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世界に捧ぐ幻想花  作者: にぼし
第1章 絶望の世界守
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希望に絶望

初の連載小説です、純ファンタジーとなっております。

毎日一生懸命頑張りますので、最終回までお付き合いいただけると有難いです。


追記

7章の途中から書き方が安定します。参考までに。いつかは全て内容そのままで書き直すつもりです。

 細身の剣を片手に、私は罪人を追い詰める。もうこいつには逃げる力もない、完全に捕らえた。

「観念しなさい、カナンに害を与える者の侵入は死に値する大罪、カナンはそれを許さないわ」

 雨の降る森の中、血を流しながら後退する外界人に私はいつも慈悲無くこう言う。そして、それを聞いた外界人はいつも、憎しみに溢れた目で私を見るのだ。

 私は何をやっているのだろう、こんな事…本当はやりたくないのに。

 人を傷つけたくない、恨まれたくない、敬われたくない。家は関係ない、私は私。欲しいのは力じゃない、ただ平和がほしい…それだけなのに。

「何泣いてんだよ…殺るんならさっさと殺れよ。え?霜月しもつき 白花はくかさんよ」

 罪人は私を挑発する、知らぬ間に涙が出ていた様だ。こいつは私を嘲笑うかのように、私の嫌いな目で私を見てくる。

 この目だ、苦しみと憎しみ、恨みが混ざったこの目つき、流れる血は私には涙に見える。私にはこれが耐えられないんだ。

「うるさい…あんたには関係ないでしょ…」

 私だって、好きでこんな事をしているんじゃない。両親が生きていれば、今の私はもっと自由だっただろう。

「けっ、名誉ある『世界守』の霜月家の跡取りが、こんなヘタレ姉ちゃんだったとは…親もがっかりだろうぜ。あぁ、もう両親はいないんだっけか」

 罪人の言葉が、私の偽りの怒りを逆なでする。

「うるさい…うるさいうるさい、うるさい‼︎」

 ………なんでこんな事を言われなきゃならないの、こんな人生なら、生まれてこなきゃ良かった。

 私は森を後にする、外界人は私が剣を心臓に刺すと、奇術師のいなくなった操り人形の様に、すぐに動かなくなった。

 辛い…お父さん、お母さん、あなた達はどうしてこんな事が出来たの?どうして私は能力者として生まれたの?どうして私を残して殺されたの?

 そりゃ最初は楽しかったわよ、2人の仇打ちができると思ったんだもの。でもこんな………こんな事、私には耐えられない。

 ねぇ誰か教えて…こんな世界で、欲しくもない能力を持って生まれてしまった人間わたしに残された、希望を見つける方法を、もしくはこの世界に命をかけても良いと思える理由を…


「顔も知らない両親なんて…もうどうでもいい…」



「世界はたった1つじゃない、何十、何百とある」

 私はそう聞いた事がある。いや、私は実際に色々な世界を見せてもらった事がある。

 見渡す限りの花が咲き誇る世界、やまない雨が降り続けるジメジメした世界、人間が利便性を求め、環境を破壊し続ける世界…他にも色々見た。

 でも、私のいる世界はどれにも当てはまらない。

 幸福と希望に満ち溢れた世界、人はこの世界をそう呼ぶ。だが、私にとっては不幸と絶望に苦しめられる世界だ…


「ねえお母さん、あの花は何?……お母さん?」

 どこかで見た事のある小さな女の子、その娘がお母さんと呼ぶどこかで見た事のある深刻な顔をした女の人、誰だっけ?

「白花ちゃん…よく聞いて、私はあなたの母親じゃない、今更こんな事を言っても分からないわよね…でもこれは真実、あなたの両親はもういないの。あなたが生まれてすぐに亡くなったの」

