シオン、死す
料理をするのは得意だ。前いた世界で俺を拾ってくれた人に恩返しをしようと作ったら、思いのほかうまくいった。
それから俺は、お菓子など色々なものを作って、友達に持っていったものだ。橙華さんは美味しそうに食べてくれたな。
「もうすぐ晩御飯できますよ、お茶碗の準備お願いします」
今日は野菜…正確には野草炒めだ。医者いらずの森には食べられる草も生えている、これが意外と美味しい。
そろそろいいかな。俺はフライパンから野草をお皿に移す、それを持って行こうとした時だった。
急に体の力が抜け、倒れこむ。皿も持てずに落とした。バリーンと音を立てて割れ、皿の破片が辺りに飛び散る。
苦しい、息をするのさえ辛い。なぜだ、今の今までなんともなかったのに。前に味わったこの感覚、そうだ、体を光の槍に貫かれたあの感覚だ、一体なんだってこんな時に。
目の前が…真っ暗になる
「死ぬわね、間違いなく」
うわ、容赦ないな胡桃さん。ここまではっきり言われたら逆に清々しいよ、と心の中では元気だが現実はそうではない。
「あなた、何か変な術か何かをかけられなかった?これは病気の類じゃないわ」
「いや…ない…ですね…」
苦しい、喋るのが辛い。人にとって、呼吸するのに等しい話すという行為がここまで辛いなんて。
「でもこれは病気じゃない。それ以外の呪いか何か」
「そう…ですか…」
「しゃべらなくていいよ、辛いんでしょ」と美良さん、「そうそう、最期くらい静かにしてなさい」と凪さんが言う。
凪さんはともかく美良さんは心配してくれている。俺、迷惑かけてるな。
「はい…すみません…」情けなくて涙が出てきた。
「胡桃さん、どうにか助かる方法はないんですか?」
美良さんが尋ねる。「胡桃さんだったら、呪いでもなんでも治す薬が作れるんじゃないですか?」
「はっきり言うわ、無理よ。シオンは死ぬ、これは変えられない」
うわ、本当に容赦ないな。まあいいや、俺死ぬんだし。
「ひどい!胡桃さんひどいです!なんとかしようっておもわないんですか!」
美良さん、俺の初めての仲間が必死で俺を助けようとしてくれている、ありがたい限りだ。
「仕方ないわよ、運命なんだから。それに手がないわけじゃないんでしょ?」
と凪さんが胡桃さんに言う。手があるのか、助かるのかな。
「だったら早くしてくださいよ!シオン死んじゃいますよ!」
「ええ、確かに手はある。でもそれはあなたが決めるものじゃない。シオン、生きたい?」胡桃さんが聞いてくる。
「それは…生きたいですよ…」俺は虫の羽音にも満たない大きさの声でそう伝える。
「そう、なら助けてあげる。でもあなたは死ぬ。この結果に変わりはない。」
どういうことだ。死ぬのに助かる?助かるのに死ぬ?わけがわからない。
胡桃さんが棚から薬を出してくる。なんだ、この症状を治す薬はなかったのでは。
胡桃さんは真剣な表情で俺にある選択を迫る、まるで道は決まっているのに天国へ行きたいか地獄へ行きたいかを訊く閻魔様の様に冷たい声で。
「この薬を飲めばあなたは死ぬ。そして永遠に辛い人生を歩む。もちろん飲まなくても死ぬ、楽にね。さあ、どっち?」
意味がわからない。さっきから俺の頭の中は疑問符でいっぱいだ。
しかし、胡桃さんのことだ、きっと何かあるのだろう。俺は薬を一気に飲んだ。
なんだろう、さっきまで苦しかったのにものすごく楽だ。薬の効果か?それとも死んだのか?
俺は頬ををつねってみる。痛い、ということは夢じゃない、生きている。よかった、何も心配することはなかったんだ。死ぬなんていつもの胡桃さんの冗談だ、いやー本当によかった。
そんな安心感を胡桃さんの一言が吹き飛ばす。
「どう?一度死んだ気分は」




