最終列車
−神戸、12月24日18:00−
真美子はアパートのリビングに、料理とケーキ、そして和紀と二人で写った写真をテーブルに置いた。テーブルに頬杖をつき、写真を眺める。
「和紀さんは今日も仕事か。でも、和紀さんも会えないからな…。」夏の一件で、譲りあうことに気を使う。和紀も寂しいのだ。会いたくても、距離がそうはさせない。でも、どんな時でも、真美子のことは考えている。それだけでも嬉しかった。すると、携帯電話が鳴った。
「もしもし?」変わらない声で電話に出る。
「真美子か?俺だよ」和紀が外に居る事がわかる。
「一人か?」和紀が聞いてきた。
「一人ですよ。和紀さんはお仕事ですし」ちょっとすねた感じで答える。でも、悪気はない。
「そうかぁ。いやぁ、もうすぐホテルに着くよ。今日はクリスマスで結構いっぱいなんだって。」
「そうですか。和紀さんもお疲れ様です」
「あ、ホテル着いた。チェックインするから待ってて」わかりましたと返事をし、電話を切る。すると真美子の家のインターホンが鳴った。真美子が返事をし玄関へ向かった。
「えっ?えええーっ!」ドアスコープを覗くと、そこには和紀の姿があった。来るはずの無い和紀の姿があった。真美子はロックを解除して、扉を開けた。確かにそこにいるのは、和紀の姿である。
「メリークリスマス。ちょっと早かったかな?」和紀はにこやかに真美子を見つめて言った。
「ど、どうしてここにいるんですか?」真美子はあっけらかんとした顔で和紀を見つめた。
「俺、出張とは言ったけど、神戸に来れないとは言ってないだろ?」
「あ…。そうでしたね…。」
今回、出張というよりかは、重要書類を支社に届けに行っただけで、後はフリータイムだ。そこで、クリスマスプレゼントを北海道で受け取ることにしていた。そのプレゼントは、二人にとって思い入れの深いものになるかも知れないからだ。和紀は小樽へ向かい、あるものを受け取りに行った。飛行機で東京に戻り、今回のメインとなるものを受け取りに行った。真美子には、出張に行くとは言ってはあったが、会いに来れないとは言っていなかったのは事実だ。
「和紀さん、嘘つき」真美子が和紀に抱きつく。
「ごめん。だけどさ、会えないと思っていたけれど会えたら嬉しくないか?」真美子を抱きしめる力を加える。
「はい。嬉しいです」真美子は和紀の唇にキスをした。
「さてと、身も心も温まったところで、今夜のホテルにチェックインしますかね」和紀がおどけて見せた。
「ごめんなさい…。和紀さん。入ってください!」そして二人の時間が始まった。
−シンデレラ・エキスプレス発車まで−
「乾杯」二人はグラスを合わせ、シャンパンを口にした。静かに流れる時間が、無言の二人を包む。和紀が、おもむろに紙包みを取り出した。
「これ、プレゼントね」真美子は嬉しそうに受け取った。開けていいですか?と一言聞き、包みを開いた。
「もしかして…」
「そう、ニポポ人形だよ」
網走刑務所でよく販売されているニポポ人形。実は北海道に行く前にネットで検索して、予約しておいた特注品である。人形の裏側に名前を彫ってもらったのだ。このニポポ人形は昔から幸せの人形として良く知られている。真美子がたまたま書店で見つけたガイドブックに載っていたのを見つけ、欲しがっていたのを思い出したからだ。しかし、もう一つプレゼントがある。それは、帰りに渡すつもりだ。一生のプレゼントになるだろうもしかしたら…。
「じゃあ、和紀さんへのプレゼントです」
真美子はネクタイをプレゼントしてくれた。先日、ネクタイが破れてしまったのだ。もう、数年も使っている安物だからだ。その話を電話でしたことを思い出した。
「有難う。嬉しいよ」和紀は真美子の顔をじっと見つめた。「恥ずかしい…和紀さん…」二人はそっと寄り添い、クリスマスの夜を楽しんだ。
