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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第7章 固い2ヶ月の友情
114/180

単純計算にして4倍

「光の道…ですか?」

「そう。光の道」

 おばあちゃんは昔から達筆だったようで、昔のノートと言えども読みやすい。さらっと流してくれてよかったのだが、世界間の関係について詳しく知らないみっちゃんは律儀に反応する。

 簡単に返し、私は基本的知識をみっちゃんに叩き込もうと説明を続ける。

「で、まず知っておいて欲しいのだけど、私たちの言う『別の世界』というのは決して別時空とか、別次元にあるんじゃない、って事。そうね……」

 世界間の喩えに悩み、数秒考える。馬鹿にしているわけではないが、何も知らないみっちゃんに説明するとなると、喩えが難しい。

「うーん……。よし、ウリで説明しようか。胡瓜とメロンとウリ科でしょ? ウリ科という括り、それを空間に置き換えて考える。ほら、簡単でしょ? 同じ科という空間に胡瓜、メロン、カボチャといった様々な世界があるんだ」

 トンチンカンな説明を終えると、みっちゃんは首を縦に振り、「なるほどわかりやすいですね」と大発見でもしたかのような反応をする。しかも表情は真面目そのもの、なんだか可笑しい。

 笑を堪えるのが大変で説明を続けにくい。が、なんとか抑え込み、簡単にまとめる。

「別の世界に行くって事は、ちょっと難しい旅行って事だよ」

「そんでややこしい事に、行き先は完全ランダムやったり、場所で決まってたりするんや」

 黙っていたかめちゃんが付け足す。確かにその通りだが、これは言うべきか言わざるべきか悩んでいた事で、別の世界を目の前にした今のタイミングは最悪だと思われる。

 が、いつかは言わなければならなかった事だ。みっちゃんがいなくなってからでは意味がない。おそらくかめちゃんにはそういう思惑があったのだろう。今だからこそと、そう考えたのだろう。

「つまり、行った先が故郷とは限らない…、と」

 みっちゃんも大分理解したようだ。理解したからこその言葉、不安でいっぱいの声は私たちに向けられたものではなく、みっちゃん本人に向けられたように思えた。

「うん…。そうなるね」

 不安に影響されたわけではないが、自然と私の言葉も暗くなる。実際、みっちゃんが別の世界に渡った後は、その世界の人たちに次の世界まで導いてもらうしかない、とか考えていた。

 もう何年も人が訪れていないであろう神社は、これからの苦難を表しているようだ。どうやっても助からないような、そんな感じ。

 しかし、いつまでもこうして暗いままではいけないと、この状況から脱出すべく2人にかける言葉を考える。言葉の引き出しを開くが、どれも無責任な励ましでしかない。

「ま、その時は頑張りますよ。光の道探しますか? カメラ持ってきてますよ」

 さっきまで落ち込みムードだったみっちゃんがいきなり明るく、そしていろんな意味で進み始める。仕切り直してあげるつもりが、逆に明るくされてしまった。

「心音らしいなぁ。そういうトコ好きやで」

 カメラを受け取りながら、優しく微笑むかめちゃんを見て、今のこの時に言って正解だった、と安心する。正確には言ってもらっただが。

「橙華先輩もカメラどうぞ」

 不安をかけらも感じさせない表情と声で、みっちゃんは私にもカメラを手渡す。ノートをリュックにしまうのに手間取り、受け取るのが遅くなってしまつまた。

「ありがとう」

 短い言葉に沢山の感謝を込め、3人別々に光の道を歩い捜索へ向かう。

 周りの木々の中、近くに建ってある蜘蛛の巣だらけの蔵の中などなど、様々なところを探した。が、簡単には見つからないし、見つかれば多世界論なんて発表する前に常識になっている。


 結局、この神社には光の道、空間の弱い場所はなかった。再び1時間かけて駅に戻り、1日に数本しか通っていない電車に乗って帰る事になった。

 帰りの電車の中で、「半分の重力に慣れてしまってますから、電車の中で通常の2倍にしてリハビリしましょう」と言われ、楽をしたツケが回ってきたと、私たち以外人のいない車内で私は1人苦しみながら寝ていた。



 神社へみっちゃんの故郷探しに行ったあの日から既に2週間。1週前は幽霊屋敷と呼ばれている空き家へ行き、そこでもハズレくじを引いた。光の道は見つからなかったのだ。もちろん、幽霊も見つからなかった。

 人の手がかかっていない場所、その条件をクリアしているだけではダメ、身にしみてわかった。

「元の世界に帰らなきゃ、って思うすぐ側で、ずっとみんなといたい、って気持ちがどんどん強くなるんです」

 幽霊屋敷からの帰り道、みっちゃんはそんな事を言っていた。危険な能力がなければ、それも叶っただろう。しかし、それにさえみっちゃんは絶望せず、みんなの平穏を守るために自分はいない方がいいと、あくまでみんなを優先していた。

 力になってあげたい。私たちがそう思う事が、もしかしたらみっちゃんを辛くさせているかもしれない。そう考えた事もあった。

 しかし、帰る事が望みであるなら、今週こそ見つけてあげたい。

 剣道部の活動や、瑞樹家の家庭内騒動などもあり、平日は全く作戦会議に顔を出さなかったみっちゃんだが、土曜日だけは無理を言って休みをもらってきてくれた。それでハズレを引いてしまったのは本当に申し訳なく思う。

 幽霊屋敷に行った次の週の平日、私とかめちゃんはある事に気がついた。本来なら最初に向かうべき場所の存在だ。

 みっちゃんが最初にこの世界に来た場所。なぜ忘れていたのだろう。そこはもしかすると、いや確実に空間の弱い場所だ。

 メールで場所を教えてもらい、みっちゃんが休みをもらった土曜日の予定を立てる。場所はサークルグリーン、「消えた森」。


 みっちゃんがこの世界に来て1ヶ月と2週間。

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