側妃さまは王子さまになりました? 前編
「……………って話でしょ?」
「あれってやっぱり本当だったの。私も噂には聞いたことはあったんだけど、タチ悪くない?」
「ひどいわよね。あんなことされちゃ、まともな嫁ぎ先はもう見つけられないわ」
なんと?!
「しかも大金まで踏んだくられたんでしょ。家にある親の財産も持ち出して貢いだそうじゃない」
「私は悪質な金貸しに多額の借金して、毎日お屋敷に借金取りが押しかけてるって聞いたわ」
むむ……
「いくら見た目がいいからって、騙されちゃだめね~」
「そうよ。ちょっと優しくされたからって、簡単に身も心も捧げちゃだめよ」
「でもイケメンに優しくされたら、ぐらっときちゃう」
私だけではなく、皆さんイケメンには弱いようですね。
見た目が良いのはやはり得なのです。
「確かにぐらっときちゃうけど、気をつけないとね。特に金髪の男には」
「そうそう、金髪で体格のいい男性にはね」
「あーん、金髪で体格のいいイケメン!ぐらっと
いっちゃいたーい」
「あなたたち!いつまで無駄口たたいているの!」
「すっすみません」
「申し訳ありません!」
「早く仕事に戻りなさい!まったく近頃の若い娘は躾がなっていないわ」
注意を受けて若い侍女さんたちは慌てて去っていったようです。
いやはや、若いっていいですなぁ。
あ、私もまだ若いんですけど。
きゃあきゃあ言いたくなるようなイケメンが周りにいないのでトキメキが不足していると思われます。
…………陛下ですか?
イケメンには違いありませんが、好みではないので却下の方向でお願いします。
そう、私はカッコイイ系ではなくキレイ系がタイプなのです。見ているだけでテンション上がりまくりです。
それにしても、先程侍女さんたちが噂をしていた金髪で体格の良いイケメンとやらは、どなただったのでしょうか。気になります。
噂が本当ならば男の風上にも置けない最低野郎です。許すまじ。
名前を聞いたところで、社交界に疎い私は誰なのかさっぱりわかりませんけれど。
「…側妃さま、そろそろよろしいでしょうか」
「……………よろしくてよ」
通りすがりに聞こえてきた侍女さんたちの声に足を止めたまま、すっかり聞き入ってしまっていました。
私が立ち止まったものですから、お供をしていた侍女さんたちも待機せざるをえなかったようです。すまんすまん。
侍女さんに促されて歩を進めます。
ぞろぞろと侍女さんを引き連れていますが、仕方ありません。高貴な姫君とはそういうものらしいのです。
私は高貴な姫君ではありませんので必要ないと常日頃思っていますが、その度に無言の圧力で押しきられてしまっています。
さすが王宮勤めをされるような一流の侍女さん方は貫禄というか、威圧感が違いますね。熊でも殺れそうです。
その侍女さんたちの中の一人に新人さんがいます。
名前はマチルダさん。
私付きの侍女になってまだ日が浅いのです。
彼女は、多分衣装担当…?
何故疑問系かといいますと、私が着替えの際には常にマチルダさんがドレスやその他を準備してくれているのです。だから衣装担当だと思いきや、衣装の準備だけでなく、着替えもお手伝いしてくれますし、私が移動する際にはマチルダさんがかなりの確率で同行していることに気がつきました。衣装担当ならば、しょっちゅう同行する必要はありませんよね。
私の勘ですが、マチルダさんは、多分素人ではありませんね!
その道のプロではないかと思うのですよ。
あえて知らん振りをしていますが、歩き方というか、体重移動の癖というか、一般女性とは違いますね。剣術の訓練を受けた者特有の体捌きをしていると見受けられます。
さらに言うと、立ち位置はいつも無意識にでしょうが計算されていて、その場にいる全員の様子が伺える場所か、退路が確保できる場所をキープしています。
彼女は強敵ですね。
何のですって?
私がここを抜け出す時の邪魔になりそう、という意味でです。
彼女をうまく出し抜けるかが成功の鍵ですね。
そんなわけで、私は日々彼女をそれとなく観察しているのです。
そんなマチルダさんと私なのですが、先日ちょっとした出来事がありました。ドレスの裾を踏んで転んだ拍子に頭をぶつけて特大のたんこぶが出来てしまったのです。確かにつまずいたのは私ですが、それというのもマチルダさんが私のドレスの裾を踏んでいたのに加えて、ツルツルに磨きあげられた床と姫ぎみらしい踵が高い華奢な靴を履いていたために、受け身も取れずに無様に転んだという次第なのです。
頭をぶつけた拍子に意識が朦朧としていたようで、気がついた時に陛下が私の寝台の上にいらしたのには本当に驚きました。
乙女に対してなんてハレンチな!
一応、旦那さまですが。
身も心も清いままですので、乙女という表現は間違っていませんよ。
…で、私が転ぶ原因となったマチルダさんには、私が処罰を決めるよう陛下からお達しがきました。
おかしいですよね。
よくわかりませんが、こういう処罰はマチルダさんの上司である女官さんだとか侍女長さんが決めるものなのではないのでしょうか。
少なくとも私はそう思ってしました。
はっ。
もしや「陛下の寵姫であるワタクシに怪我をさせるなんて言語道断ですわ!一族労党打ち首にしてくれるわ!!」という小説の中のワガママお姫さまのように振る舞うことを期待されていたのでしょうか…?
………そんなこと、私には無理です。
てか、後宮怖ぇ。
皆さん顔には出さずに裏で色々な駆け引きをされているようで、腹の内を探りあうのは当たり前です。
それが必要な場合もあるとわかってはいますが、私は馴染めませんね。
私はマチルダさんを解雇したいわけではありません。
私のドレスの裾を踏んでいたのは事実で、尚且つ、「うっかり」ではなく「わざと」踏んでいたのだとしても。
理由が知りたいですね。
仲良くなれればそのうち教えてもらえるのでしょうか。
マチルダさんは仕事ぶりは真面目で、要領もよく気が利きます。そのきびきびとした動きは見ていて気持ちがいいです。
要するに私はマチルダさんを気に入っているのですよ。
辞めさせるなんて問題外ですし、体罰もどきの罰も私の心情的に無理です。
かといって、例え私が気にしていないにしても、全くのおとがめなしというわけにもいきません。
仮にも側妃である私に粗相をしたのですから、多少なりとも罰は必要らしいです。周りにも示しがつきませんしね。
で、悩んだ結果、私がマチルダさんにやってもらう処罰が決定しました。
「側妃さま、こちらでございます」
案内された部屋に足を踏み込んで、周りをぐるっと見回しました。
うわぁ~。
すごいキラキラしています!
王宮、しかも王族の方々の物とあって、言葉も出ないほどの絢爛豪華さです。
眼福です!
私はしばし言葉を失い、取り囲むキラキラとした光の中で佇んでおりました。
お読みいただきましてありがとうございました。
前話のどうでもいいような、ものすごく短いオチは、2014年年末の活動報告に載せております。びっくりするほどくだらないので、気になる方はご了承の上お読みください。
作者には武道の心得もなければ被服の知識もありません。イメージで書いておりますので、あまりにもおかしな表現があれば、ご指摘いただけると幸いです。




