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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第7章 固い2ヶ月の友情
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他人事

 悲しいじゃないか。この場でそう言える人は、詩人か、勘違い人間か、物語の主人公くらいだろう。みんなそんなこと気にしない、なんで保証はできない。それは無責任である上に、綺麗事であり、絵空事でもあるかもしれない。

 だから、何も言えない私たちは、黙って話を聞いてやるしかできない。

 たった2、3分の出来事なのに、随分と長い時間のように感じた。他人事だけど、自分の事のように重くて、辛くて、どうしようもない。自分にも似た部分があるからか、心に刺さるというよりは、ガツンと殴られたような感覚だった。


 2人で歩く帰り道、みっちゃんは剣道部の仲間が練習に呼びに来た事もあり、話し合いを中断して今日はお開きになった。うっすらと暗くなってきた空は不安を誘うようだ。

 その不安から逃げるように腕時計を見てみると5時59分、目線を上げると蛍光灯がパッと光を放つ、ジャスト6時だ。うすい青色の光は色相応に不安をほんのりと和らげてくれる。

「なんも言えんかった」

 道中、初めてかめちゃんが口を開く。それもまた重く、暗さを含んでいる。

「橙華ちゃんも見たやろ、心音めっちゃ辛そうやった。ほんまの気持ち隠しとるみたいやったし、なんとかそれを受け入れようとしとった。それやのに……うち、悔しくて…」

 鞄の持ち手をぎゅっと強く握り、自分の無力さを痛感しているようだ。

 それに対するフォローさえ、私はできない。やはり「大丈夫」とか、「考えすぎ」とか、それしか浮かんでこない。無責任だ、本当に無力なのは私だ、後輩と親友の力になってやれない。最低だ…。

 それでも受けた言葉は返さなければならない。綺麗じゃなくてもいいから、自分を出そうと思う。結論は出ていた、隣を同じ歩幅で歩きながら、私も道中で初めて口を開く。

「大丈夫、っていうのは勝手な想像だけどね。でも、少なくとも私たちは今みっちゃんの事を考えて、みっちゃんのために何ができるか考えてる、それだけで十分なんじゃないかな」

 喋りながら自然と右手が動く。右手の行き先は鞄の持ち手、だけど自分のじゃなくて、かめちゃんの鞄のだ。強く握られた持ち手から、左手を外してやる。

「橙華ちゃん……」

 手を握るのは小学生の遠足以来だろうか、オーサカから転校してきたあの頃がつい最近のように感じる。かめちゃんの左手は力が入っていたからか暖かい。右を向いてニコッと笑ってみせると、かめちゃんも笑ってくれた。

 少し照れくさいが、高校生の親友の手を握るのも悪くなかった。本当は力を抜かせるために手を取ったのだけれど、このまま帰るのもいいと感じる。

「よっ、お二人さん。百合にでも目覚めた?」

 背後から聞き覚えのある声が聞こえた。男の声、にしても失礼極まりないその台詞、頭の中に1人だけ条件に一致する人物が浮かぶ。

 振り返ると、そこには予想通りの人物がケラケラと笑いながらついてきていた。とりあえず繋いだ手は離しておく。

「やっぱりいりちゃんだ。…変な事言わないでくれる?」

「いやいや、昔っからお前ら仲よかったし、ついに目覚めたか? って思っただけだ。特に深い意味はないよ」

 そう言いながら私の左に並んで歩く生意気なやつ、入間いりま 流斗ると、通称いりちゃんはこれまたかめちゃんと同じく幼馴染だ。肩に竹刀の入ったケースを背負い、依然ケラケラと笑い続ける。

「あれ? 流斗君部活休みなん?」

 かめちゃんが私越しにいりちゃんを見て尋ねる。私は確かにそれも気になっていたが、百合趣味があるのではないか、と言われた事に対して何かを言ってほしかった。

 が、原因を作った張本人は、そんな事もう忘れた、といったように答える。

「今日は病院に行くんだよ。眼科。これは朝練に使ったんだ」

 竹刀を親指で示し、やれやれ面倒だといった感じで病院に行く理由まで教える。どうやら眼鏡の度を上げるようだ。正直どうでもいい。

「どうでもいいけどさ、2人ともなんか元気ないぞ。下向いて歩いて、転ばないように…じゃないだろ?」

 バレている。流石は幼馴染、そこらあたりは鋭い。今回は軽い事だけど、剣道で鍛えた人を見る目の力らしい。嘘くらいなら見破れる、と本人は言っている。

「まぁね、後輩ちゃんの事で悩んでるのよ」

 ため息まじりに言うと、ややムッとした顔で返される。

「ふーん、ま、僕には関係ないね」

「うん、関係ない」

 きっぱりと断言すると、いりちゃんはまたムッとした顔を見せる。

「……病院行かなきゃ、じゃあな」

 私たちにバイバイも言わせずにさっさと立ち去る。気を悪くさせたのだろうか、何が原因かはわからないけれど、悪かったと反省しておく。

 いりちゃんと話している間もある程度歩いていた事もあり、私の家はもうすぐだ。今日は色々あったせいで疲れた。

「じゃあかめちゃん、私も家すぐだから」

「うん、また明日な」

 手を振ってから小走りで家へと向かう。10秒ほどで家は見えた、とりあえず帰ったらベッドへダイブしよう。

「あ…」

 誰もいない道で1人声を出す。忘れていた事を思い出した。

「みっちゃんのメアド聞いてなかった…」

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