 どこかで聞いた事のある声、少し若いがこの人は…

「ごめんなさい…やっぱり黙っている方が辛いの。あなたのお母さんとの約束、やぶっちゃった…あなたの家はね…」

 話が進むにつれ、2人から涙が止まらなくなる、そうだあの時…あの時の光景だ。確かここで私は…

「分かった…私が守る。本当のお父さんとお母さんの仇をとる…」

 5歳の私は強かった、その言葉には全てを背負う覚悟が感じられた。そう言い終わったかつての私は泣いている、声が枯れるほどに…

 少しずつ、この光景が薄くなっていく…


 少し開いた障子の隙間から、清々しい空気と太陽の光、鳥の鳴き声が私に朝を報せる。

 今日は大丈夫だろうか、自分の命が危険にさらされる事はないだろうか、何も無い1日であってくれるだろうか。私は切実にそう願う。

「夢か。ふぁぁ…眠い、朝ごはん何にしようかしら」

 誰に伝えるわけでもなく、独り言を言った私は二度寝をしない様にさっと起き上がる。昨日の夜、少し多めに仕込んだご飯が炊けている事を確認し、いつもの様にお味噌汁を2人分作る。

 残り物の茹でたほうれん草をお浸しにし、ジャーからご飯をよそう。いつも通りの朝ごはんを食べ、私は服を着替える。

 この時間は誰にも邪魔されない、たった1人で始まり、そして終わる。お父さんもお母さんもいない、私1人だけの時間。

 しかし、これが終われば平和と真逆な日常が待ち受けているかもしれない、そういう仕事だから、仕方ないと言えば仕方ない。

 …と、そろそろ来る頃かな。

「おーいハクー!私の朝ご飯残ってるかー?」

 空から声が聞こえてくる。やっぱり、そろそろ来ると思ってた。まったくマリのやつ、今日も寝坊か。

「残ってなかったらどうするつもりなの?」

 私は腐れ縁の親友に嫌味を利かせる。もっとも、マリはこのくらいでは堪えない。

「もちろん作ってもらうよ、ハクの作る朝ごはんが1番美味しいんだ。これが無いと私の1日は始まらないよ」

「調子のいい事言って、どうせまた寝坊でしょ?おばさんはお店があるんだし、おじさんの様子見なくていいの?」

「あぁ大丈夫、うちの父さん不治の病って言っても元気だから。まぁ残された時間は短いらしいけどな」

 あっさり言うなぁ、普通父親が病気なら友達の家に朝ご飯なんて食べに来ないのに。

「はぁ…まったくマリは、少しは人の気持ちも考えなさい。それと能力の使いすぎも禁止、緊急時に使えなくなるし、寝坊もしないようになるでしょ」

 私はマリに軽くお説教をする、こんな事をしてもマリは聞かないけど、何もしないよりはマシだろう。

「いいじゃん、使わないと大変な事になるって知ってんだろ?それに父さんの事なら考えてるよ、早く薬を見つけないとな…」

 珍しい、今回は聞いてくれた様だ。でもお父さんの事だけじゃなくて、私の事も考えてほしい。毎日朝ご飯をねだられても困る。

 なんて思いつつ、2人分作っておいたお味噌汁とご飯をよそってマリに渡す。ほうれん草のお浸しは無しだ。

「おおさんきゅ、これが無いと始まらないよな」

「どうでもいいけど、その『さんきゅ』って何?また外界の言葉?」

「あぁ、外の世界の勉強していたら見つけたんだ、これは『いんぐりっしゅ』という言語で、ありがとうって意味なんだ」

 またマリは、カナンには治す薬が無いから、外の世界の薬を調べている時に脱線したんだろう。まったく知識欲があるというか、自慢したいだけなのか。私にはよく分からないわ。

「そ、ならありがとうでいいじゃない。感謝するのにいちいち説明するなんて面倒でしょ?」

「なんだよ、覚えてくれたらいいじゃんか。外の世界の文化はなかなか面白いぞ、ハクも調べてみたらどうた?たまにはうちの骨董品屋にも遊びに来いよ」

 マリのこの一言にムッときた、私の嫌いな事知ってるくせに。

「嫌よ、仕事で嫌という程関わってるのに…これ以上外の世界になんて関わりたくないもの」

「そうだよな、世界守はそういう仕事だもんな。嫌でも外界が絡んでくる、かく言う私もそれだけど」


「あらあら、文句ばっかり言ってたら亡くなった両親が泣くわよ?」


 マリとは違う声がどこからか聞こえてきた、はぁ…今日も平和じゃないみたいね。


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