体で感じる。

 景色は自然そのもの、ではなく、町が見えてしまうことが少し残念に思える。緑とビルの組み合わせは、不釣り合い極まりない。が、この景色がみっちゃんを町に導いてくれたとなると、感謝するべきなのだろう。

「ぬぅぅぅ…っ、はぁ〜。気持ちええ場所やなぁ」

 サークルグリーンに着くなり、かめちゃんは体を伸ばし、深呼吸をする。確かに気持ちがいい。このまま寝転がりたいくらいだ。

 しかし、今日はそんな目的で来たのではない。お昼寝はまた今度来た時にする、と心の中で決め、

「みっちゃんはどの辺りに立ってたの?」

 と部長らしく本題を切り出す。これで最後の旅かもしれない、と考えたら、余計にしっかりしないと、と思えてきた。

 みっちゃんも帰るためにやる気満々、かと思いきや、

「すぅ〜…、はぁ〜…。…はい? 何か言いましたか?」

 とのんびり深呼吸していた所為で聞こえていなかったようだ。可笑しくなってクスリと笑い、もう一度尋ねると、

「わかりません。あの時は夜だったので」

 と申し訳なさそうに言う。

 のんびりとした2人を見て、なんだか自分だけ張り切っているような気がしてならない。気合いを入れすぎていたのか、いつも通りに戻りたくなる。

 みっちゃんは特別を求めているのではなく、いつも通りを求めている、と勝手に解釈し、私も2人のように深呼吸をする。青い匂いが心地いい。

「ふぅ…。じゃあ、のんびり探そうか」

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