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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第7章 固い2ヶ月の友情
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光の道

 階段、といえばカクカクのきちんとした形の物を思い浮かべる。が、山とか神社とか、そういったところの階段は、作った人には申し訳ないけれど、石やら木やらでガタガタですぐ足が痛くなる。

 しかし、今日はそんな心配はいらなかった。みっちゃんのおかげで体が軽い軽い。もう元の重さには戻れないほどの楽さだ。

「もうすぐ到着だね」

「そう…ですね…。ぜぇ…ぜぇ…」

 ひょいひょいと階段を上る私に対し、「競争しますか」とまで言ったみっちゃんはやや疲れ気味。やはり大きな荷物を持ち、1時間弱歩いた後の階段は堪えるのだろう。かめちゃんも同じく息を切らしている。

 階段を上り始めて約5分、何段くらい上ったのだろう。確か200までは数えていたのだけど、そこからは面倒くさくなって数えていない。多分その2倍の400くらいだろう。

「あと…何段くらいですかね…」

 息を切らしたみっちゃんが立ち止まり、膝に手をつけ尋ねる。背負った荷物が気になったが、落ちる様子はなさそうで安心した。

「鳥居見えてるし、50くらいじゃないのかな」

 ぜぇぜぇと辛そうなみっちゃんとかめちゃんを見て、自分だけ楽をしている事を申し訳なく思う。この旅が終わったらどこぞの洒落た喫茶店でケーキセットでもご馳走してあげよう。

 ゆっくりと上ってくる2人を待ちながら、私も少しずつ階段を上る。先に行っても寂しいし、2人との距離を見ながら丁度いい位置にいることに努める。かめちゃんとは5段、みっちゃんとは3段離れて上っていた。

「火芽先輩…」

 弱々しい声でみっちゃんが話しかける。

「どないしたん…?」

「今ですね、自分の中で自分を優先するか、橙華先輩を優先するかで葛藤しています…」

 2人の会話の中に私の名前が出てきて少し驚く。自分か私か、どういうことなのだろう。依然、2人に合わせて階段を上る。

「それは…、どういうことなん…?」

「それがですね、うまく言えないのですが、自分の中の何かが切れかかっているんです…」

 さっきよりも辛そうな声になり、再びみっちゃんが足を止める。体力の限界がきたのだろうか、今度は立ち止まるだけではなく座り込んだ。

 心配になり、数段降りてみっちゃんの元へ行く。もしかしたら私の所為かもしれない、意識よりも先に体は動いていた。

「ちょっと…大丈夫?」

 明らかに大丈夫ではなさそうな表情をしていたが、それしか言葉が見つからず、そう言うしかなかった。

 かめちゃんもゆっくりとみっちゃんの元へ行き、自身のやや小さめのカバンからペットボトルを渡す。中身はお茶だ。

「ほら、これ飲み」

 ペットボトルのフタを開けてから渡す。疲れているというのに、細やかな気遣いに感心する。

 みっちゃんも「ありがとうございます」、と言って受け取ると普通に飲まず滝飲みをする。迷わず滝飲みをするあたり、みっちゃんの真面目さがうかがえる。

 ペットボトルを返し、リュックを肩から降ろす。ため息をついて俯くみっちゃんの息切れは、ほんの少しではあるが回復していた。

 改めて問う。

「それで、みっちゃんか私か、ってどういう事なの?」

「それは…」

 ややあって、悩んだ末に出した答えのように答える。

「いえ、もう大丈夫です。気のせいでした」

 答えるまでに間があったためか、みっちゃんの息切れはもう少し回復していた。かめちゃんも隣に座り、体力を回復させている。

「本当に? 嘘ついてない?」

 どう考えても嘘をついているように思え、少し強めに確認する。

「はい、先輩に嘘なんて言いませんよ。本当に大丈夫です。あと少しで神社です、もうひと頑張りですよ」

 そう答えるみっちゃんだが、やはり嘘のように思えて仕方がない。が、私自身みっちゃんに助けられている状況で、あれこれ追求できる立場ではない。立ち上がり、またゆっくりと上り始めた。

 どうもおかしいと、かめちゃんに助けを求めるように視線を送るが、かめちゃんは後輩ちゃんの意志を尊重したいのだろう、ゆっくりと首を横に振る。

「……わかったよ…」

 かめちゃんも立ち上がり、再び上り始める。私は今度は先に行かず、2人を下から見る事にした。弱いわたしがしっかりした2人よりも高い位置にいるなんて、と思ったからだ。

 上るのを再開してから到着までは早く、30秒もしないで神社までたどり着いた。春の暖かさは、2人にとって災いし、まるで夏の日のように汗をかいていた。

「ようやくですね…」

 最上段に腰掛けているみっちゃんは、やりきった表情でそう言う。やはりリュックは肩から降ろし、今度は空を見上げている。

「そうだね。一旦休憩して、それから調べ始めようか」

 そう言って自身のカバンからみっちゃんにもらったクッキーを取り出し、3人で分けて食べる。袋のちょうど半分くらいあったクッキーは、そこで空になってしまった。


「調べる、って、何をどうやってするんですか?」

 すっかり体力、気力ともに回復したみっちゃんが、お賽銭を入れ、お祈りを済ませてから尋ねてきた。この神社はもう誰も管理している人がいないのに、みっちゃんらしい。

 が、質問は適切だ。それはごもっともな疑問であるし、みっちゃんが元の世界に帰れるかどうかを決めるものでもある。

「待っててね、今説明に必要な物を……、あった!」

 みっちゃんのリュックの中から、おばあちゃんがまとめたノートを取り出す。もちろん、リュックは降ろしてもらっている。

 色あせた古いノート。タイトルは「光の道」。それを開き、おばあちゃん直筆の文字を読みながら説明する。

「まず、人の手がかかっていない、この条件はクリアしているね。だったら探すものは1つ、『光の道』と言われる空間の弱い場所だよ」

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