表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
側妃さまの目論見  作者: 華霜
番外編
19/20

マチルダのこれまで

筋肉至上主義の方がいらっしゃいましたらスミマセン。あくまでマチルダ個人の考えです。

わたしは基本的に男が苦手だ。


特に筋骨隆々として「男」が全面に出ているような野郎はもってのほかだ。

偉そうなのも、髭や体毛が濃いのも、頭髪が薄いのも、腹が出ているのも、女を見下しているのも、チビすぎるのもデカすぎるのも、大食なのも、足が臭いのも体臭がキツイのも、デリカシーがないのも、優しさや気配りがないのも嫌いだ。


要するに、早い話がこの世に生存している男の大半が嫌いなのだ。例外はごくわずか。



原因はわかっている。

家庭環境だ。


我が家は代々由緒正しき軍人の家系だ。

下級貴族の末席に名を連ねていて、一族の男子はもれなく国軍に入隊すべし、という不文律がある。

女子はさすがに国軍に入隊まではしなくていいが、男顔負けに叩き込まれる。

わたしの場合は棒術と、接近戦を想定した護身術だ。

それこそ物心つく前から、男女の別なく訓練された。


汗まみれのむさい男どもに揉まれ、厳しい現実を目の当たりにし続けた結果、当然のようにわたしは男に夢を見ることを諦めた。

というよりも悟った。

この世に物語に登場するような美麗で華麗で女心を撃ち抜くような王子さまなど存在しないのだ、と。




むさ苦しいとしか言い様のない現実からの反動だったのか、綺麗なレースや小物に大変胸がときめいた。

最初は小遣いを貯めて可愛らしい柄の端切れや糸を買っていた。

次第にレースを編むことを覚え、刺繍をたしなみ、型紙をおこして衣服を仕立てあげられるようになった。

楽しくて楽しくて夢中になって取り組んだ結果、プロ顔負けの腕前までなれたと自負している。

実際に街の有名な仕立て屋からもレースや刺繍を納入して欲しいと声をかけられたくらいだ。

貴族が仕立て屋で稼ぐなんて、と良い顔をしていなかった家族も、わたしが作ったものが割と高額で飛ぶように売れ家計の足しになると知ると、黙認してくれるようになった。


家族としては、武勇に名高い有望な婿を迎えて欲しいのだと思う。

それはわたしも感じていた。

でも無理だ。

家族が推すようなムッキムキの男が嫌で嫌で仕方ないのだから。

会話を成立させる気にもならないし、同じ空間で同じ空気も吸いたくない。

そんな相手と結婚なんて論外だ。

触れるのも遠慮したいのに、夫婦として肉体関係を持たねばならないなんて拷問にも等しい。



そんなわたしだったから、父から呼ばれた時に一も二もなくその話に乗ったのだ。



「国王陛下がご正妃にと考えていらっしゃる寵姫さまの護衛にと、お前をご所望だ」



護衛と聞いて納得した。

男の護衛ではお姫さまに対して不都合なこともあるのだろう。

女なら、男が同伴できない場所でも護衛が可能だ。

そしてこの国には女の軍人はほとんどいない。

そこそこ定評のある軍人一家なので、女でも武術の心得があるのはそれなりに知られている。そのあたりから白羽の矢がたったのだろう。


わたしが護衛を引き受けたのは立場上断れないというのが第一の理由だ。

だがしかし、わたしにとってとても魅力的な事実に気づいてしまった。

一度気づいてしまった以上、わたしはその考えにとりつかれてしまい、もう他には見えなくなった。




ご寵姫さまの側に仕えれば、最高級の衣装の数々を間近で見ることができる!

上手くやれば直接手に取ったり、もしかしたら衣装の制作に関われる糸口をつかめるかもしれない!



そんな下心に後を押されてわたしはご寵姫さまである側妃さまの侍女になった。



いざ後宮に行ってみれば聞いていた仕事内容には若干の齟齬があった。


「側妃さまを危険から守る」のが業務内容と思っていた。

現場についてみると、「側妃さまの突拍子もない行動と逃亡を、側妃さまに気づかれずに阻止する」が正解だった。



……………??


