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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第7章 固い2ヶ月の友情
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意外な弱点

「それで、どういった理由でここへ来たわけ?」

 瑞樹…、みっちゃんが入部した次の日の放課後、部室で3つ出した湯飲みのうち、2つにお茶を淹れているみっちゃんにこんなことを聞く。昨日聞くのを忘れていた、一応知っておきたいし、みっちゃんの話からすると色々と疑問点がある。

「理由と言われましても」

 湯飲みから目線をこっちへ変え、

「俺……僕はこの世界の住人じゃないのかな、って思ったからです」

 やや自信なさげな声と顔で言う。その声や顔の事より、湯飲みからお茶が溢れないか、という事が気になってしまった。

 この世界の住人じゃない、確かに昨日のアレを見て、尚且つ複数の世界の存在を知っていれば、そう考えても不思議ではない。だが、疑問点はそこではない。

「そのチカラ、いつ気がついた?」

「一昨日です。見学に来た日ですから」

「それ、それがおかしい」

 思わずみっちゃんに指差しをしてしまう。が、特に誰も気にする様子もなく、話は続いていく。

「なんで今の今まで気がつかなかったのか、そこなんだよ。みっちゃんが生きてきた約16年、16年だ、気がついてもおかしくない。暴発する可能性すらあるし、そこがずっと気になってた」

 言い終わると、みっちゃんはまた暗い顔になり、俯向く。少し責めるように言ってしまったか、自分の言葉を思い出し、反省してみる。

「……ないんです」

「え…?」

「ないんです。生きてきた記憶、記録が何も。俺は2週間も生きていないんです」

 頭がおかしくなったのか、なんて思えない。真剣で、悔しそうで、辛そうだ。信じられない話だ、2週間しか生きていない高校生、…信じるしかないんだ。

「………」

 言葉に詰まる。親や先生にうるさい、とまで言われる私だけれど、今この時だけは言葉が出てこない。励ましとか慰めとか、それは無駄だって感覚でわかる。

「関係あらへんよ」

 口を開いたのはかめちゃん。昨日徹夜した所為で、今までソファで眠っていたが、いつも間にか起きていたようで、すでに座っている。

「2週間やからって何も悪い事はない。心音の気持ちは、うちにはようわからへんけど、気にすることやないよ」

 無責任にも思える言葉、でも考えて洗練された綺麗事なんかより、ずっと優しさを感じる。優しさは続く。

「多分、心音はみんなと違う、それが嫌なんやろ。大丈夫、同じ人なんてこの世にはおらへんから」

「かめ先輩……、そうですよね、俺が間違ってました」

 さすが我が部の鎮火担当、発火担当の私の不始末をいつもなんとか抑えてくれる。ありがたい限りだ。

 かめちゃんが起きた事もあり、みっちゃんは出しておいた3つ目の湯飲みにお茶を淹れ出す。気が効くというか、素早いというか、まるでメイドさんか何かのように思える。執事ではなく、メイドさんだ。

「どうぞ、かめ先輩のです」

 湯気を立てている湯飲みをかめちゃんの前に置く。出がらしのお茶でないところがさすがだ。私なら面倒でそのままお湯を足すだけだろう。

「おおきに。…でもなぁ心音、うちの名前「かめ」やないんよ」

「え? そうだったんですか?」

 衝撃の事実に少々驚いているようだけど、人間歴2週間よりはインパクトがない。私は知っているから、別に驚きも何もない。ただいつも通りお茶とお菓子をいただくだけだ。

「そうやで。橙華ちゃんがうちの事をかめ、って呼んどるけど、ほんまは「火芽ほのめ」って名字なんよ」

「それ、私の所為みたいになってない?」

「ほんまの事やろ」

 そう言うとかめちゃんは少しムスッとした表情を見せる。基本的にあだ名で呼びたい、という私の自分ルールを否定されているようだけど、こればかりは私も怒るに怒れない。

 かめちゃんは悔しがっている私を見て、余裕の表情でお茶をすする。忙しい表情だ、何か軽く仕返ししたい。

「そうだったんですか…、じゃあ名前は何ていうんですか?」

「え……、えっと……名前は…そうやな…」

 名前を聞かれただけで異常に反応がおかしくなる。何故だろう、と思ったすぐに思い出す。私がかめちゃんをかめちゃんと呼ぶようになった理由、軽い仕返しを。

「かめちゃんの名前、私が教えようか?」

「ちょっ…! あかんよ! うちの名前絶対に言わんといて!」

 必死になって私の口を手で押さえる。久しぶりに親友の焦るところが見られた。悪い名前じゃないのに、どうして嫌がることがあるのだろう。顔を真っ赤にしているかめちゃん、純粋に可愛い。

「にひひ〜、冗談だって」

「…橙華ちゃんのバカ……」

 軽い仕返しと、可愛いところを見られて満足だ。今日はもうこれで帰ってもいいくらいだと、そう思える。もっとも、頭を抱えているかめちゃんは、今の状態では帰れそうにないけど。

「ごめんねみっちゃん。かめちゃん、自分の名前嫌いなんだよ」

「あ、そうだったんですか。そうとは知らずに…」

 馬鹿丁寧に反省するみっちゃん、面白くもあり、少し可哀想でもある。気が弱いのか、良い子なのか、多分良い子なんだろう。

「ううん、気にしない気にしない。ほのめ先輩って呼べばいいから…」

「………ょ…」

 ボソッとかめちゃんがつぶやく。

「きんぎょ、うちの名前…」

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