25日午後8時40分。和紀の心臓はいやがおうでも鼓動が早くなる。イルミネイションに彩られた新神戸駅前にやってきた。本来なら最終ののぞみで東京に戻るのだが、今回は1本早い列車で戻る事にした。ホームに上がり、列車が来るのを待っていた。真美子は和紀の温もりを味わうかのように、寄り添う。程なくして、列車が到着するアナウンスがホームに響き渡った。
「真美子、そろそろ行くよ。あ、そうだ。もう一つクリスマスプレゼントがあるんだ」和紀はかばんを開けて、包装された箱型の物を真美子に手渡す。真美子が開けようとしたが、
「開けちゃ駄目。俺が列車に乗ってから」と止めた。列車がホームに進入し、扉を開けた。
「それじゃ、真美子」和紀は真美子を抱きしめて、キスをした。いつもとは違うキスだと言う事は、真美子にもわかった。扉が閉まるアナウンスがかかった時、和紀はある一言を口にした。
「真美子、俺はずっとお前と一緒にいたい。結婚しよう。それじゃ」と言い残し、扉が閉まった。真美子はあっけにとられてしまい列車を見送った。
(そうだ、これを開けなくちゃ)真美子は慌てて、包みを開いた。そこには、オルゴールが入っていた。オルゴールを開けると、中から手紙と、指輪が入っていた。更には、新幹線の切符も添えられていた。手紙を開き、真美子は涙を流した。
(真美子へ。俺は心に決めた。真美子とずっと一緒に居たい。そして真美子を幸せにしたい。それをこのオルゴールと、指輪に気持ちを託した。もし、OKならばこの後ののぞみで東京に来て欲しい。東京駅で待っている。和紀)
真美子は、新神戸駅のホームで泣きじゃくった。
―東京・23時35分―
和紀は駅のホームで一人佇んでいた。この後ののぞみを待っていた。真美子が乗っていなければ、この関係も終わってしまう。和紀は、気が気でなかった。
ホームに、最終ののぞみ「101号」が到着することを告げた。列車は定刻どおり東京に到着した。和紀は真美子の姿を探す。しかし、その姿は見つからなかった。
しばらくして神戸。
和紀は神戸支社の役職に付くことができ、真美子と婚約した。確かに真美子はのぞみ101号から東京駅に降り立った。そして二人は結ばれた。年明け1月1日に婚約届けを提出し、しばらくは遠距離恋愛を続け、4月に和紀は神戸に転勤となった。1月1日にしたのは、のぞみ「101」号にちなんでの事だ。
二人を乗せたシンデレラエキスプレス。それは、二人を結んだ中間の最終列車であった。
-完-
私の話を読んでいただき、有難うございます。もう少し長続きさせようかと思っていましたがどうやら限界が来たようです。
まず、今回「シンデレラエキスプレス」(以下シンエキ)というものについて話をしたいと思います。現在の30代以上の方で東海地区に住んでいる方なら知って見えるかと思いますが、とあるCMを題材にしたフィクションです。正直なところ、昭和です。まさに今ほど携帯電話が発達していない頃の時代を背景に描きました。列車の号数は出鱈目です。
しかし、私は時代に逆行してこんな物語を描きたいと思っていました。今なら手軽にメールや個人で使える電話がありますが、昭和の時代はそんなものはありません。この伝説を残したく思いました。
私は少し不便だっていいと思います。寧ろ冷たい社会だからこそ、温かい文化があってもいいと思います。シンエキは遠距離恋愛を題材にしています。必ずどこかに幸せはある。私はそう願って止みません。最後に、駄文に付き合っていただいた皆様に感謝いたします。本当に有難うございました。現在、ノクターンの方でこの裏バージョンを書くつもりです。また、アイデアが浮かぶ限りは他の題材で書きたいと思っています。
今後とも、宜しくお願い申し上げます。
湯國温太郎




