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側妃さまの目論見  作者: 華霜
本編
3/20

おまけ・側妃さまのとある日常

これでよし、と。



今私は充実感で満ち溢れてます。

袖まくりしていたドレスを整えながら今日の成果に満足中です。


最近運動不足気味なので少し腕が疲れてしまいました。

実家にいた頃から比べると、間違いなく体を動かす機会が減っているので仕方ないかもしれませんが。

後宮内の散策だけではなく、こう、もっと体をのびのびと動かしたいのです。

レディらしくあるためとはいえ、屋内にばかりいては健康にも良くありませんよね。



乗っていた椅子から足元に注意しつつ、ゆっくりと降ります。


こんな時ドレスは動きにくくて困ります。

やっぱりズボンに限ります!

私の衣装棚には側妃らしいドレスしか入っていませんが、実は一着だけ、ズボンを持っているのです。

この部屋に置いておいてはすぐに没収されてしまいそうなので、実家から連れてきた侍女に隠し持たせています。内緒ですよ!



部屋で控えている侍女たちは一様に無表情です。

いえ、最初は困惑してました。

お止めください、と散々言われましたが、負けませんよ。

妨害されたりもしましたが、私の熱心な説得により何とか今日にこぎつけたわけです。


とにかく、これで私の心の安寧が得られました。侍女と私の妥協点です。

あー、これでゆっくり過ごせます。

久しぶりの解放感に浸るとしましょう。




「………これは、どうしたのだ?」

「何のことでございましょう」



早い。


私以外の側妃さま方が後宮を出られて以来、陛下は抜き打ちでガサ入れ……違いました、予告なく私の居室にちょこちょこお見えになるのです。

昨日お会いしたばかりだったので、今日は大丈夫と安心していたのです。

私の見通しが甘かったようです。

どうしましょう。


陛下の眉間に縦皺がよっています。

それでも陛下の美貌が損なわれることはありません。どんな表情でもカッコイイなんて、美形は得ですね。



今回の事に関しましては、私に引く気はありません。むしろ、引いちゃだめでしょう、これは。

断固として私は戦います!


何とですって?

陛下の肖像画とですよ!!



だって気持ち悪いのです。


私の居棟の至るところに飾られているのです。

最初は居間に一枚あるだけでした。

それが定期的に増え続け、いつの間にやら応接室、廊下、食堂と飾られていない場所を探す方が難しいくらいです。


見張られているようで落ち着かないのです。

鏡の前にいるときに、何かの気配を感じる!と思ったら、鏡に写った陛下の肖像画だったり。もうホラーです。

寝室、浴室、脱衣場、御手洗いへの設置はもちろん反対しました。おかげでその分が別の場所に飾られてしまうという悪循環。一部屋に四枚飾られているとまるで結界を張るお札のように思えます。

陛下が美形なのがせめてもの救いですが、限度というものがあります。


いい加減嫌気がさして、侍女たちへの説得が成功したのが今日だったのです。

陛下の許しなく肖像画を撤去できない、と侍女たちに泣きつかれてしまいました。私も彼女たちを困らせたいわけではないのです。

ですからとりあえず肖像画を裏返しておくことにしました。手の届かない高さに飾られているものも多く、椅子にのぼって裏返していたのです。

陛下がおいでになりそうな時だけ、陛下が来られる場所の絵を戻しておこうと思ったのですが。


バッチリと陛下に見られてしまいましたね。

ここはもう腹をくくるしかありません。



…そうだ。

アレを試してみましょう。


実家から連れてきた侍女が言っていました。お願い事があるときは手を握って上目遣い、目を潤ませて視線をそらさない。それで陛下はイチコロです、と。

そんなまさか、と思いますが、もののついでです。試してみましょう。


「陛下」


陛下の手をとり、そっと私の頬へ押しあてます。…初めて私から陛下に触れたかもしれません。指先がひんやりしていて気持ちいいです。

以前見た舞台で主演女優の方が、確かこんな感じの台詞をおっしゃってました。パクらせてもらいましょう。



「ーーーいくらたくさんの貴方様の面影があったところで、私の心の隙間は埋まろうはずもありません。貴方様を思い出して、余計に淋しさがつのるばかりです」

ここで陛下を覗きこみ、ぱちぱちとまばたきしてみました。

「たくさんの肖像画よりも、わたくしにはたった一人、本物の貴方様がこうして居てくれればそれで満たされるので…ぐぇっ」


苦しい!あばらが折れます!窒息しそう!


万力で締めつけるようにぐいぐいと抱きしめてくる陛下。ギブ!早く離してー!


「そなたの想い、良くわかった。そなたが私のことをそのように思ってくれていたとは」


陛下の胸板を押して、ようやく呼吸ができるほどの隙間を作りました。殺す気か!


「今日はもう行かねばならぬが、そなたの希望通りになるよう善処しよう」


軽く私の頬に口づけて陛下は去っていかれました。今日もなんだか陛下からはいい香りが……じゃなくて。

一体何をしに来られたのでしょうね、陛下は。

そして、あれだけでちゃんと伝わったのか、ものすごく不安です。



……と思っていたら。

その日の内に、飾られていた肖像画は全て撤去されました。

大成功です!

これで私の精神衛生上の不安は取り除かれました。


侍女の言っていたおねだりの仕方も成功でしたし。

てか陛下ちょろすぎます。あれくらいでホイホイお願いを聞いてたら切りがないと思うのです。国が傾かないか心配です。陛下を支える宰相さまや大臣さま、頑張って下さい。




翌日。

また陛下がいらっしゃいました。


座る距離が近い!

昨日までは一人がけの椅子に向かいあって座っていたのですが、今日は三人がけのソファーに二人で座らされました。余裕があるはずなのに陛下がぎゅうぎゅう詰めてくるから狭いです。横にある一人用の椅子に座ったら駄目でしょうか。


そしてありがたくないお土産。

ふつうサイズのたくさんの肖像画がなくなった代わりに、一枚、等身大の陛下の肖像画が搬入されました。

えー。

要らない………。

妙にこっち目線になるように設置してありますし。

異様にリアルに描かれています。陛下いわく「私の絵の中でも一番忠実に描いてある」のだそうです。

本物の陛下に監視されてるみたいです…。

絵に覆いをかけてはいけませんか?



あれ以来、前にも増して頻繁にこちらにお見えになるようになってしまいました。

とっさに選んだ台詞が大失敗だったと気づきましたが、後悔先に立たず。

肖像画は気持ち悪い。

陛下は面倒くさい。



はぁ、どっちもどっちのようです。




当初の設定を外れ、おかしな方向に突っ走る陛下に、作者は大層不安を感じます。国王としてはそれなりに立派ですが、側妃さまを相手にすると壊れ気味、ということで。

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