上役である女官からざっくりとそう言われたが、意味がわからない。


正妃になるのがほぼ確定していてカウントダウンがはじまっているほどのお姫さまなのだ。

蝶よ花よと大事に大事に育てられ、この国を代表する美男子と名高い陛下のお心を射止められたほどの深窓のお姫さまなのだ。

か弱いお姫さまを警護するならともかく、行動を阻止するとはこれいかに。



女官からは側妃さまの衣装担当になるように申し付けられた。持ち込んだ刺繍を見せてアピールしたのが良かったのかもしれない。

基本業務が護衛(?)なので自然と側妃さまの側にいる時間は長くなる。

建前上普通の侍女として側に仕えるため、わたしの仕事は多岐に渡った。

主に被服だったが。

側妃さまの衣装を他の侍女と共に選び、着付け、なんと側妃さまの持ち物に刺繍を施す許可も得た。しかも側妃さまに刺繍を教授することになった。


側妃さまは繕い物は非常に得意でいらっしゃる。

針さばきはプロ並みだ。花嫁修行の一環としてだいぶ練習されたのだと思う。

思っていたが側妃さまは「傷口を縫うのに比べればどうということはありませんわ」とおっしゃっていた。

………?何かの例えだろうか。

それなのに刺繍は非常に残念、いやいや他の追随を許さない前衛的で斬新なモチーフで…これ以上言うのはやめておこう。




わたしの目から見て側妃さまは謎だらけの人物だ。



性格は穏やかで傲慢なところはない。

高貴なお姫さまなのに、自分のことは自分でやっておしまいになるので侍女の仕事がなくなってしまう。「私たちの仕事がありません」と懇願して色々とお世話させてもらっている。

よくはわからないが伯爵家のお姫さまとしては特殊な方のようだ。


後宮の隅にある木立に隠された離れで、まるで隠されるかのように暮らしていらっしゃる。

お茶会など開かれることもない。

夜会にもほとんど出席されない。

特に親しいご友人もいらっしゃらない様子。


その代わりとでもいうように、陛下が足しげくお通いになっている。

文字通り通っているだけ、なのだが。


お二人の距離は非常に近い。

四人は座れそうな長椅子に膝が触れあわんばかりに詰めてお座りになる。

もしくは陛下の膝の上が側妃さまの定位置だ。


そんな二人の表情こそ特筆すべきだろう。

陛下は常にしかめ面。無表情、そして会話は最低限。

だいたいが女性にかけるべき言葉とはかけ離れている。

例えば「今日のドレスはチカチカして目に悪い」だとか。ちなみに件のドレスは鮮やかなエメラルドグリーンだった。側妃さまの瞳に合わせたチョイスだったのだが、陛下の残念さにはがっかりさせられる。そこは誉めるべきところだ。

だから裏で残念陛下とか不憫様だとか言われるのだ。

見目がいいのに、侍女間で陛下の人気がないのはこの辺りが原因だ。駄目すぎる。


一方で側妃さまはというと、こちらもまた無言で無表情だ。

無我の境地というか、悟りをひらいたかのような達観した風に見えなくもない。

普段の側妃さまの朗らかさを見ているこちらからしてみれば、陛下を嫌いでいらっしゃるのかと思ってしまうくらいだ。

陛下からの全てのアクションを暖簾に腕押しとばかりにスルーされるのだ。




本当に不思議なお二人の関係。

将来の国王夫妻(予定)がコレで少々、いや大分不安に思っているのはわたしだけではないはずだ。


仲が悪いわけでもなさそうだ。かといって親密な様子でもない。

顔見知り以上、友人未満。

わたしが見た感じ、お二人を表現したらこんな評価だ。

本当に夫婦関係になられてもこの状態が続くとしたら、お世継ぎ問題とか山積しそうだ。


お二人を見守る関係者の溜め息が聞こえてきそうな気がする。



わたしはお二人、というより側妃さまが気になって仕方ない。

結果、側妃さまを護衛するという名目のもと、常に側妃さまのお側で一挙手一投足をつぶさに観察することになった。





お読みいただきまして、ありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