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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第7章 固い2ヶ月の友情
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別世界を研究す

 本なんていくらでも見てもらっていい、見られてまずいものは入れてないから。見えるようには…ね。

 それにしても編入生か、瑞樹…瑞樹…、うーん思い出せない、絶対にどこかで聞いたはずなんだ。気持ち悪い、もう喉まで出かかっているのに思い出せない。思い出してスッキリしたい。

 しかし随分と熱心に読んでいるな、神話に興味があるのか? まぁ、たとえ興味があったとしても、入部は認めないし、入部したところで神話の研究はできない。

「おーい瑞樹君、そろそろ次へ行くぞ」

「………」

「おーい、聞こえてるかー?」

「…! は、はい…、今向かいます」

 私が思い出す前に校長は編入生を呼び次の部室へ向かおうとする。編入生は本を綺麗に本棚へ返し、「ありがとうございました」とお辞儀をして校長の後についていった。

 礼儀はしっかりとしている、どこかの偉そうなおぼっちゃまではないのかな。まあ、なんにしろ廃部じゃなくてよかった。別に部活動で研究しなくてもいいじゃないか、と言われればそれでおしまいなのだけれど、運動はできないし他の事に興味はないから、この部を守るしかない。なにしろこの学校は部活動必須なのだ、あーやだやだ。

「はぁ…なんとか誤魔化せたね、一時はどうなるかと思ったわ」

 ホッ、と一息つき、かめちゃんがソファ深く座る。嘘をついたのだ、緊張くらいするだろう。その力が抜け、さっきの私のようにふかふかのソファに埋もれている。

「うん、ありがとうかめちゃん、助かった」

 私もホッとしてカバンの中からあるものを取り出す。今日の部活中にかめちゃんと食べようと思って持ってきておいたものだ。

「あ、また橙華ちゃんおかし持ってきとる。あかんで、学校におかし持ってきたら」

「いいのいいの、疲れた時は甘いものが1番。それに、どうせここには先生以外誰もこないんだから」

 そう言いながらミルクチョコレート包装をビリビリと破き、それを3等分してかめちゃんに1つ渡す。

「うちビターがええんやけど、橙華ちゃん甘党やもんね」

 軽い文句を言いながらもスッと受け取る、3等分をさらに割り、一口ずつ食べている。ビターもいいんだけれど、やっぱりチョコレートは甘いものだから、ミルクが一番だ。

 事実、甘党の私は1日にかなりの頻度で糖分を摂取している。朝のトーストだってそう、ジャムは欠かせない。コーヒーだって、ミルク入れないけど砂糖の入ったやつを飲んだ。おかしで一番好きなのは今日も持ってきたチョコレートだが、ホワイトチョコは苦手である。

「かめちゃんは私と違って大人だもんね」

「大人やない、うちかてまだまだ子供や。せやけど、うちがしっかりせんと、今泣きながらここに向かっとる先生が心配やから…」

 ソファの上から目線を扉にやり、微笑みながらそう言った。確かにほんの少しではあるが鼻をすする音が聞こえる、廊下ではバレないようにしている様だけど、私たちからすればお見通しだ。

 ガラガラ、と扉がスライドされ、泣き虫顧問のご到着だ。

「………、グスッ…、やっぱり生徒が私を怖がる……」

 少しの間をおき、いつもと同じ内容で泣いているのはこの学校1の嫌われ者教師、藤間ふじま 芽衣めい、通称…睨弥にらみ。私とかめちゃんは苗字の「間」と名前の「芽」を取って、先生のことをマメちゃん、と呼んでいる。

「だ、大丈夫ですよ! みんなはマメちゃんの優しさを知らないだけですって!」

「だって……だって……、見ただけなのに怖がられるんだもん…グスン……。わたしってそんなに目つき悪いかな?」

 これがうちの顧問、とても先生とは思えない人だ。ちなみに担当教科は英語。目つきが悪い…というのは少し違う。実はこの先生、両眼とも視力が0.2、それなのに眼鏡もコンタクトもしていない。その所為で常に目を細めないとよく見えない、それを知らないみんなが「睨まれている」と勘違いしているのだ。

 更にこのマメちゃん、異様なまでに真面目で、学校にふさわしくない髪型や持ち物、スカートの長さはもちろん長すぎる髪は束ねているかどうか、提出物に関しても自分のクラスは担当教科以外も管理している。

 普通に考えればこれ以上ない真面目で立派ないい先生なのだけれど、その真面目さ故、乱れが目に入れば注意をする、みんなが好きだから楽しそうにしているとつい見てしまい、目を細めているので怖がられる、といった悪循環にはまっているのだ。

「せやからマメちゃん眼鏡がコンタクトすればええのに、そうすれば怖がられんよ。マメちゃん優しいもん」

「でも…コンタクトは怖いし、眼鏡は子供の頃にかけてた時、似合わない、って言われたから…」

 かめちゃんの励ましと慰めも虚しい。しかし、私が授業中にかけている眼鏡をマメちゃんにかけてもらった事があるが、すごく可愛かったのを私とかめちゃんは知っている。何がマメちゃんを眼鏡から遠ざけるのか、似合わないと言われたのは相当なトラウマなのだろう。

「とりあえずさ、マメちゃんも来たし部活はじめようよ。ほら元気出して、チョコレートあげるから。甘いよ」

「うん、ありがと」

 マメちゃんにチョコレートを渡し、まだ食べていなかった自分のチョコレートを咥え本棚へ向かう。なんちゃら神話の本を2冊取り出し、机の上に置く。が使うのはこれじゃない。

 本を取り出した更に奥、隠す様にしまっていた1冊を手に取る。タイトルは無題、だが内容は到底みんなが信じることのできない事実が記されている。

「さて、別世界研究の開始だよ。今日の議題は……」


「魔力による特殊な能力……」

「ん? 何か言ったかね?」

「いえ…何も…」

 さっきの部室で読んだ本、その内容が頭から離れなかった。

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