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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第7章 固い2ヶ月の友情
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25円は軽かった

 思えばこの1週間、よく女の人に間違えられた。師匠が制服を買ってくれた時、病院の検査を受けた時、極め付けは道を歩いていたら子供が転んで、それで起こしてあげたら「お姉ちゃんありがとう」と言われた事だ。

 確かに俺は16歳男子の平均より背が低く、声もそれほど低いわけではない。これも漫画の知識だけど、合唱ならアルトパートを任されるだろう。でもそれはその時、ずっとフードをしていたから勘違いされた、のだと思っていた。

 しかしそうではないらしい。ここは学校だ、フードなんてつけていない。それで勘違いされるのなら、俺は中性的な顔をしている、もしくは男らしさがないのか。

 あと、これは自分で言う事ではないのだけど、剣道の稽古をしていない時は、皆さんの役に立つために料理、掃除、洗濯、裁縫なんかも師匠の奥様に教えてもらった。あとで師匠に話を聞くと「『花嫁修業』のようだった、嫁さんはいらんな」らしい。喜んでいいのか?

 とまあ、そんな事がまわりまわってこういう事に繋がったのだろう。納得できないな。

「話は済んだか? じゃあそこの空いてる席に座れ、ここねちゃん」

「しおんです」

 担任の先生のくだらないと言えば失礼になるジョークを軽くかわし、指定された席へと向かう。漫画では足をかけられるのだけど…、所詮漫画の世界の話か。

 自分の席に着くと隣の男子生徒が突然話しかけてくる。

「なあなあ瑞樹、おまえ何部に入んの?」

「剣道部ですかね」




 キンコンカンコンってチャイム誰が決めたんだろう、確かウェストミンスターの鐘が元だったっけ、これが聞こえなきゃ授業は始まらない。そして、授業は終わらない。

「終わったぁぁぁぁ! あー疲れた!」

 授業終了の挨拶を終える前に体を伸ばす、数学の先生が呆れているが私には関係のない事、級長さん、さっさと挨拶を終わらせてくれ。

 さっき鳴ったチャイムは6時限目の終わりのチャイム、つまり学校の終わりのチャイムだ。部活動のない人に限るが。

「橙華ちゃんほんまに起きてたね、休み時間にいなくなってたけど」

 挨拶を終えてすぐにかめちゃんが私の席に来てくれた。私の勇姿をしっかりと目に焼き付けていたようで、休み時間も気にかけてくれていたらしい。

「あーうん、コーヒー買いに行ってた。毎時間買いに行ったからお腹タプタプ、お弁当も食べきれるか心配だったけど、それよりも財布の中身が心配だったよ。今現在の財布の中身25円…」

 財布を開いて逆さにし、中の小銭を手のひらに乗せる。5円玉が4枚と1円玉が5枚、10円玉がない事のがやけに悲しく思える。25円で何を買えというのだ、駄菓子か?

「自業自得やで、これに懲りたら夜更かしは控えること」

「ちぇっ、覚えてたらちゃんと寝ますよ」

 力を抜いていた体に再び力を入れ、机の中の教科書やノートを鞄の中にしまう。学校に教科書を置いて帰るのは性に合わない、鞄は重いが仕方ない、家に持って帰らないと何だか不安なのだ。

 その重い鞄を肩にかけ、朝走ってきた廊下をかめちゃんと一緒に歩く。が、そのまま一緒に家に帰るわけではない、階段で二階まで降り、部室に向かう。

 『研究部』

 何を? と言われそうになるが、他の人にも何を研究するか言ってない。言えば馬鹿にされるし廃部にされる、だから研究部、という曖昧な名前にしているのだ。

 扉を開けると机とソファと本棚だけのシンプルな部屋だ。目立つのはそのソファと本棚だけ、本当に何もない。

「先生今日は来るかな?」

「さあ、いつもやったらもうちょいして泣きながら来るやん」

 いつもと同じ会話をし、私はソファに座る。これもいつも通り、ふかふかのソファに埋もれて1日の疲れを癒すのだ。たまに気持ち良すぎて眠ってしまうこともある。

「こら、橙華ちゃんそうやってお昼寝しようとするけん夜寝れんので。部室なんやから部活せんと」

 これもいつも通り、かめちゃんにちょいと愛のあるお叱りを受けてから始めるのだ。事実、部員は私とかめちゃんの2人だけ、先生は来なくてもできるから問題はない。

「はーい、じゃあ始めようか。えーっとじゃあまずは本を……」

 私が本棚から本を取ろうとした時、コンコンコン、とノックの音が聞こえた。先生かな? でも先生はノックなんてしないし、お客さんだろうか?

 かめちゃんが、はーいどなたー、と柔らかい口調で扉を開ける。かめちゃんのようなおっとりした関西弁は癒される。

 ドアを開けて入ってきたのは、なんと校長、ともう1人背の低い男子生徒だ。なぜ校長がここに? という疑問よりも、廃部を伝えに来たのか、という不安が募ってくる。

「すまんね、編入生の部活動案内だ」

「ども」

 編入生…1年だろうか、2年生ではそんな話を聞いていないから多分そうだろう。それにしても案内で校長とは、さぞかしお偉いさんのおぼっちゃまなのかね。

「ここ…研究部って、何を研究しているんですか?」

 大人しそうな外見に見合った丁寧な口調で、我が部の核心に迫る質問をしてくる。まずい…校長の前で本当の事を言ったら廃部だ、なんとかごまかさねば。しかしどうやって…

「あーえっとですね、ほらこれ、神話について研究してはります。今は北欧神話を中心にしとります」

「そ、そうです! 神話って面白いんですよ、先生もどうですか?」

 実際は違うが、かめちゃんがうまく誤魔化してくれたのでそれに合わせる。事実、本棚には私の家から持ってきた神話の本が置いてあるから、これを嘘と見抜ける人はほぼいないだろう。

「ほぉ知らなかったな、神話についての研究部だったのか。というわけだそうだよ瑞樹君」

 瑞樹君、その子は瑞樹というのか。企業やら大金持ちやらにそんな名前あったかな? でもどこかで聞いたような…

「そうなんですか。本…見てもいいですか?」

「あ、いいよいいよ、興味があるのなら見て行きなよ」

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